【花の部屋】
コバイケイソウ

〔コバイケイソウ*白山〕
 コバイケイソウは見栄えのする花だ。

 環境の厳しい高山に生えている花たちは、だいたい地面にへばりついているような丈の低いものが多い。しかしコバイケイソウはよく伸びたものだと1mちかくにもなり、遠くからでも目につく。さらに、大きな緑の葉の上に白い小さな花がブラシのようにびっしりとついた花柄が伸び上がり、しばしば湿地に大群落をつくるから、目立つことこのうえない。群生の見事さでは、ニッコウキスゲと双璧だろう。

 コバイケイソウは本州中部以北の亜高山帯から高山帯の湿地に生えるユリ科の多年草で、6月後半から7月に高山の残雪の周りの草地や高層草原を歩くと出会うことのできる、山の花の常連である。花のつき方も独特で、まっすぐ立った頂枝には両生花、側枝には雄花がつく。したがって側枝には実がつかない。

 山を歩き始めて数年後に、ヒメサユリを見に浅草岳に登って、大きな雪渓の際で初めてこの花に出会った。白い大きなブラシを立てたような独特の形が強く印象に残った。

〔コバイケイソウ*浅草岳〕 〔コバイケイソウ*白山〕

 このときは数株の花が並んで咲いていたが、数年後の7月、白山では大群落を見て感動した。山頂付近にも群れてよく咲いていたが、中腹の弥陀ヶ原ではいちめん見るかぎりコバイケイソウの花で埋まっていた。白山といえば、クロユリやハクサンコザクラなど、数多い高山植物の群生で有名だが、とりわけ私の印象に強く残っているのはコバイケイソウだ。

〔コバイケイソウ*白山弥陀ヶ原〕

〔コバイケイソウと黒部五郎岳〕

 折立から太郎平小屋に登り、黒部源流の山々を歩いたときのコバイケイソイウも見事だった。とくに黒部五郎岳の山頂から黒部五郎小舎に至るカールの中は見渡すかぎりコバイケイソウの群落で、この年はコバイケイソウの当り年だったらしい。

 コバイケイソウは大きな草だけに、芽生えてから花が咲くまで6年ほどかかるという。また、数年に一度のわりで当り年があり、周期は3年だとの説がある。さらに10年周期で大群生を形成して咲くとの説もあるから、私が黒部五郎岳で見た群生は幸運にも10年に一度の当り年に巡り会えたためかもしれない。

 なぜこうした当たり外れの激しい花の咲き方をするのだろうか。花は毎年咲くと地中の養分をかなり摂取するので、数年に一度しか大咲きしないという説がある。丈の高い大型の植物が、見事な花をつけて見渡すかぎり群生すれば、たしかに地味の貧しい高山では養分が不足するかもしれない。そうだとすると、種を栄えさせるためのコバイケイソウの知恵かもしれないが、その年の天候の具合によって咲き方が違うという説もあって、私にはどちらが正しいのかわからない。

〔コバイケイソウと白馬岳*小蓮華山〕
 どちらにしろ、草原いっぱいに広がるコバイケイソウの白い花群は見事なものである。大きな花だから一輪でも絵になるが、コバイケイソウはやはり群生が素晴らしい。さらには、ピーカンの晴天の下で見るよりも、霧が流れるしっとりした風景の中で眺めた方が数段花が引き立つ。

 低山帯にはコバイケイソウと葉がよく似たバイケイソウが咲く。丹沢の林の中ではどこにでもよく見られる花だ。若芽の頃は判別が難しいが、花が咲けば一目瞭然。バイケイソウは長い花柄が二本伸び、やはり白い花を咲かせるが、花の美しさではコバイケイソウがはるかに勝る。

 コバイケイソイウもバイケイソウも、若芽の頃は食用になるギボウシと似ていることから間違えられることがあるが、こちらは有毒植物。根茎にアルカロイドを含む有毒成分をもっていて、ときどき中毒事件を引き起こす。食べると嘔吐、血圧低下、手足のしびれなどが起きるというから、いくらうまそうに見えてもうっかり手を出さないことだ。

 バイケイソウの名前の由来は、花は白梅、葉は尢磨iケイラン)に似ていることからつけられたということで、漢字で書くと「梅尅吹v。コバイケイソウはバイケイソウの小型版ということだ。

 このコバイケイソウ、丈も大きく、花も見栄えがするだけに、恰好の写材になる。2、3株咲いているだけでも、花を前景にバックの山を写すと、いかにも夏の盛りの高山の雰囲気が出る。

(2003年7月12日)



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