〔No.27〕


山で泊まる:キャンプ編



 我が家のキャンプスタイル

 キャンプ編といっても、キャンプが主目的ではありません。これから書くことは、あくまでも犬と山歩きをするために山小屋やペンションなど宿泊施設を使わずにアウトドアで一夜を過ごすための我が家の方法です。したがってどなたにもできるというわけではないことをあらかじめお断りしておきます。オーソドックスにキャンプをしたい方は、キャンプに関するテクニックあるいは犬連れで利用できるキャンプ場等の情報を参考にしてください。

 といっても特別難しいことをするわけではありません。やろうと思えば誰にでもできることです。

 まず、我が家はちゃんとしたキャンプ場を利用しません。なぜか。

 これはきわめて個人的な価値観の問題で、我が家はキャンプ場、特にオートキャンプ場が好きでないというに尽きます。なぜ好きではないかというと、第一に周囲に人が多い。私は単独で山を歩くことが多く、山は一人ないしは少人数で静かに歩くのがいちばん楽しい。犬を連れて山を歩くようになってからは特に、できるだけ人の入らない山、人の入らないコース、人の入らない時期、人の入らない日時を心掛けて計画を立てています。犬が嫌いな登山者も多いので、山中でほかの登山者に出会わないほうがよけいな気遣いをせずに山歩きを楽しむことができる。この延長で、山で泊まる場合もできれば人の集まらないところで泊まりたい。キャンプ場を利用すると、やはり隣近所への気遣いが必要になる。山に来てまでこういう気遣いをしたくないのです。

 第二に、山に泊まる場合、あまり文明の便利さに頼らず、できるだけ自然のままに一夜を過ごしたい。シャワーや電気が使える場所でキャンプをする気になれないのです。不便だからこそ楽しいということもあるのです。そしてできれば明かりひとつ見えず、人声など一切しない、漆黒の闇の中で心をのびのびさせて夜を過ごしたい。

 となると、キャンプ場はもちろん、車中泊で利用する観光地や道の駅の駐車場などもできれば避けたくなります。

 もっともこういうスタイルでキャンプをするには、価値観の問題のほかに、明かりひとつ見えない、静まり返った夜の闇を恐れない、ということが条件になります。私はこういう夜が好きですが、人けのない真っ暗闇は苦手という人もいるでしょう。

 計画・適地

 そんなおあつらえ向きのキャンプサイトがあるかというと、行き当たりばったりでは簡単に見つけることはできません。車中泊なら適地がなくてもどこかに駐車して寝てしまえばすみますが、テントを張るとなるとそうはいきません。計画段階で、登山地図や道路地図を総動員してここはと思う場所を複数選んでおきます。初めての場所は、そこでキャンプができるかどうかは現地へ行ってみないとわからないことが多いため、ここがダメならあそこと、複数の候補地をもっていないと夕暮れの中でうろうろすることになりかねません。

 ではテント泊の適地はどんな条件の場所か。

 第一に当日の下山口と翌日の登山口を結ぶどこかにあると、いたずらに車を走らせることがなくて便利です。できれば翌日の登山口の近くがいい。朝、テントを撤収して食事を済ませれば、車を移動させることなく山に入ることができます。

 キャンプサイトまでのどこかに立ち寄りの温泉があることも必須条件です。今は温泉ブームで、こんなところにと思うような場所にも立ち寄り湯があります。地図やインターネットで事前に調べておけば、見つからないことはまずないでしょう。

 犬は音に敏感です。できれば夜になっても車が通行するような道路から離れている方が、騒音に煩わされずに人間も犬もゆっくり休むことができます。

 キャンプ地でないところにテントを張って、知らない人間に近づいてこられるのはやはり不安です。キャンプをしない人間が簡単に入ってこられるところは避けたいものです。

 トイレと水があるかどうかも重要な要素です。水はなくても、事前に準備しておけばいい。しかし近くにトイレがないと、キャンプサイトを汚すことになります。

 こういう条件を充たす適地となると、やはり登山口の駐車場です。日中多くの車で混んでいる登山口の駐車場も、午後遅くになるとみんな下山して、夕方にはほとんど車はいなくなります。

 これにくわえて、雨の中でテントの設営をしたくなければ、付近に屋根のあるところ、たとえば無料休憩所や東屋が近くにあればいうことなしです。

 もちろん、夜間就寝中の豪雨などで設営地が危険になる河原などは絶対避けねばなりません。

 道具

 では、キャンプで一夜を過ごすためにはどんな道具が必要か。

 滞在型のキャンプと違って、山を歩くための登山口でのテント泊ですから、我が家の場合、キャンプのための道具はあまり凝りません。必要最小限の道具で、一夜を過ごすことができて、食事ができればいいと考えています。以下に我が家の道具類を紹介しますが、もっと快適にキャンプを楽しみたい方はキャンプに関するサイトをご覧ください。

■ テント

 登山をメインに考えたテント利用の場合、もっとも大切なことは設営・撤収が簡単なことです。特に日中の行動時間が短くなる秋などは、山を降りてくると間もなく日が暮れて、手際よくやらないと暗いなかでテントを設営する羽目に陥ります。また、翌日の行程が長い場合には、朝もできるだけ早く撤収を済ませて山に入ることが必要になるケースが多くなります。滞在型のキャンプと違って、登山の場合はテントは一夜を過ごすためのものですから、設営・撤収の時間を短くしたいものです。

 また、天幕山行とちがってテントは車で運べばいいわけですから、重量を気にする必要はありません。

 ただし広さを含めた居住性が良好であること、雨に強いことなどは大切な要素です。

 我が家は人間2人と犬1頭ですから、このパーティーがのびのび足を伸ばして快適に一夜を過ごすことができるものという条件で、220cm四方のドーム型のテントを使用しています。

 夕方設営して早朝に撤収してしまうので、タープなどは使用しません。

■ シュラフ(寝袋)

 シュラフは昔から山で使っているスリーシーズン用を使用しています。スリーシーズン用のシュラフで寒い場合は毛布を併用します。これでも寒い場合は、山中で一夜を過ごす場合と同じく、できるだけ着込めば、寒くてよく眠れないなどということにはなりません。私は冬山用のシュラフカバーを持っていますが、これを使うまでもありません。

 もし新たにシュラフを買う場合は、封筒型を使うことも検討した方がいいかもしれません。封筒型は広げて布団のように使えるし、二つつなげて二人用として使用することもできます。

 封筒型の欠点は防寒機能が低いことでしょう。しかし封筒型のシュラフに犬と一緒に寝れば、寒さ知らずで一夜を過ごすことができます。

■ コンロ

 登山がメインのキャンプでは、とにかく手際よく物事を運ぶことが大切になるので、我が家では食事も家庭用の卓上ガスコンロ一つですませてしまいます。多少味気なくなりますが、焼肉などもバーベキュー方式ではなく、このコンロを使った鉄板焼き方式でやります。水もごみ捨て場もないキャンプ地以外のキャンプサイトでは、食事によって出る大量のごみや炭の始末ができないからです。

 キャンプ地は風があることが多いので、山で使う風防の覆いをコンロの周りに立てると、熱効率が低下しません。

 ガスコンロはライターひとつで簡単に点火できるので、迅速な行動をしたい山の中の熱源としては最もすぐれています。ただし、気温が低い場合は、ガスの残量が少なくなると火力が極端に弱くなります。予備のボンベは必携です。

■ 照明

 ほんとうなら「ランタン」と書くところでしょうが、我が家はランタンを使ったことがありません。もともと天幕山行やキャンプをやらなかったので、テント使用の山歩きをはじめたとき、照明は家にあるポータブルな蛍光灯を使い、べつに不都合はないので今日までそれで通しています。

 この蛍光灯、とても明るいので真っ暗闇の中で食事をする場合も便利です。テーブルに立ててもよし、頭上に枝があればSカンで吊るしてもよし。テントの中でもこれをSカンで吊るして使います。ガソリンやガスを使うわけでもないので、安全かつ持ち運びに便利です。

 食事の支度等で暗い中をうろうろしなければならないときは、これに登山用のキャップランプを併用します。とにかく今あるものを利用して、軽やかにキャンプしてしまうというのが我が家のスタイルです。

 もちろん、ランタンを使うこともいいでしょう。ランタンの明かりは暖かく、アウトドアフィールドで使うにはなんとも味わいがあります。

■ クーラーボックス

 我が家では市販されているキャンプ用のクーラーボックスも使いません。以前使ってあまり使い勝手がよくなく、保冷能力が低いのでやめました。

 その代わり、八百屋や魚屋で使っている発泡スチロールの箱を利用しています。車の脇にテントを張り、そこで食事をするわけですから、持ち運びはあまり考えなくてもいい。

 この発泡スチロールの箱を、大小二つ車に積み込みます。大は夕食以後の食材用。小は当日山中で使う食材を入れ、登山口で登山用のクーラーケースに入れ替え、ザックに詰めます。こうすると、夕食用のクーラーボックスを日中に開けずにすむので、暑い時期など冷気を逃さずにすみます。

■ 椅子・テーブル類

 これらの道具はほとんど使いません。食事の支度は発泡スチロールをテーブル代わりにし、その前にキャンピングシートを広げて山のスタイルで済ませてしまいます。これで別段不自由を感じません。道具が多くなると準備も片付けも手がかかるので、簡便スタイルでキャンプをしようと思うとこういうスタイルになったわけです。

 雨に降られたり寒い時期には、外で炊事をしてテントの中で食事をします。

 もっとも、テーブル・椅子類が不要だと思っているわけではなく、我が家の車がステーションワゴンでこうしたかさばる道具を積めないことも、こういうスタイルになった原因の一つです。

 食事

 これまででお分かりと思いますが、我が家のキャンプはライトスタイルが基本ですから、時間をかけて凝った料理は作りません。天幕山行の場合とほとんど変わりないといえるでしょう。

 ただし車のそばでテントを張るわけですから、食糧を背負い上げる天幕山行にくらべて、食材の重量を気にしなくていい。水もたっぷり使えます。

 食事は食べたいものを作ればいいわけですが、我が家の場合、あまり寒くない季節だと、夕食は焼肉、スキヤキ、ヤキソバなどがメインになります。寒い時期は鍋物がやりたくなります。鍋物の最後にはうどんや餅が入ります。

 食材は、事前に下拵えをしておくと世話なしです。

 クッキングとメニューについては「クックハイクの勧め(1)」「同(2)」を参考にしてください。

 こうしたメインディッシュの他に、生野菜、漬物、酒の肴などが並びます。よく冷えたビールに、スープと食後のコーヒーや果物が出れば、野外の大宴会の気分満点で、ほとんどいつも充分満足して食事を終えます。人のいない森や野原での食事は、この程度のものでもとても豊かに感じられます。

 犬の食事は普段と同じものをクーラーボックスに入れてもっていき、人間の食事の前に与えます。

 飼主によっては、犬には人間の食べ物を一切与えない主義の人もいますが、私はだらしない飼主で、"遠足"に来たときぐらい犬も一緒に食事を楽しんでもいいじゃなかいと、犬にもすこしは相伴させます。

 朝食はテントを撤収したあと、やはり素早くすませます。夏でも早朝は涼しいので、湯を沸かして麺類をつくることが多い。パンの場合はコーヒーを沸かします。ついでに山中で使う湯を沸かし、白湯、コーヒー、紅茶などそのときの好みでテルモスに詰めておきます。

 宿泊

 キャンプサイトに着いたら、まずテントの設営に適した場所を選びます。できれば道路から離れた木立の陰など、車がそばまで入れて人目につかないところが落ち着きます。

 場所が決まったら、テントを設営してしまいます。テントを買ったとき、山道具屋の店員さんからアドバイスしてもらったので、テントの下に建築現場で使うブルーシートを敷きます。こうすると、テントが汚れないばかりか、雨になっても水が入ってきにくくなります。通常15分か20分もあれば設営完了です。

 ただしなにぶん正式なキャンプサイトではない場所が多いため、周囲に登山者や観光客が多く、堂々とテントを張ることに気後れがする場合があります。こういうときは先に食事を済ませてしまいます。

 暖かい時期で虫が寄ってくるようなら、蚊取り線香やアロマオイルの入ったキャンドルなどを焚くことも必要です。

 テントの中には銀マットを目いっぱい敷き詰め、この上にキャンプ用の小さな布団を敷きます。あとはシュラフと、状況によっては毛布を使います。犬はいつも家で使っている敷物を敷いてやります。こうすると、ここが自分の寝場所だと犬も分かります。

 こうして犬を真中に、我がパーティーは川の字になって寝ます。

 テントにはSカンで蛍光灯を吊るし、念のためキャップランプも持ち込んでおきます。そのほか必要なものが出てくれば、すぐそばの車に取りにいけばいいのだから気が楽なものです。夜中に車のドアを開け閉めしても、周りには誰もいないので迷惑はかかりません。

 犬の飲み水もテントの入口に用意しておいてやります。

 生ごみや食糧などをテントや車以外の場所に置いたままにしないようにします。こういことをしておくと、就寝中に獣がテントに近づかないともかぎりません。

 さて、静かな一夜が過ぎ、きっと夜明けとともに鳥の声で気持よく目が覚めることでしょう。まずテントを撤収し、荷物の整理と身支度をしながら湯を沸かし、朝食の準備にかかります。

 すべての作業が終わったら、もう一度あたりをよく掃除し、ごみ一つ残さずつぎの山に出発です。


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