1999年の東北
りあす式
現在の俺に関する簡単な説明。
俺は現在ついている職業(1998-)の都合で、基本的に連休というものが発生せず、ゆいいつ発生するのがあまり忙しくない盆あたりなのだ。
で、その連休を使って、まだ走っていない海岸線を自転車で走ろうと思ったのだった。
まだ走っていないのは、北海道と、青森から東京までの太平洋岸。沖縄を含む諸島。小浜から敦賀の間。気がついたらこんなことになっていた。ちなみに、これはまるで日本一周をしているようだ、と気づいたのは数千キロ走ってからだ。
日数的に北海道は無理なので、青森から仙台ぐらいまで走ってみようと思ったのだった。
さて、俺は仙台まで走れたんだろうか。
第一日(8/17)
むつ市⇒六ヶ所村
(83キロ) 朝6時。前日に東京駅を出た7台のバスが青森駅前に着いた。俺は4号車から降り立ち、折りたたみ自転車(ブロンプトン)を抱えて目の前の駅に向かった。
ぜんぜん寝た気がしない。俺は冷房が嫌いで、自宅の部屋には扇風機すらない。そんな俺に、クーラーガンガンに効いた車内でTシャツで一晩はきつい。筋肉痛とかそんなのではなく、なんか変な感じの、風邪をひきかけの時のような体の鈍い痛みとだるさ。
鉄道の発車時刻まで少しあったので、売店でサンドイッチと飲み物を買って、改札前で食った。大きな自転車と大荷物の、ほんもののサイクリストが数人いた。俺は彼らのより数回り小さい自転車とデイパックひとつだ。それに一人だ。
俺のほうがかっこいい。
7時12分発の特急〔はつかり〕6号
(3000番台のはつかりは485系とは思えないアコモ改造っぷりだった。リクライニングは背もたれとシートが別で可動するのだ)。で東北本線を野辺地駅へ。車内から友人に電子メールを送る。野辺地からは大湊線で下北駅(むつ市)へ向かう。キハ40は天井で扇風機が回っていて、クーラーに弱い俺にはありがたかった。さらにこの移動する車内でメールを送った。モバイルギア(NEC)をはじめてはじめて「モバイル」という用途に使えて単純に嬉しく、出発初日なのにやたらとメールを送った。 あ、日本通運の店だ。じゃあ、もしかして、2年前も、自転車を送り返すことができたんじゃないか、捨てる必要は無かったんじゃないか、もしかして……
えい、過ぎた事をうじうじ考えるのはよそう、今日から始まる楽しい旅のことを考えようぜ。俺は黙々と自転車を組み立て、荷物を荷台にとりつけ、旅仕様に変形させた。
もう出発できる。でも、とりあえず、シルバーがどうなっているのかを確認せねば。盗まれていてもそれでいい、使ってくれる人がいるという事だから。どっちかというとそのほうがいい。
自転車置き場を見て歩く。確かこのあたりに停めたはずだというところを見るが、ない。やっぱ盗まれたのかなと思いながらも未練がましくほかの場所も見てまわる。俺のマシンはシルバーの名のとおりサドルも銀色(グレー)で、すぐに見つかるはずだった。

シルバーとの本当の別れをすませ、出発。2年前は夜に走ったからかも知れぬが2年前より店などが多く繁華な感じがする。とはいえパチンコ屋や靴流通センターやハローマックだったりするので〔地方〕感は否めない。
9時半ごろ、大きめのスーパーでカロリーメイトや日焼けあとに効きそうなシーブリーズのアンティセプティックとかいうローションなどを買う。レジで、財布を自転車の前袋にいれて来た事に気づいて、待たせてとりに戻った。
P6
馬糞→
事前に立てた予定では、今日中に八戸市まで進んでいるはずだった。計算ではぎりぎり(時速10キロで0時まで走って、という計算)。もう少しここでのんびりしていようと思っていたのだがそういうわけには行かぬようだ。炭酸飲料を買って飲んで、走り出した。
いったん、むつ市街にもどって食料などを買ってから南へ進もうとも思ったが、それだと20キロばかり遠回りになる。それよりなにより同じ道を2回通ることの嫌いな俺は、そのままP248を南下することにした。
なんにもない道。
両側は林。
人も家も店もない。
晴れていた空にも暗雲が増えてきて、しだいに雨が降りだした。屋根的なものは何もないので雨宿りもできない。もちろん傘なんて持ってるわけない(勿論というのは恐らく俺だけのことであり、普通は持っているものだ)。木陰でパックカバー(これはデイパックに標準装備されていたものだ)を装着し、走りつづけた。聞いていたラジオは、北海道のラジオだった。ような気がする。
雨は止んだが人家は見えない。しだいに空腹感が圧してきた。よく考えたらなにも食ってない。液体液体それにゼリー。カロリーメイトは持っているがそれに手を出すのもどうかと思ったし、食ってから食物販売施設もしくは食堂を見つけたら悔しいので我慢して走る。
緩やかなアップダウンで両側は草原というかなんだろ、広場みたいなところの間を走る。なんかガサガサ生物音。なんだ、と見まわしたら馬。草を食む飼い馬の群れだ。飼い主だろうおっさんが地べたに座って馬たちを見ていた。なんつーかとても平和チックで幸せそうな光景だった。尻屋崎よりこっちのほうが馬がしあわせそうだった。
15時半をすぎ、ようやく県道が終わった。国道だ。R338だ。えらいもので国道に入ってすぐヤマザキクールデリカだ。ビバ国道。今まで三桁国道をバカにしていたがやっぱり県道とは格が違うな。
ソーセージやお握りやサンドイッチや飲み物を買って、店の外でもしゃもしゃと食った。食べ物というのはたいへん重要なものなのだなあ、とこれまでイヤというほど空腹で苦しんだことをすっかり忘れている俺は、また思ったのだった。
腹もくちくなりいい気持ちでスタート。海も近くなり、いい感じで走る。ただ曇っているのでなんか記憶は、じっさいの時刻より夕暮れなイメージだ。
ずるずると走る。今回、初めて速度計をつけての旅だったので時速がわかる。時速12キロくらい出てる。速いのか遅いのかわからないけど(遅いだろうけど走行時間が長いのでなんとかなってる)、このまま夜中まで走ればたぶん八戸には着くだろう、というペース。
17時。休憩の時間だ。自販機でスポエネを買った。どうも青森のコカコーラの自販機には夏なのに500ミリ缶がないのだ。そのわりには250ミリ缶が堂々と鎮座していて駅じゃねんだから、と思わされた。あろうことか500ミリペットボトル(140円)が販売機に居座っていた。だからしてスポエネ(ダイドー)の500ミリ缶はうれしかった。そういえばこのへんはダイドーの自販機多いなあ。
少し進んで海への坂道を下り防波堤に腰掛けた。砂浜はなくテトラポットだ。スポエネを飲んだ。サンダルを脱いで、デイパックを枕にあお向けになって空を見上げた。相変わらずの曇り空だ。海は東なので夕陽などは見えない。
久しぶりの自転車行で、身体には相当の疲労感がある。それが妙に心地いい。肉体を酷使する事で出てくるドーパミンとかそういう脳内麻薬的なものとは違い、もっと根源的な部分での心地よさだ。なんというか、自分の行動を決定するのはまったく自分の意思によるという今の状態に対する心地よさ。前日まで上司のもとで労働をしていたわけで、そのときは他人の意思により他人のために行動していたわけだ。仕事が終わって夜行バスに乗ったわけだが、これだって出発の時刻や到着の時刻を決めているのは俺ではない。今日の鉄道だってそうだ。他人の決めた時間割にしたがって俺が流れていただけだ。しかし今の俺は違う。俺が進みたいときに進んで休みたい時に休むのだ。頭と身体の相談のみで今後の行動が決定される。べつに今日中に八戸に着く必要なんてない。なんだったらこのままここで寝たっていいんだ。そう、俺が俺の責任で俺のために動いてるんだから誰に断る必要もないし誰の助言もありはしない。まったく俺だけの考えで動いているのだ。自動車やオートバイの旅は燃料やスタンドの有無で行動が決まってしまったりするかもしれないが、徒歩やサイクリングは全く自分だけなんだ。
うまく伝わったかわからないが、なんというか、そういう心地よさだった。
しばらくそうしていたのだが、曇天は俺に水滴を落とした。あ、また降るのかな、じゃあ屋根のあるところに移動しよう、など思いながら立ちあがり、帽子(ワッフルハット/モンベル)をかぶろうとして、無いことに気づいた。たしか途中で曇ってきたからショルダーストラップに挟んで、自販機の前で財布を出すためにデイパック脱いだんだ、あれだ、あのとき落ちたんだ。いま戻っても無いだろうなあ。ま、いいか、俺はものにココロが宿るなんて思っちゃいないし。
いやいや、ものにココロが宿ってないかもしれないけど俺にはココロが宿ってるじゃねえか。そう易々と買ったばっかのものを見捨ててどうするんだよ俺、と小雨のなか、来た道をハイスピードで戻った。
なかった。強い南風だったので、どこかに飛んでいってしまったのかもしれない。仕方がないので、もうひとつ持ってきていた帽子をかぶることにした(グァテマラキャップ/モンベル。なぜもう一つ持ってきていたのかは自分でもよく覚えていない)。
小雨の中じりじりと走りつづけた。一往、夏だから寒くはない。なんとかいけそうに思えた。あと数時間は。
と思っていたのだが風が強い。高校野球は地元高校の試合を放送していた。青森山田高校よ甲子園でがんばれ、俺も青森で頑張るから。
雨風はだんだん厳しくなってきた。そんなとき前方にバス待合所を見つけた。屋根も壁も戸もあるいい感じだ。近づくとその奥に大きめの公園が見えた。下方にトイレを見つけた(傾斜のある公園だった)のでそこへ下りてゆき、トイレに自転車ごと入った。屋根のあるところだ。ひとまず落ちついた。手ぬぐいで顔などをふき、Tシャツを脱いだ。雨は止みそうになかった。暫くそこにいたものの、やっぱりバス待合所のほうがいい。椅子もあるしな。
バス時刻表を見に行ったら、最終バスはもう出た時刻だった。じゃあ使っても迷惑はかからないな。自転車ごと待合所に入った。サッシ戸を閉めた。
ふう。
荷物を広げた。寝袋を広げた。濡れたシャツを着替えた。濡れた頭を手ぬぐいで拭いた。ようやく人心地がついた。
窓から外を見る。すごいなあ、暴風雨だ。そしてもう真っ暗だ。
ラジオでナイターを聞きながらウトウトして、気づいたらオールナイトニッポンが始まっていた。ナイターの結果は気になったがパーソナリティは野球のことには触れてくれなかった。
外を見た。雨は止んだようだった。しかしものすごい風だ。びゅーびゅーごーごー言ってる。広さ一坪ぐらいのできたてっぽい木の匂いのする待合所はきしんだ音を立てている。天気予報でも聞こう(LFは青森の天気を教えてくれまい)と携帯電話を取り出したら、圏外だったのであきらめた。

今日の目標には遠くおよばず。じゃもういいや、のんびり進もう。ノルマは無しだ。
出費/JR青森から下北特急利用(2620) シトラ・おにぎり・サンドイッチ(630/青森駅で) カロリーメイト・ウイダーインゼリー・シーブリーズ(834) おにぎり・サンドイッチ・カレーパン・ソーセージ・パック飲料(932) ぶどうのきれいな天然水・爽健美茶・天然育ち・スポエネ(460/2700ml+水道水)