11月ξ日 兎耳の隠れ家。

いつのまにやらもう晩秋。
拙者の住む東京下町の並木もずいぶんと色づき
竹箒で落ち葉を掃く人々の姿もちらほら見られるようになった。
こんな季節には外が好きな拙者も、喫茶店などに入ってみようかという気になる。
拙者のお勧め喫茶店はJR中野駅北口の少々わかりにくいところにある
「クラシック」という店である。
クラシック好きにはかなり有名な店だが、実際行ったことのある仲間は意外に少ないので
話の種に、と案内することもある。
まず、どこにあるのかよくわからない外装。
木造の傾いた建物に小さな看板がかかっている。
中に入ると、メニューはコーヒー・紅茶・オレンジジュースのみ。
入り口で食券を買って好きな席を探す。
そのときにレジの右手にある黒板を忘れてはいけない。
そこにかけて欲しい曲とその作曲家をちびたチョークで書いてから席につく。
どうやらレコードだけらしく、あまりアバンギャルドな曲を書いてみると
あっさりと飛ばされたりするのでご注意を。
あくまでも、「クラシック」なのである。
さて、店の中は相当暗い。椅子や机の形はまちまちで、2階などは傾いている。
冬には隙間風が入ってくる。
古めかしいだけの喫茶店なら他にもあると思われるが
ここはなにやら不気味とも言える不思議さが漂っている。
くもの巣の張ったランプ。すすけた絵画。蓄音機。
隙間風は入ってくるのに携帯の電波は入ってこない。
完全に外界から遮断されたような空間なのだ。
しかし、不思議なのは店構えだけではなかった。
ある日友人を連れて店に行ってみると、ウェイトレスが変わっていた。
色が白く、背が高くて美人だが、なにやら雪女のような印象の女性だった。
友人が何の気もなしに彼女に他愛のない質問をした。
すると、その女性は1、2分無表情で黙っていたかと思うと、ぽつりと
「・・・忘れました・・・」
そうしてすっと去って行った。
その時、拙者はなぜか背筋がぞっと冷たくなったような気がしたのだが
気のせいだろうと思っていたら
なんと拙者の連れ合いもその時寒気を感じたというではないか。
そういえば彼女は店の仕事をしている最中もグレーの厚いロングコートを着たままだった。
その足元がどうなっていたか、まったく印象に残っていない。
なんだか足音がしなかったような、そんな気も・・・。(妄想)
それから拙者と連れ合いは熱を出して寝込み、少し経ってまた店に行くとその女性はもういなかった。
まあ、それは別として。
この店のコーヒーは安くてとても美味い。
音楽もとても好い。
多少怖い思いをしたからといって、拙者がこの店を慕う気持ちに変わりはない。
もし興味がおありのようなら拙者、兎耳がご案内いたそう。是非お声を。
と、なんだかフォローできたようなできなかったような状態で本日閉店。
兎耳堂