
この朝日への山行は、私の独身最後の山行であり、「最後の一花を咲かせるんだ!」と大きな意気込みを持って望んだ山行であった。実は、当初はこの山行はもう1週後に設定されていたのであるが、飛行機の早割のチケットをとった後、その8月2日(仏滅の土曜日)に「ブライダルフェア−」があることが判明、さすがにブッチするわけにはいかず、2人分の高いキャンセル料を払うはめになった。そして、ユタニはどうしても金曜が休めず、土曜日に朝日鉱泉から登り、大朝日岳のみをピストンすることになった。この年は梅雨明けがいつにもまして遅く、大阪ではざんざん雨がふっていた。何か前途多難な感じであったが、それでも男ヨネは、「行かないで、ダーリン!!」と涙を流してすがるフィアンセを、「山がおれを呼んでいるんだ!」と一喝のもとに振り切り、大阪駅に向かったのであった。
7月23日(木)
アオと大阪駅のホームで合流、ビールを買い込み、日本海3号青森行に颯爽と乗り込んだ。割合混んでいる。京都から乗ってきた、アオの上段のベッドのおやじも朝日に登るらしい。聞けば、ルートも全く同じであり、予想通り最後まで抜きつ抜かれつ歩くことになった。20:17に大阪発。敦賀を出た辺りでお互い眠りについた。
7月24日(金) くもりのちはれ
朝、アオに起こされ目覚める。あとで、車掌も声をかけに来た。6:33鶴岡着。下車したのはほんの数人。昔北海道からの帰り、ここからきれいなおねえさんが隣に乗ってきたのを良く覚えている。バスが出るまではしばらくあるので、駅を出て左側にあるそば屋で朝飯を食べた。学生も食べに来ている。のんびりした田舎の朝である。間もなく、大鳥行きのバスが来たので乗り込む。先ほどのおやじも含め、登山者らしき者が数人いる。まもなく私は爆睡を始めたようで、気がついたら大鳥に着いていた。ここからは朝日屋がだす「会員制」マイクロバスに乗り換える。慣れたにいちゃんが、狭いダート道を爆走した。結構恐い。9:25、終点の泡滝ダムに到着し、即出発した。しばらくは大鳥川沿いに緩やかな登りである。一応今日入山した中では一番若かったので、当然トップを行く。日は陰っており、蒸し暑い。10:19、冷水沢出合で休憩。早速頭から水をかぶる。10:29出発。おばさんの団体をやり過ごす。七つ滝への道を左にわけると道は急なつづら折れになり、なかなか厳しい。しかしそれも間もなく平坦となり、樹間に大鳥池が見えてきた。11:35大鳥小屋着。
コースタイムよりは1時間早い。家族連れがうまそうなものを食べていたが、私はいつものカロメである。池は静かである。幻の怪魚「タキタロウ」が棲むというが、誰がつけた名前だろう。いかにも怪し気である。おいしいんだろうか・・。11:52発。すぐ道は2つに分かれるが、我々はここに登った経験のあるヤマサーキが「ゲロを吐きそうになりながら登った」という直登ルートを避け、迂回ルートを行く。とはいえしかし、それでも傾斜はきつく、このあたりから、重い荷物がこたえてくる。食い物が多いのは当然ながら、ビールを6缶、ウイスキーを2瓶持ち、小屋泊まりのくせに異常に重い。だんだんとペースが落ちる。森林限界を越え、最後の水場のある稜線に出たのが13:30。天気は良くなってきて眺めも良いのだが、かなり消耗した。13:50出発。オツボ峰を経て高度をあげていくが、まさにゲロを吐きそうなほどしんどい。2人ともヨレヨレ。こんなにバテタのは久方ぶりである。15:17やっとの思いで以東岳に着いた。大鳥池からはコースタイムなみにかかってしまった。南に主稜線が、北には先ほどの大鳥池、そして日本海が望まれ眺めは良かったのだが、グッタリ。さっさとピークを後にして、15:30に小屋に着いた。結構なにぎわいである。しかし、なんと!ビール(しかも冷えた)が売っているではありませぬか!これまでの苦労はいったい・・。
取りあえず、持参したエビスを小屋の下の雪渓の下に冷やしにいった。ここがこの小屋の水場であり、小屋から歩いて5~10分くらい。少しある。戻って、のそのそと晩飯の用意を始める。今日はワンゲルの定番、チンジャオロオスウである。とはいっても、実際はピーマン入りのハム炒めである。まさに大量、山のようにある。非常に脂っこい。横にいたおばはんが、「えーふたりじゃ多いんでない?」とつっこむ。このおばはんたちのパーティーは、米沢から来たそうで、やたら盛り上がっている。「じゃ、米沢どうしで、記念撮影しまっしょ!!」と、言われるがままにビール片手に記念撮影をした。お腹はもうはち切れそうだ。お酒も入り、御機嫌である。外は夕暮れ、日本海に夕日が沈んでいく。遠く佐渡島も見える。みな窓からシャッターを切った。日が落ちると、自然に寝てしまった。濃い晩飯だった。
ハ
7月25日(土) はれ時々ガス
4時起床。天気は良いようである。さっさと朝飯を食べて、4:50出発。“日本海”のおやじも早い出発のようである。再び以東岳の頂上に立つが、今日はガスがかかっていたので通過。ここからぐっと高度を下げる。ガスが時々晴れて、さっと日がさしてはまたガスがかかるといった天気である。おかげで涼しく、歩き良い。この稜線の左下は、沢屋には大変有名な秘渓、八久和川が流れる。「熊が住むかよ あの八久和谷 ここは源流狐穴」と謡われているそうである。途中1回レストをはさんで、6:20その狐穴小屋に着いた。できたての、めちゃめちゃきれいな小屋である。表には冷たい水がこんこんと湧いている。こんなにきれいとわかっていれば、昨日のうちに這ってでも来てたのに・・・。トイレはなんと簡易水洗。おもわず、大キジ2発。さらに、あまりに快適なので、茶まで湧かす。お陰で、一旦抜いた“日本海”のおやじにまた抜かれた。7:04発。三方境、北寒江山を経て、7:46寒江山でレスト。だんだんガスも晴れてきたようであるが、ジッとしてると少し寒い。7:54発。途中でおやじを追い抜き、8:37竜門小屋に着いた。ここもなかなかいい小屋で、水もふんだんにある。ガスはすっかり晴れ、いい天気である。振り返ると、以東岳がどっしり構えているが、ピークにはガスがかかったままである。暑くなって来たので、水をあびた。ここのトイレからの眺めが非常に良い。
ここまで記録を書いていて思ったが、いつにも増して大文字が非常に少ない。LCM に入って以来、現在のところ今までのなかで最も平和な山行である。これもメンバーがすこぶるマトモな証拠である。
8:50発。9:03竜門山を通過。気持ちのいい天気。絶好の縦走日和である。広い稜線で、景色も良い。9:50西朝日岳との分岐着。この辺りまでくると、大朝日からピストンして来た人たちに出会う。当の大朝日はもう目の前であるが、ガスにおおわれている。
10:00発、10:49に、大朝日の直下の水場、金玉水に到着。寒河江川源流との看板がある。周りはガスって来た。奴は、もう由谷はそこまで来ているのか。一応水を汲み、11:06出発。ガスで判らなかったが、小屋まではすぐであった。11:20着。小屋に入ると、一番奥に汚らしい物体が横たわっている。はたしてそれはユタニであった。昨日夜中の1時に着いて、片道
6 時間のコースでもうここで寝ているのだから、相変わらずたいした体力である。アオを驚愕させたのはそのいでたちである。工事現場のおやじが着るような作業ズボンはまだ良いが、足回りは地下足袋、さらに脚絆である。そしてその間の抜けたつらは、全くの田舎のおっさんである。私はもうすっかり慣れてしまったから、もうどうでも良いのだが。ガスはかかったままだが、とりあえず頂上に向かう。5分程、11:37着。風が割合強く、寒い。時々日もさすが、やはり何も見えない。しばらく晴れるのを待ってみたが、とても晴れそうにないので、写真だけとって12:00に引き揚げた。今日はこの大朝日小屋に泊まる予定であったのだが、すでに何人か人が入っており、大変な混雑が予想されたので、ユタニには気の毒である、などとは全く思ってもいないが、もう一つ先の鳥原小屋まで行くことにした。12:20
発。やはりユタニのペースが早く、どんどん下っていく。目の前には小朝日岳がどんと構えている。おお、またあれを登らないといけないのか・・・。鞍部のすぐ手前、向こうから頼り無い足取りでおばさんが登ってきた。きくと、もう水がないそうなので分けてあげた。あの調子ではどれだけかかるやら・・。程なく登りにかかるが、物凄い急坂である。ユタニはこともなげであるが、後の二人はゲロを吐きそうになりながら登る。13:25小朝日岳着。ヘロヘロである。ユタニは、いつものように滝のような汗をかいている。シャツをしぼるとボタボタと汁が・・・。眺めは良いが、大朝日はやはりガスの中。13:39発。転がるように下り、14:48に鳥原小屋に着いた。きれいな小屋である。総じて朝日連峰の小屋は整備が行き届いている。ビールが売っているのでとりあえず一杯。水場へ向かうと、水も豊富で、気持ちがよい。水浴びをして、ひなたぼっこをする。けっこうくたびれた。今日の晩飯は、水炊きである。ユタニも山のように食材を持ってきていると信じていたのだが・・。やつの持参した食料は、少量の冷凍した肉とつまみだけ。「いやー、どうせ米澤さんたくさん持ってくるやろおとおもとったんですよー。」と、こともなげにヘラヘラ笑っている。こんなやつのために我々は苦労して重い食料を運んできたのか・・・。とはいえ、やはり飯は大量にあり満足である。ユタニは酒が回ったか、飯の途中でうつらうつらし始めた。強引に起こして最後まで食わせたが、終わったとたんさっさと大の字になって寝てしまった。去年は、飯を炊きながら寝ていたが、あいかわらず気ままなやつである。
7月26日(日) くもりのちはれ
5:00起床。雨がふったようである。予想通り小屋に泊まった人は少なく、快適な一夜であった。5:50発。どんどん下る。ユタニは、道が地下足袋にフイットすると満足そうである。6:25、金山沢に出たところでレスト。6
:33 発。もう一つ稜線を越えて、急激に下る。ユタニがめちゃめちゃ速い。アオはずっと遅れている。たまらず、7:12レスト。カヨの薦めるままに購入し、この数週間生活を共にしてきたポケットピカチュウをみると、お!
ついに100万歩達成である。7:20発、7:45には朝日鉱泉に着いた。荷物をおろし、ウエストベルトを探ってみると、あっ!ポケットピカチュウがない!なあんと、さっきのレストで落としてしまったらしい。100万歩を達成したとたんに私の前から姿を消すとは、なんと美しい別れではないか。さらばピカチュウ、私のようないい人に拾われるんですよ・・・。
さて、アオとともに早速温泉に向かう。ユタニはなぜか水浴びをしに川の方におりていった。が、入り口までくると、「入浴は12時より」の看板が。仕方なく道端で着替えるが、その時に購入したての新品のザックを汚い水たまりの中に倒してしまった。踏んだり蹴ったりである。ユタニは、嬉しそうにヘラヘラ笑っている。
ユタニの車に乗り出発。生意気にも、CDチェンジャーを積んでいる。しかし、流れる音楽はなぜか、「横浜銀蠅」。そしてその次は、「レベッカ」。「いやー、安売りしてたんすよー!」むかし、ネパールから買ってきたという怪しい曲を流していたこともあったが、やはり強烈な趣味の持ち主である。途中、ユタニが、どうしてもファンタオレンジが飲みたいというので、自動販売機に立ち寄る。思わず私も買ってしまった。たまに飲むとうまいもんである。横を、日本海のおやじをのせたバスが通り過ぎていった。地図で、近くに「りんご温泉」なる温泉を発見、そこに向けて出発する。きれいな温泉であるが、近所の人しか来てなさそうである。さっぱりして、フィアンセに「りんご麺」と「これはびっくり!びっくりうどん」なるお土産を買った後、時間があるので、「山寺」へ向かう。閑人アオは、はるばる金ガ崎より何度も来たことがあるそうである。左から右から、おばはんがものすごい笑顔をたたえて手招きする。そのなかに、無料の駐車場を発見したので入るが、「なんか買っていって下さいね」とおばはんに釘をさされた。たいした人出である。上まであがるのはしんどいし、金がかかるのでやめて、さっさと引き揚げた。私は大枚をはたいて、缶入り茶を購入した。そして、恒例に従い焼肉を食おうということになった。なかなか焼肉屋が見つからず、ラーメンで妥協しようという話もでかかった頃、ようやく山形空港近くの寂れた街角に怪し気な韓国式焼肉の店を発見、まよわず入った。ここぞとばかりビールで乾杯。これから車で岩手に帰らねばならない公僕ユタニは、寂しくウーロン茶をガブガブ飲んでいた。日本語を解さない店員もいたが、まずまずの店であった。
ユタニに空港まで送ってもらい、山形を後にした。着いてみれば、大阪は大雨。改めて私の神通力を思い知るアオであった。アオを説得してタクシーに乗り、寮で降車、無事独身最後の山行は終了した。
完