肌を刺すような強い陽光が、乾いた地面の上に照りつけている。
 頭上に黒々とした葉の生い茂る木陰で、リナはそっと屈み込んだ。
 慎重に、慎重に、地面の上でしきりに羽根をばたつかせる小鳥を手のひらにすくいあげる。
 小鳥は鋭くかぼそく悲鳴をあげながら、リナの小さな手のひらのうえで、必死でもがいている。
「リナ」
 俺はリナの後ろから、そっと声をかけた。
「見せてごらん」
 リナからその小鳥を受け取って、指先でその身体を調べた。そして、俺は吐息をついた。
「リナ、こいつはもう駄目だ」
「死んじゃうの?」
 不安げに問いかけてくるリナに、俺は頷いた。
「もうこいつは飛べないよ。羽根が折れてるんだ。これじゃあ、とても生きていけない」
 リナが俺を見上げた。俺は諭すようにその瞳を覗きこんだ。
「後は飢えて死ぬだけだ」
 手のひらの上で、小鳥は傷ついた体で動こうともがいていた。羽根をばたつかせ、何とか飛び立とうと懸命に努力している。俺はその姿を隠すように、もう片方の手のひらをその上に被せた。
「こういうときに、俺たちがしてやれることはひとつしかない」
「殺すの?」
 俺はリナの顔をのぞきこみながら、頷いた。
 リナは俯いた。
 小鳥は相変わらず、手のひらの上で暴れつづけていた。
 何かを察しているのだろうか、細い脚で手のひらを引っかき、薄いくちばしで指の皮を齧り、狂ったように悲鳴を上げつづける。
 まるで、生涯最後の苦痛に満ちた音節を、俺たちの耳に刻み込ませるかのように。



 ひどく日差しの強い日だった。
 狂暴な日差しに焼かれて、肌がぴりぴりと痛んだ。
 艶かしいほど鮮やかな緑の葉が風に吹かれると、木漏れ日がリナの頬の上で揺れた。



 俺はかるく指先に力を入れた。何の抵抗もなく小鳥の首は曲がった。きゅっ、と骨の折れる音がした。小さな、小さな音だった。
 


 うずくまる俺たちの頭上で鳥の群れがわめきだし、いっせいに黒い翼を広げて空へと飛び立った。
 リナは小鳥の骸を浅く掘った穴のなかに置いた。そして、しずかに土をかぶせていった。
 暑さでじっとりと湿った額から、汗がひとすじ流れ落ちた。

 


 かわいそうにね。
 ああ。
 空、飛びたかっただろうね。飛ぶために生まれてきたのにね。
 ああ、そうだな。
 
 でも、これでいいんだよね。
 そうだよ。

 これでいいんだよ。





 あれは唯一、大地の神に愛されなかった生き物だ。
 かぼそい翼を広げて、躍起になって空を飛ばなければならない。

 傷ついた羽根を必死にはばたかせて。
 決して行き着くことのない、青い空の向こうへ飛び立とうとしている。 
 ここではないどこかへ、雲の彼方のそのまた先へ。

 もっと高く、と翼が要求するから。
 もっと高く、あの果てしない蒼さに溶けるまで飛びたいと。
 だから鳥は、ただひたすらに。

 リナ、それはおまえの姿に似ている。





 これでいいんだよ。

 だって、もう飛ばなくていいんだもんな。
 そうだろう?





 いつか、俺は。
 あのとき、柔らかい小鳥の首をひねったように、おまえの翼を手折るだろう。冷たい骸の上にそっと土をかぶせたように、おまえを暗い穴に押し込めるだろう。
 それというのも、おまえのためを思うのでなく、おまえをどこかに連れて行ってしまうだろう翼を、ただ憎く思うからだ。

 だから、俺は、いつか、きっと。



 目に染みるほど青い空に、また一羽、鳥が一声鳴いて飛んで行った。








おわり

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