将軍とその愛人
屋外で食事ができるほどに暖かくなった、それが最初の日だった。栗の花はテーブルの上をはらはらと舞って、我がもの顔にテーブルやパンの上に落ちた。 ゼルガディスはパンと一緒にそんな花びらを食べ、初春の太陽の下でかがやく色とりどりのドレスや、彼女たちのさざめくようなお喋り、銀の食器がぶつかりあう澄んだ音色に耳をすませていた。 そこにはいつもどおりの顔ぶれが揃っていた。 いかにも用心深そうな貴族たち。深い皺の寄った眉の下にするどい目をたたえた、老司祭たち。どんなゴシップも聞き漏らすまいと耳をそばだてている、ご婦人方。そして、たったいまテラスに姿をあらわした、栗色の髪のおさない少女。 「……あいつだ」 隣でルークが低くささやいた。ゼルガディスは眉をひそめてルークを振り返った。 「冗談だろう?」 ルークは肩をすくめた。 「たしかに、冗談だと思いたいよな」 少女につづけて、ガウリイが姿をあらわした。ぱりぱりと音を立てそうなブロンドの髪が淡くかがやいている。 彼こそは、いまやこのひなげしの香りただよう広々とした庭の主人であり、その向こうにそびえたつ荘厳たる館の主人でもあった。 少女はガウリイの隣にぴったり寄り添って、客たちに挨拶をしていた。 女たちは扇で口元を隠し、ひそひそと南国の鳥のようにせわしなく囁き合いながら、この宴の主役のたちの一挙手一投足を見守っていた。 ゼルガディスは着飾った貴族たちと談笑しているガウリイに目を向けながら、ルークに向かって問い掛けた。 「あいつの名前は?」 「リナって言ってた。たしかな」 「話したことがあるのか?」 「いや、ない。半年前、野営地にいたときにあいつが女を買い上げたとは聞いてたが、俺は違う部隊だったし、ほとんど噂しか聞いてなかった」 そのとき、リナはこの国のごく裕福な貴族のひとりに向かって優雅にお辞儀をしていた。 ガウリイは傍目には上機嫌な風で、つぎつぎと挨拶にくる客たちに向かってリナを紹介しているようだった。 「おい、司祭までが挨拶に行ってるぜ」 ルークがあきれたような口調でつぶやいた。 「彼らにとっては、ガブリエフ家はいちばんの金づるだからな。あいつのご機嫌を損ねるようなことはしないだろう。たぶんリナとも結婚させるさ」 ふん、とルークは不服げに鼻を鳴らした。 「いくらなんでも、そう簡単にはいくか。あのリナって女はもとは奴隷女だったんだぜ。だってのに――」 「しっ」 ゼルガディスがするどくルークの話をさえぎった。 ガウリイがリナから離れて、ゆっくりと彼らの座っているテーブルまでやってきたのだった。 「よう、久しぶりだな。元気だったか?」 ガウリイの明るい声に、ゼルガディスは慎重な笑みを返した。 「まあな。それにしても、盛況な宴だな。国中の有名人がそろってる」 「田舎成金がよくぞここまで、って感じだろ」 ガウリイはにやにや笑いながら、ゼルガディスのとなりに腰掛けた。 「晩餐には付き合えよ。あとでリナを紹介しよう」 ゼルガディスとルークは顔を見合わせた。ゼルガディスは黙ったままだったが、 「……なあガウリイ、お前は一体あの女とどうしたいんだ?」 こらえ性のないルークが、ガマンできないといった感じで切り出してしまった。ゼルガディスは思わず手のひらを額に押しあてた。 ガウリイはひとつ瞬きをして、ルークを見返した。 「結婚したい。というか、いずれする」 「……アホかお前は。出来るわけねえだろ」 ルークの即答に、ガウリイがムッとしたように顔をしかめた。 「俺が買った女だ。どうしようと俺の勝手だ。教会が何と言おうか親戚が何と言おうが俺の好きにする」 ゼルガディスとルークの二人はしばらく呆然とその顔を眺めていた。 「……お前、そんな奴だったか?」 「――だがなガウリイ、現実的なことを考えるといろいろ難しいんじゃないか? 仮にも奴隷女を嫁にしようとするんだ、風当たりはそりゃ強いだろう。そういうロスを考えると、何もそこまでこだわらんでも、妾として囲っておけば……」 ゼルガディスのいさめるような台詞に、ガウリイは首をふった。 「だめだ。リナには何にも後ろ盾がないんだ。俺しか守ってやるものがない。リナをそんな脆い立場に立たせるわけにいはいかない」 「しかし……」 なおも言い募ろうとするゼルガディスに、ガウリイはかるく肩をすくめた。 「とにかく、この話はまたあとでな。晩餐には出席しろよ」 そう言い捨てて、ガウリイはリナのいる方向へすたすたと歩き去ってしまった。 あとには、ぽかんとしているゼルガディスとルークだけが残された。 |
| しつこいようですが、緻密なストーリーとか、きちんとした筋立てとか、そういうのを私に期待しちゃダメです。「フィーリング」だけで読んでください。読者の協力なしにひなの小説は成り立ちません。マジで。 |