ダウンタウン物語








「おい、お前、俺にこんな真似させやがって、絶対に許さんからな。金輪際お前なんかといっしょに仕事をするのはごめんだぞ。聞いてんのか? ったく、あんなドジふみやがって……」
 いつもの「仕事」を終えたあと。
 深夜の安アパートの一室で、ゼルガディスは際限なく文句を言いつづけていた。
 ガウリイは呆れたように言い返した。
「いい加減しつこいなあ、お前も。しつこい男はもてないぞ」
「何がしつこいだ、俺の背広を台無しにしやがって!」
 ゼルガディスはパンツ一丁の姿で立ち上がって怒鳴った。
 ちなみにガウリイも、下着だけを身に着けた格好で床に座りこみ、血まみれになった服をタライで洗っている。
「大体、お前が至近距離で――それも俺のすぐ隣であの野郎の頭をフッ飛ばしたのが悪いんだろう!? 鼓膜は破れかけるわ全身血だらけになるわ……見てみろよ、一張羅がこの有様だ」
 ゼルガディスは憤懣やるかたないといった表情で、さっきまでしこしこ洗っていたシャツを広げてみせた。
「ったく、何が悲しくて夜中に野郎二人で洗濯をしなきゃいけないんだ。俺はこんなことがしたくてヤクザになったわけじゃないぞ」
「あー、はいはい。俺が悪うござんしたよ」
 なおもぶつぶつ愚痴をこぼすゼルガディスに、ガウリイがうんざりした調子で答える。
 ゼルガディスは一見、落ちついて見えるがなかなか感情の起伏が激しい。
 しかも、アイルランド系移民の息子なので、偏狭で頑固な一面も多分にある。
 とはいえ、たしかにギャングが二人で肩を並べてタライで洗い物をしている光景は、あまりサマになるものではない。
 深く考えると情けなくなってしまうので、ガウリイは口に出さないが。


 しばらくちゃぷちゃぷ洗濯をつづけた後、ガウリイが口を開いた。
「なあ、ゼル」
「あん?」
「リナはどうやってボスと知り合ったんだ?」
 ゼルガディスはしらっとした目でガウリイを眺めた。
「……またそれか。いい加減そこから離れろよ」
「いいじゃないか。何か聞いてるんだろ?」
「まあ、噂はいろいろ聞いてるよ。彼女は歌手だったんだ」
「歌手?」
「ああ。ボスの経営してる酒場で歌っていたらしい。そこをボスが見初めたんだ」
「……ふうん。他には?」
「さあ。とにかくボスが首ったけってことぐらいしか知らんな」
 ゼルガディスはそこですこし声をひそめて言った。
「お前、ボスがこれまで付き合ってた女たちを思い出せるか?」
「えーと。ミア、ファビアン、ジョアンナ。あとは忘れた」
「そう。それと、トゥルーディだ。お前にしちゃよく覚えてるな。あいつらの特徴は?」
「胸と尻がでかかった」
「リナはどうだ? グラマーだと思うか?」
「いいや。全然」
 ゼルガディスは深く頷いた。
「問題はそこだ。ボスの好みの女ってのは、とにかく胸と尻がでかくて派手で頭がスッカラカンなタイプだったんだ。少なくともここ5年はそうだった。それがいきなりあんな鉛筆みたいなお子様体型の女にはまっちまうってのは、何かおかしいと思わんか?」
「……まあ、そりゃちょっとは驚いたけどよ。好みが変わったのかもしれないし、別にリナが黒魔術を使ってボスをたぶらかしてるってわけでもないだろう?」
「さあ、どうだかな。ともかく、何か裏がありそうだぜ、あの女は。頭も悪くないし、ギャングの愛人におさまっているようなタイプには見えなかったな」
 ガウリイは適当に相槌を打ちながら、半月前に会ったリナの顔を頭に思い浮かべた。
 いつもは人の顔などすぐに忘れてしまうのに、彼女の顔を思い出す度に胸の奥が変に騒ぎ出す。
 ゼルガディスは一通り洗い終わった衣服を絞りながら、ガウリイのほうをちろりと見た。
「しかし、何だってそんなに彼女のことを気にするんだ?」
「ん? あ、いや。実は、今度彼女と会うことになっているんだ」
「はあ? どういうことだ」
「ボスが2,3日出かけるらしいんだ。その間、リナの相手をしてほしいんだと。食事とか、芝居とかさ、彼女の好きなところに連れていってやれとさ」
 ガウリイは、ゼルガディスがじとっとした目で彼を眺めているのに気がついた。
「……何だよ?」
「まさかとは思うが、役得とは思ってないだろうな」
思わず言葉につまるガウリイ。
 ゼルガディスはひとつため息をつくと、言った。
「……この間ブッチがホテルの4階から突き落とされたのは知ってるか?」
「え? 何かヘマでもしたのか?」
「うん、まあそうとも言えるな。ま、もっと別の言い方をすれば、リナにモーションをかけたおかげでボスの手下に突き落とされたと言える。おかげで奴は半身不随だ」
「……」
「この話の教訓はつまりこういうことだ。――馬に蹴られて死にたくなけりゃ、ボスの女に近づくな」









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