ダウンタウン物語








 ドアを蹴破るようにして書斎に駆け込んだガウリイは、思わずその場で凍りついた。
 目の前に、リナが立っていた。
 両手に短銃を持ち、銃口をぴたりとガウリイの方に向けながら。
「動かないで!」
 リナが荒々しい声で怒鳴った。
 先程までのしとやかさはどこへやら、両目を怒りとも興奮ともつかない色でぎらぎら光らせている。
「……な、ちょっと、待て、リナ! 俺は……」
「いいから動かないで! 銃を捨てなさい!」
 慌てて近寄ろうとするガウリイに、リナは鋭い声で命じた。まるで海千山千の軍人のように威圧的な態度だった。
 その、まるで別人のような様子に、ガウリイは思わずたじろいだ。
 ちらりと部屋の奥を盗み見ると、ダークスーツを着た二人の男が倒れているのが見えた。
 じゃあ、さっきの銃声は、リナが……?
 信じられないことだが、状況から察するにその通りらしい。
 ガウリイは再びリナに視線を戻した。
「銃を捨てて」
 リナは有無を言わせぬ調子で繰り返した。
 唇をきっと引き結び、刺すような眼差しでこちらを睨みつけている。 
 こちらに向けられた銃口は小揺るぎもしない。
 さっきまで、儚げに微笑んでいた女とはとても思えない。……少なくとも、カタギの人間じゃあない。
 しばらくの沈黙の後、ガウリイは溜め息をつきながら言った。
「オーケー。言う通りにするよ」 
 持っていた銃を床に捨て、両手を上げる。
 リナはその銃を部屋の隅に蹴り飛ばすと、ガウリイに銃を突きつけながら言った。
「……あんたはこいつらの仲間なの?」
 先程話していたときよりぐっとピッチの低い声だ。
「まさか。これが初対面だぜ」
「……にしては、タイミングが良すぎるわね」
 ガウリイはすこし傷ついたような表情を浮かべた。
「ちょっと待てよ、俺を疑ってるのか? 俺はボスに頼まれてここに来ただけだぜ?」
 リナはそれに答えず、注意深くガウリイに銃口を向けたまま、部屋の奥で倒れ伏しているダークスーツの男のそばに歩いていった。
 うつ伏せに伏した体をリナがヒールで軽く蹴ると、男はかすかにうめいた。どうやらまだ息があるらしい。
 リナはその傍らに跪き、男の首をねじまげてガウリイの方を向かせた。
「あの男を見なさい」
 男はリナにされるがまま、ゆっくりと顔をガウリイの方に向けた。こちらもやはり黒髪に浅黒い肌の、東洋系の顔立ちの男だった。
「あいつはあんたたちの仲間?」
 リナに問われて、男は小さな声で違う、と答えた。
「確かね?」
 男は頷いた。
「そう、わかったわ。じゃあ、もうひとつ聞くけど、あんたの仲間はあと何人いるの?」
「……三人、だ」
「そいつらなら全員殺した」
 ガウリイが口を挟んだ。リナは彼のほうをちらりと見て、再び男に視線を戻した。
「……じゃあ、これが最後の質問よ。あんたたちのボスは誰?」
 男は黙った。
 リナが低い声でささやいた。
「……死にたくなかったら、答えた方がいいわよ。ボスは誰なの?」
 男はなおも黙っていた。
 リナの顔にさっと苛立ちが走った。次の瞬間、彼女は近くの窓ガラスに向けて銃をぶっ放した。
 耳をつんざくような銃声とガラスの割れるすさまじい音が部屋中に響き渡り、男はひいっと声を上げて身を縮めた。
 リナは男のこめかみに銃口をつきつけた。男は悲鳴を上げた。
「や、やめろ! やめてくれ、頼む! 撃つな!」
「いい、あと一回しか聞かないわよ!? あたしは気が短いんだから! あんたのボスは誰なの!?」
 リナの問いに、男は悲鳴じみた声でわめきたてた。
「わ、わかった、言う! 言うから撃つな! ゼロスだ! ゼロスだ! ゼロス=メタリオムだ! あいつが命令したんだ!」
 男が叫び終えると、部屋はしんと静まり返った。
 リナはふんっと鼻をならすと、べちんっと男の頬をはたいた。
「あうっ」
「最初っから大人しくそう言えばいいのよ、まったく」
 ぶつぶつ言いながら立ち上がったリナは、ふとガウリイの方を振り返った。
 ガウリイは鳩が豆鉄砲をくらったような表情で、呆然とその場に突っ立っていた。
 リナは肩をすくめながら言った。
「――ともかく、あんたはこいつらとは何の関係もないみたいね。とりあえず、疑って悪かったわ。……って、どうかした?」
「………………どうもこうも……」
 ガウリイはこめかみをおさえながらがっくりと肩を落とした。
 リナはにやっと笑ってみせた。
「驚いた?」
「………今年一番のショックだ」
 かるく頭を振り、何とか体勢を立て直す。
「………しかし………何ちゅう荒っぽいことを………」
「まあね。でも、ああでもしないとなかなか吐かないのよ、あの連中は」
 リナの口調はすっかり変わっていた。
 どこぞの貴婦人のような柔らかでおっとりした口調から、きびきびした率直な口調へと。
 しとやかで控えめな物腰もどこかへ消えうせ、いかにも怜悧そうな、自信と活力に満ちた(そしてやや傲慢そうな)表情がその顔に宿っていた。
 何だかよくわからんが、でもこっちのほうがずっと自然に見えるな、とガウリイは思った。
 その間にも、リナは後片付けの手順を考えているようだった。
「さて、と。まずは『掃除屋』のウルフを呼んで、とっとと死体を片づけてもらわないとね。それからビルに電話して……」
「……ランツとフィリップも探さないとな。この屋敷のどこかにいるはずだ」
「そうね。死んでなきゃいいんだけど」
「それから、俺にも事情を説明してもらいたいな」
 リナは振り向いてガウリイを見た。
「お前さんが何者なのか。それからどうしてゼロスが絡んでるのか……。俺に説明してくれるべきだと思うんだがな」
 しばらくリナは値踏みするようにガウリイを眺めていた。
 やがて彼女はひとつ溜め息をついた。
「――ま、しょうがないわね。いいわ、話してあげる。ただし、今夜の夕食おごってくれたらの話だけど?」
 悪戯っぽく言ったリナに、ガウリイはようやく微笑んだ。
「勿論。美味い店を知ってるんだ」









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