〜例えば〜

 石川のことを、わたしが「梨華」って呼ぶわけ?!
 ……寒い…寒すぎるわ。
 自分で想像するだけで、背中に虫が這ってる感じがする
じゃないの!
 だから、ダメ! 却下よ、却下!!




 ……ちょっと…涙ぐむなんてズルイじゃないの。
 だって…「梨華」…なんて…ねぇ……。
 あんたも想像してみなさいよ。
 例えばよ…例えば…そう!
 どっかで待ち合わせなんかして、待ってるわたしのとこ
ろに、あんたが走ってくるわけよ。
 「圭ちゃ〜ん!」って。
 それで、それでよ?!
 わたしが、「梨華、遅い!」とかって言うわけよ。
 どう? 寒くない? 寒いでしょ?




 ……ちょっと…何、赤い顔でウットリしちゃってるのよ。
「そんなデート、したいです」
 そうじゃないでしょ!
 まったくもう……どうやら、例えがよくなかったみたい
ね。
 そうねえ…じゃ、例えば…そう!
 休みの日に二人で部屋にいて、そろそろ昼ご飯。
「圭ちゃん、お昼どうする?」
「梨華は何が食べたいの?」
「圭ちゃんと同じもの。キャッ(ハート)」
とか言い合うわけよ。
 どう? これは寒いでしょ? 凍っちゃうわよね?




 ……ちょっと…石川?
 お〜い。
 あら? 完全にあっちの世界に浸ってるわね。
 お〜い。早くこっちの世界に戻ってきなさいよ。
 石川ったら!
 ……石川〜!!
 …………何で反応しないのよ?!
 もしかして…本当に逝っちゃったんじゃ……。
 石川! 起きなさい! 起きてよ!!
 ……お願いだから……。
 梨華…帰ってきて……。
「はい。何ですか? 圭ちゃん(ハート)」




 ……あんた……。
 わたしを騙したわね。
 でも…何で泣いてるのよ?
「…『梨華』…って呼ばれるの……夢だったんです……」
 そんなことで泣くんじゃないわよっ!
 ホントに…もう…泣かないで。
 これからも、「梨華」って…呼んであげるから。
                       (続)



続く