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【焼き銀杏】
あれから私たちは「梨華ちゃん」「明日香ちゃん」と呼び合う仲になった。と言うか、そう呼ばされていた。
私は元々愛想の悪いヤツだから、回りからはそこそこ仲良くやっているように見えたかも知れない。
梨華ちゃんのことは、誰にも話していない。
あんなこと相談できる相手もいないし……。
それに…いつまでもこのままで済ますつもりはないから。
予備校から帰ってきて家で一息ついていた。
「…あ〜あ」
何故ともなくため息が出る。
何だか落ち着かなくて……悪い予感がしていた。
突然、携帯電話が鳴る。メールだ。
『私、明日OFFなの〜。いつものように家で待ってるからね☆☆愛しの梨華より☆☆』
「……」
悪い予感が的中した。
あれから度々、梨華ちゃんのマンションに呼び出されていた。
行けば例のごとく……「いつものように」梨華ちゃんに蹂躙される。
耳知識ならともかく、その手の実体験に乏しい私に、梨華ちゃんに反抗する術はなかった。
今はまだ……。
そう。この状況を乗り越える「何か」を見つけなければ……。
いつまでもこのままで済ますつもりはないから。
ピ〜ンポ〜ン。
「は〜い♪」
ドアの向こうから甲高い声が聞こえる。
ガチャッ。ロックの外れる音がしてドアが開いた。
「どうぞ〜♪」
梨華ちゃんはいつものようにご機嫌で、私の手を取って奥へと引いていく。
私をテーブルに着かせると、キッチンの方へととって返す。
「クッキー焼いたの〜。食べてみてくれる?」
こういうところを見ていると、本当に女の子らしい可愛さにあふれてる子だ。
「それとも…私を食べる?」
……前言撤回。
やっぱりこの子は「悪女」だ。
それにしても、この目の輝きの妖しさは何なんだろう?
本当に私と同い年なんだろうか?
「ねえ……ねえねえ」
何が「ねえ」なのか。
「気持ちいいこと…しよう?」
この子は、それ以外のことは考えられないんだろうか?
「ねえ……」
私が黙っていると、にじり寄ってきて私の二の腕を抱き込む。
肩に頬をすり寄せて甘えてくる。
ここに来るといつもこうだ。
何故なんだろう? 不思議に思う。
最終的には私を犯そうっていうのに、何故、毎回毎回、こんな風に私を誘うのか。
手っ取り早く押し倒せばいいだろうに。あの時みたいに。
突然、目の前5センチに梨華ちゃんの顔が。
驚いて仰け反るように顔を離すが、それでも迫ってくる。
私が何も言わないからか、唇を尖らせて不満顔。
「…キスして……」
目をつぶる。
そんなことは嫌なことだ。
……が、このままの体勢は首が痛い。
梨華ちゃんの肩をつかんで横にずらしながら、顔を避けるようにして立ち上がる。
自然と梨華ちゃんの耳元を、私の鼻先がかすめる。
瞬間、梨華ちゃんがビクッと体を震わせた。笑顔が消えている。
今のは…何?
急に立ち上がった梨華ちゃんは、私の手を乱暴に引いてベッドに連れていこうとする。
「気持ちいいことしよう!」
何だかイラついてるみたい。
私を無理矢理にベッドに押し倒す。
結局、最初からこうしたかったんでしょ?
どこか冷めた目で状況を見ながらも、梨華ちゃんの手を阻むことは出来ないでいた。
振り払おうとはするけど、梨華ちゃんは私の手の動きの隙をついて迫ってきた。
服の上から胸をつかまれる。
違う。「つかむ」じゃなくて「包む」。
嫌悪感をもっていても、「包まれた」瞬間、ほわっとした心地よさを感じてしまう。
きつく口をつぐんでいても、唇が合わさると何故か梨華ちゃんの舌が入ってくることを拒めなくなってしまう。
ギュッと両足を閉ざしていても、梨華ちゃんの手で太股をさすられると足腰に力が入らなくなってしまう。
頭が真っ白になって、いつの間にか服を脱がされてしまっている。
そして、いつの間にか梨華ちゃんも同じ姿で……。
悔しいけど……私の体は、梨華ちゃんに支配されている。
私自身も知らない、私の体のスイッチを梨華ちゃんはすべて把握している。
梨華ちゃんに吸われて、乳首はもう限界まで立ち上がっている。日ごろじゃ見たこともない赤みを帯びている。
赤すぎて黒ずんでしまっているように見えるほどに……。
「下」も同じ。
梨華ちゃんの指をしっかりくわえ込んで、私の意思に関係なく、ひくひくと収縮を繰り返す。
その少し上では、梨華ちゃんの親指に「いい子いい子」されて、肉の芽が大きく膨らんでいる。
「あ…あぅ…いゃあ……」
誰が発しているのかと思ったよがり声。
「だ、駄目…そこは……くふぅ……」
何ていやらしい声だろうと思った。
その声に合わせて梨華ちゃんの指が、唇と舌が動きを早めていって……。
「…やっ……はぁっ……いっ…いくっ……いっくぅ!!!」
私は果てた。
へ〜。私って…あんないやらしい声も出せるんだ。
意識が真っ白になりながら、そんなことを思っていた。
ピンク色の視界が急速に降ってきた後、ス〜ッと意識が戻る。
梨華ちゃんの部屋の色。
「ウフッ、明日香ちゃん可愛かったよ〜♪」
寄り添うように寝ていた梨華ちゃんが、肘をついて上から見下ろしていた。
私の目の前には、梨華ちゃんの形のいい耳があった。
梨華ちゃんの耳……。
テーブルでの不審な出来事のことが蘇ってきて……その時、チカッと私の頭の中に光が点った。
もしかして……。
ゆっくりと顔を背けて……梨華ちゃんの耳に、フゥッと息を吹きかけた。
「イヤァッ!!」
必要以上に驚いて逃げようとする。
やっぱり!
この時を逃しては駄目。そう直感して、梨華ちゃんの頭を抱き留める。
「離して〜!!」
叫ぶのを無視してグッと引き寄せて…耳に口づけ。
「だ…だめ〜…あ…あ……」
梨華ちゃんの体から力が抜けていくのが感じられた。
唇で耳たぶを挟んだまま、舌でチロッとなめる。
反対側の耳も、指でス〜ッとなぞる。
「あぅ…あ……あ…だめ…あ……」
梨華ちゃんは、私の頭に手を伸ばして引き離そうとしているけど、その腕には全然力がこもってなかった。
さっきまでの私と同じ状態。
顎を上げて口をパクパク。何とか呼吸しようとするけど、絶え間なく飛び出すあえぎ声に、それさえもままならない。
いつもの梨華ちゃんの妖しさは微塵もなかった。
カプッと耳を甘噛みすると、梨華ちゃんの体全体が仰け反って、声にならない「ヒュ〜ッ」という笛のような音を立てた。
耳元から、つつぅ〜っと首筋へと指を這わせる。
「…いゃ…いや〜!…あ…あ…やめて……」
弱いのは耳だけじゃないみたいだね。
そう言えば、これまでもキス以外は首から上に触られることを避けていたように思う。
「梨華ちゃん…可愛いよ」
耳元で囁くと、それだけで身もだえる。
「…助けて……」
かすれるように聞こえてくる言葉。
「何を?…私はただ、梨華ちゃんに気持ちいいことをしてあげるだけだよ?」
私は…笑っていた。
まさに復讐の笑みだ。
腕を伸ばして触ると、そこはもう濡れていた。
梨華ちゃんの妖しい花びらに沿って指を這わせると、クチュクチュといやらしい音がする。
「梨華ちゃんは、もう初めてじゃないよね?」
あえぐばかりで返事はない。
ゆっくりと花びらの中へと指を進める。
驚くぐらいの熱さだった。
何かに憑かれたように蠢く梨華ちゃんの腰。
「いゃ…だめ…そこ…あぅ……」
そんな声とは裏腹に、梨華ちゃんの「そこ」は私の指を奥へ奥へと誘う。
指先にほかの部分とは違う、つるっとした感じの場所が当たった。
「はぅっ…あ…あ…だめ…だめ〜……」
ギュ〜ンッと仰け反って、息も絶え絶え。
「梨華ちゃん、ここ? ここがいいの?」
聞きながら、そこを集中的に責めた。
「いゃっ!…いゃっ!…だ…もうっ……だめ〜!!!」
信じられないくらいの力で私の指が締め付けられ、梨華ちゃんは、私をはじき飛ばす勢いで仰け反った。
指から「そこ」が痙攣しているのが伝わってきた。
それだけじゃない。
梨華ちゃんの体のあちこちが、ヒクヒクと痙攣していた。
エクスタシーに震える「女」を私は初めて目の当たりに見た。
一種壮絶で、それでいて美しかった。
私も…私もさっきはこんなに美しくなれたんだろうか?
はあ〜っ、はあ〜っと荒い息をつく梨華ちゃんを見下ろしながら、そんなことを考えていた。
しばらくして、涙で潤んだ目で梨華ちゃんが私を見上げた。
私が言う言葉はこれしか浮かばなかった。
「…梨華ちゃん…最高に気持ちよかったでしょう? ねえ?」
「…やっぱり私、ダメな子なんです〜」
「いや、そんなことないから」
「そんなことあります〜」
さっきからこの繰り返し。
意識が戻ったと思ったら、いきなりシクシク泣き出して……。
「…やっぱり私、ダメな子なんです〜」
第一声がこれだった。
「元々の被害者は私でしょ!」…とは流石の私でも言えなかった。
「ごめんね、梨華ちゃん……私、やり過ぎちゃったみたいで……」
襲われてバージンまで奪われて、その上何故、謝らないといけないのか? 頭の中をこの命題がグルグルと回る。
それでも梨華ちゃんに泣かれると、本当に可哀想に思えてくるから……。客観的に考えると、やっぱり「悪女」の素質十分だね。
なかなか泣きやまない梨華ちゃんを、なだめすかしてよくよく話を聞いてみた。
第一の感想……「呆れた」。
何でも、梨華ちゃんは元々から感じやすい体質らしく、特に首から耳にかけて触られると、もう駄目らしい。
その上に惚れっぽい性格。
それも男女の別なく……何だかなあ。
まあ、その両方が相まって、つき合う男、つき合う女、事に及ぶと、必ずのように梨華ちゃんが先に果てちゃうんだとか。
最初は、「可愛いね」とか言ってくれるらしいんだけど、それが毎回のこととなると、相手は怒って別れ話になる……梨華ちゃんの話をまとめると、そういうことだ。
振られ続けてコンプレックスになったと……。
梨華ちゃんも頑張って、私が受けたようなテクニックを磨きまくったらしい。
つまり、私はある意味、そのコンプレックスを解消する実験台にされたということだ。
梨華ちゃん本人には、その自覚はないみたいだけど……。
でも、そんなテクニックを身につけても、感じやすい体質が変化する訳もないのに……。
「はあ〜あ……」
梨華ちゃんの境遇と、そしてそれに図らずも巻き込まれちゃった私。
やっぱり「呆れる」しかないじゃないか……。
ん? そんなに惚れっぽい梨華ちゃんが、モーニング娘。に入ったってことは……。
「梨華ちゃん…娘。のメンバーにも、手、出しちゃった訳?」
大きく首を振る梨華ちゃん。
「…失敗しちゃいました」
メンバーは無事か……ん? 失敗って……。
「手、出そうとしたの?」
「はい」
何の躊躇いもない。
「……誰に?」
「中澤さん……」
裕ちゃん?
またそれは…すごいところに手を出そうとしたんだねえ。
「……何で? 何で裕ちゃんに…その…好きになっちゃったの?」
「最初にキスされちゃったときに……もう…愛を感じちゃって」
あ〜…勘違いしちゃったんだ。
キス魔の裕ちゃんらしい惚れられ方だね。
「で? どうしたの?」
梨華ちゃんのことだ。
流石に相手が裕ちゃんだから襲うようなことはないだろうけど、近いことはしたに違いない。
「え〜と……二回目にキスされたとき…二人っきりだったから……舌を入れたの……」
……何をするかな、この子は。
頭が痛くなってきた。
「はあ……で? どうなったの?」
私がそう言うと、梨華ちゃんはモジモジと恥ずかしがっていたけど、重ねて聞くと、赤くなって答えてくれた。
「…反撃されて……立て続けに……いかされちゃった……」
い…いかされた?!
「……反撃って?」
その時のことを思い出してたんだろう。
梨華ちゃんは、夢見るような目で中空を見つめてた。
「すんごい舌を絡めてきて…息ができないくらい……すぐに首筋とか…弱いところ、あっという間に見つけられて……」
あ〜…そうですか……。
梨華ちゃん…今も半分いっちゃってるみたいな、いやらしい顔だよ。
「…それで…いかされちゃったんだ」
「はい…はっきりわからないけど…三回くらいかな…それで……」
「それで?」
「中澤さん、すごい妖しい目で見てて『こんなこと、もうやめや〜』って笑ってて……」
「ふ〜ん」
「それで…『もし、ほかのメンバーにこんなことしたら…』…チュッて可愛いキスしてくれて…『…言わんでも、わかるやろ?』って」
怖っ!
「…最初の裕ちゃんで、すごい釘刺されちゃったんだ」
「はい…だからほかのメンバーには、手、出してません……」
梨華ちゃん、すごい残念そうな顔をしてたから嘘じゃなさそうだ。
「梨華ちゃんさあ…そんなに焦らなくてもいいんじゃないの?」
「だって!…私も…誰かに愛されたいから」
すごい寂しそうな顔だった。
まあ、やり方はともかく、気持ちは分からないでもない。
私もどっちかって言うと、自分の気持ちを伝えるのが苦手な方だし……。
「大丈夫。梨華ちゃん、こんなに可愛いじゃん。感じやすいっていうのも、それ自体、別に悪いことじゃないし。焦らないで、ちゃんとした相手を見つければいいんだよ。その〜…セ…セックス、だってさ、相手が協力してくれれば、お互いに満足できるはずだし……」
は、恥ずかしい!
大体、誰かを慰めたりとか、こういうのは私の柄じゃないんだよ。
まったく、もう……。
それでも、梨華ちゃんは真剣に聞いてくれていた。
私のへたくそな慰めでも、感動してくれたみたい。
ちょっと涙目になってるし。
「明日香ちゃん……私…私……ありがとう!」
私の両手をガシッとつかんで、そう言った。
「いや…あの…頑張ってよ、梨華ちゃん。私に出来ることだったら協力するし……あの…私たち…友達じゃない…」
照れながら言った私の言葉に、梨華ちゃんは首を振った。
何で?
「友達じゃイヤ!」
え?
「私…明日香ちゃんのこと…本気でスキになっちゃった」
はあ?!
「明日香ちゃん…私と…正式に付き合ってください。お願いします」
梨華ちゃんの表情は、あくまで真剣。
私をからかってる訳じゃなさそうだ。
瞳なんかキラキラ輝いちゃって……可愛い……。
「……せ…正式って? 私たちは女同士だし、付き合うとかそんな問題じゃないでしょ?!」
「どうして? 私が変な子だから? 私、やっぱりダメな子なの?」
そういう言い方、何かずるくない?
「いや…別に…そんなこと言ってないじゃん……」
「だったら! お願い!」
涙をいっぱい流して、すがるような目で私を見てた。
こんな状況で、私にほかにどんな返事が出来ただろう。
梨華ちゃんの表情が一変して、今度は嬉し涙をいっぱい流して、私に抱きついてきた。
「ありがとう! 明日香ちゃん…私…私、頑張るね……」
嗚咽まじりに喜びを口にしていた。
あ〜あ……私…「いいよ」って言っちゃったんだ。
私…今後どうなっちゃうんだろう……。
感じやすい体質のテクニシャンな女の子に抱きつかれながら、自分の将来に不安を感じずにはいられなかった。
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