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【焼き銀杏】
「いらっしゃ〜い♪」
梨華ちゃんが、元気いっぱいに出迎えてくれた。
「よかった〜。来てくれないかもって思っちゃった」
「何で? 行くって約束したじゃん」
「そうだけど……」
笑顔が一瞬、つらそうに見えて…何だか不安になった。
「さ。上がって」
私の手を引く梨華ちゃんは、やっぱり笑顔で…見間違いかなあ?
手を引かれるままに部屋へと上がる。
あれ?
入った途端、昨日とは違う強いにおいがした。
これって……お部屋の芳香剤?
「梨華ちゃん…芳香剤、買ってきた?」
「…うん……」
かなり強烈ににおうけど…それだけ昨日のことを思い出したくないってことなんだろうな。
そう思って、それ以上は何も言わなかった。
「うっわ〜…梨華ちゃん、すごいじゃん……」
テーブルに並んだ料理を見て、ちょっと圧倒された。
鳥の唐揚げにシーフードグラタン、ポタージュスープにポテトサラダをメインにしたサラダボール、サンドイッチ。
デザートにはもちろん、梨華ちゃん得意のケーキ。それから果物もいっぱい。
「……どうしたの、これ?」
「明日香ちゃんのこと考えてたら、作り過ぎちゃった」
……梨華ちゃん…そんな言葉、そんな笑顔で言われたら……惚れちゃうってば……。
どれから手をつけたらいいのか迷いながら、取りあえず唐揚げに手を伸ばす。
……そこで、部屋中にすごい殺気が漂ってることに気がついた。
梨華ちゃん……そんなに真剣な目で見られてると、食べにくいんですけど……。
ものすごく緊張しながら箸を口に運ぶ。
勇気の一口。
パクッ、モグモグ…。
「……梨華ちゃん……」
「…どう?……」
思わず二人で見つめ合っちゃったり……。
「すごく美味しいよ」
「…ホント?」
「……本当」
梨華ちゃんは、大きく深くため息をついて……。
「よしっ!」
両手でガッツポーズ。
何だかこっちまで力が入っちゃうけど…梨華ちゃんが喜んでるから、いいか。
梨華ちゃんの手料理は美味しかった……けど…とにかく量が多かった。
「食べられなかったら残してね」
なんて言葉に素直に従えるはずがない。
だって…梨華ちゃんがずっと見てるんだもん。
「…ごちそうさまでした」
何とか目を白黒させながらも全部平らげたけど…これ…絶対に太っちゃうよ。
トホホ……。
それにしても…何だか今日の梨華ちゃん、すごく必死な感じがする。
張り切ってるっていうのと、ちょっと違う感じ。
何でだろう?
考えてたら、梨華ちゃんがバスルームから出てきた。
「明日香ちゃん、お湯入ったよ」
「ありがとう」
「……一緒に…入ろっか?」
「え?……」
絶句した私を見て、梨華ちゃんは笑ってた。
からかってるのかと思ったけど……目は真剣だった。
「イヤ?」
梨華ちゃんが近づいてくる。
私は…それを呆然と見てた。
「私のこと…スキ?」
梨華ちゃんは…笑ったまま……涙を流してた。
「梨華…ちゃん……」
言葉が…続かない。
泣かないで……どうしたの?……何だか…私も苦しくなっちゃうよ。苦しくて…言葉が出てこないよ。
「私…私は明日香ちゃんのこと…スキ…大スキだよ」
ありがとう…嬉しいよ…とっても……。
「明日香ちゃんは……私のこと…スキ?」
繰り返し聞いてくる。
もちろん…私も…梨華ちゃんのこと…大好きだよ……。
そんなこと、梨華ちゃんもわかってるでしょ?
だから、言葉には出さずに大きく肯いた。
「イヤッ!」
梨華ちゃんが、苦しそうに首を振ってる。
本当にどうしたの? 何があったの?
私の気持ち…伝わってないの?
「ちゃんと言葉で言ってよ!…はっきり態度で示してよ!」
自分の腕で自分自身を抱きしめて…よく見ると、梨華ちゃんは震えてた。
「じゃないと……じゃないと私…壊れちゃいそうだよ……」
梨華ちゃんが…壊れちゃう……???
頭の中が真っ白になった。
そんなの…駄目だよ!…そんなことは…絶対、許されない!
梨華ちゃんが苦しむことなんて…私が絶対に許さない。
「駄目っ!…駄目だよ……」
もう夢中で梨華ちゃんを抱きしめた。
梨華ちゃんを壊して体の中から出てこようと暴れてる「何かを押し込めるように、ギュ〜ッと強く抱いた。
そんな状態で、梨華ちゃんはもう一度、私に聞いた。
「明日香ちゃん……私のこと、スキ?」
って。
「好きだよ! 大好き!!……だから…壊れたり…しないで」
私は泣いてた。
梨華ちゃんも泣いてた。
二人で抱き合って泣き続けた。
それからどうなったかって言うと……。
お風呂に入ってる………何故だか二人で。
あぁ…どうしたらいいのか分からないよ〜!
そりゃ、私は銭湯好きでよく行くよ。
でもさあ…やっぱり違うよね。
二人きりでさ…しかも好きな子と……は…裸同士でさ……。
緊張するなって方が無理だよね。
今だって、梨華ちゃんに言われるままに背中を洗ってもらってるけど……でもさこれ、次はやっぱり…前…だよね?
「はい、きれいに洗えたよ。明日香ちゃん、今度、前向いて」
やっぱり〜!
梨華ちゃん、私、恥ずかしいっす……。
こ…こういう時って、どういう風に振り返ったらいいの?
だってさ…前を向くってことはだよ? 胸とか、ばっちり見られちゃうし…それ以上に触られちゃったりするってことで……。
かと言ってさ、自分で胸を隠したりしたら…何か…やらしい感じがするし……。
梨華ちゃんはと言うと、ちょっとだけ恥ずかしがってたけど、すごくオープンで……その…見えちゃってる……。
それも私が困ってる理由の一つ。
これで振り返って、向かい合っちゃったりしたら……目のやり場が……。
「明日香ちゃん? 早く前、向いてよ」
「あ、え〜と…うん……ちょ…ちょっと……」
ちょっと何なんだ?
自分でも何を言ってるのかわからない……。
あぁ…本当に、どうしよ〜?!
ムニュッ。
へ? 何? 胸、触られてる……。
モジモジしたままの私の胸に、背中から梨華ちゃんが手を回して、下からすくうように包んでた。
「嫌っ?!?」
びっくりして胸を隠そうとするけど……胸を触ってる手を、上から余計に押しつける結果に……。
「嫌ぁん…梨華ちゃん…やめて〜……」
梨華ちゃんは、後ろから覗き込むように笑ってた。
「明日香ちゃん、そんなに緊張しないで」
「……うん」
そのまま、梨華ちゃんに抱えられるようにして振り返った。
やっぱり恥ずかしくて、顔が上げられないよ。
「…きれいなピンク色……」
梨華ちゃんのつぶやきに、慌てて視線を追うと……じっと私の乳首を見てた。
「梨華ちゃん、嫌っ!…恥ずかしいよ」
両腕で胸を抱くようにして隠す。
「ごめ〜ん。もう見ないから、洗わせて? ね?」
梨華ちゃんは笑いながら、私の腕をほどいていく。
よく泡だったスポンジで、優しく洗ってくれる。
それはいいんだけど…優しくっていうのが、ちょっと困る。
自分で洗うのと、違わないはずなのに、妙に艶めかしい感じがする。
だから…その…違う意味で気持ちよくなってきちゃうから……乳首が…ピョコンッて固くなって……。
泡で隠れてるから、梨華ちゃんはまだ気がついてないみたいだけど……もう私は恥ずかしくって、真っ赤になってうつむいてた。
「明日香ちゃん、流すよ〜」
いや、それはまずいっす。
「さ…先に、私が梨華ちゃんを洗ってあげる」
って言って、スポンジを取り上げる。
有無を言わせずに、梨華ちゃんの背中をゴシゴシ。
梨華ちゃんは素直に、
「明日香ちゃんに洗ってもらえるなんて…うれしいっ!」
って喜んでたけど、前を洗い始めると、だんだん私と同じように、真っ赤な顔でうつむくようになった。
もしかして…梨華ちゃんも感じちゃってる?
いつの間にか、二人で真っ赤になって黙っちゃって。
無言のまま、二人でお湯を流し合って……やっぱり二人とも乳首がピンッて固くなって上を向いちゃってた。
意思とは関係なく感じちゃった体を持て余しながら、二人で湯船に浸かった。
……もやもやした雰囲気を変えないと。
そう思ったら、何故か、さっきの梨華ちゃんの泣く姿が浮かんできた。
「…梨華ちゃん……」
「なぁに?」
「何があったか…教えてほしい」
梨華ちゃんは、体ごとゆっくり私の方に向き直った。
「帰り道に…昨日の人に……出会っちゃったの……」
シャワーから湯船へと落ちてきた水滴が、ピチャンッて音を立てた。
「また…何か…された?」
梨華ちゃんは首を振って……湯面に波が広がった。
「…ただ……」
「ただ?」
「その人が言ったの。『セックスなんて、したいときに、したい相手と、すればいいんじゃないの?』って……」
何それ?…そんなの言い訳にもならないじゃん!
目の前にいたら、絶対にぶっ飛ばしてるね。
私は、そいつへの怒りでいっぱいだった。
だから、続けての梨華ちゃんの言葉は、私には予想外だった。
「…怖くなったの……自分が……」
梨華ちゃんは、確かにそう言った。
自分が? そいつのことが、じゃなくて?
梨華ちゃんは、また目に涙をいっぱい、ためてた。
寂しそうだけど、すごく真剣な視線を私に投げかけてた。
あふれそうな自分の思いを、どういう言葉で伝えようか迷ってた。
「梨華ちゃん……」
だから私は、梨華ちゃんの手を両手で包んで、その思いのこもった言葉をずっと待ってた。
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