【チャーミー石川】

 朝、目が覚めたら一番最初に見えたのが、明日香ちゃんの寝顔だった。
 いつもはちょっと斜に構えてるような明日香ちゃんだけど、今はすごく安らかな感じで、何て言ったらいいかわからないけど……すごく可愛らしかった。
 私を守ってくれるキュートな天使。
 その寝顔がすぐ目の前にある。
 「幸せ」って…こういうことなんだね。
 時間を忘れて、ずっと眺めてた。

 しばらくしたら、キュッて結ばれてた唇が、ほわっと開いて……我慢できなくなってキスしちゃった。
「……わっ!…何してんの?!」
「おはよう、明日香ちゃん♪」
 流石に起きちゃった。
「おはよう…って、そ…そうじゃなくって……」
「明日香ちゃんの寝顔、とっても可愛かったよ」
 明日香ちゃん、何か言おうと口をパクパクさせながら、顔を真っ赤にさせてた。
 は〜…やっぱり可愛いよ〜。
 私の明日香ちゃ〜ん!!
「きゃっ!…駄目、梨華ちゃん!!…ぃゃん……」
 あれ? いつの間にか抱きついちゃってた。
 明日香ちゃんが逃げるようにベッドから出て、
「梨華ちゃんのH!!」
だって。
 別に襲ったわけじゃないよ〜。
 明日香ちゃ〜ん、許して〜!

 禁句の「ごめんなさい!」を連発して、何とか明日香ちゃんに許してもらう。
 それでも、トーストをかじりながらの会話は、ちょっとギクシャク。
「…梨華ちゃん、きょうはどんな予定?」
 明日香ちゃん、まだ怒ってますか〜?
 口調がつっけんどんですよ?
「十一時にスタジオ…このまま行こうと思ってる……」
 私の返事も、自然とおずおずしたものになって……。
「帰りは?」
「…夜の十一時ごろかな……」
「ふ〜ん……迎えに…行こっか?」

 え? 「迎えに」って?
「きょうも…うちに泊まっていきなよ」
 明日香ちゃんって…意外に心配性なんだね。
「ありがとう…でも…私は大丈夫だから」
「でもさあ……」
 すっごく心配そうに私を見てる。
「明日香ちゃん……心配してくれて、ありがとう」
「うん……」
 そんなに心配しないで……。
「…じゃあねえ…明日香ちゃん…うちにお泊まりに来る?」
「え?……それは…ちょっと……」
 ガ〜ン…うそ〜!…何で〜?
「…い…イヤなら…いいけど……」
 明日香ちゃん…私、泣きそうです〜。
「別に嫌じゃないけど……変なこと…しない?」
 だから、今朝のことは違うの〜!!

 明日香ちゃんの潔癖さと、人間関係では信頼が大切だってことを再確認しました。はい。
 今朝の出来心を反省しながら、それでもちょっとハッピーな私。
 だって…結局は明日香ちゃん、お泊まりに来てくれるって約束してくれたんだも〜ん♪
 それに、きょうはタンポポの仕事で、よっすぃ〜とは会わないってことでも、気が楽になってる。

「おはようございます」
 いつも以上に元気いっぱい、あいさつしながらスタジオに入る。
 よ〜しっ! きょうこそは明日香ちゃんにご馳走をつくるんだからっ!
 自分に気合いを入れながら楽屋のドアを開く。
「おはようございま〜す!!」
 バッチリあいさつを決めたと思ったのに……。
「おっ! 石川、朝から空回ってるなあ」
 ……矢口さん、それはあんまりです〜……。

 私はしっかり張り切って収録にのぞんだつもりだったんだけど……。
「よかったよ、梨華ちゃん。いつも以上にハイテンションで」
ってスタッフさんに言われちゃった。
 ちょっと複雑な気分……。
 でもでも、そのおかげで収録が順調に進んで、予定よりちょっとだけど早く終わったんだから頑張った甲斐があったってことよね!
「お疲れさまでした〜。しつれいしま〜す」
 テキパキと帰り支度をして、スタジオを飛び出した。
 お家に帰る足が、こんなに軽いなんて……愛の力は偉大よね〜。

 スタジオから駅へ向かいながら、明日香ちゃんに電話する。
「もしもし〜明日香ちゃん? 私…今、スタジオを出たところ…うん!…家で待ってるから…うん…うん……じゃ、後でね〜……」
 よ〜し! 急いで帰って、明日香ちゃんをお迎えする準備をしなくっちゃ!
 材料は冷蔵庫の中のもので足りるから……あっ! テーブルがさみしいからお花を買って帰ろうかな〜……。
 自分でも顔が、にやけちゃってるのがわかる。
 でもいいんです。だって幸せなんだも〜ん♪

 そんなルンルン気分で駅に急いでいたら、後ろからあの子が声をかけてきたんです。
 今、一番会いたくないあの子……。
「梨華ちゃん、待ってよ。何でそんなに急いでるの?」
「よ…よっすぃ〜……」
 いつも通りにさわやかに笑ってた。まるで昨日、何も無かったみたいに……。
 それが逆に怖かった。
 バッグを胸に抱いて、ちょっと距離をとる。
「一緒に帰ろうよ」
「……イヤ!」
「何で〜?」
 本当に不思議そうに首をかしげてる。
 もしかして…昨日のよっすぃ〜は…別人?!
 何が何だか…混乱しちゃって何も言えなかった。

「あぁ…梨華ちゃん、昨日のこと気にしてるの?」
 ……何でそんなに、さらっと話せるの?!
「突き飛ばされたこと、私、怒ってないから」
 そんなこと…全然、問題じゃない!
「今度また、梨華ちゃんちに行きたいなあ。そんとき、昨日の続き…しようね」
 何?…何を言ってるの?
 よっすぃ〜…おかしいよ…変だよ……。
 何で…そんなに普通に笑っていられるの?
「…よっすぃ〜…私…もうあんなこと…イヤ…もう…しないから」
 私の方から、はっきり断らないと大変なことになる…そう思ったから、きっぱり言った。

「どうして?」  どうしてって…だって…だって……私は……。
「…私……明日香ちゃんと……つき合ってるから……」
 言っちゃった。
 でも、よっすぃ〜にはちゃんと釘を刺しておかないと……何をされるか、わからないから。
「…だから? 別にいいじゃん」
 何? よっすぃ〜…何て言ったの?
「よ…よっすぃ〜だって…ごっちんとつき合ってるんでしょ?」
「そうだよ」
「だったら……」
「そんなの、別に関係ないよ」
 よっすぃ〜は、一点の迷いもなく笑ってた。

 うそ…どういうこと……わからないよ……。
「男の人とだったら、赤ちゃんができちゃうとか問題あるかもしれないけど…そんな心配もないしさ」
 だって…好きな人がいるのに……。
「私だって、今一番好きなのはごっちんかな。でも、そんなのにこだわらなくってもいいじゃん」
 わからない…わからないよ…よっすぃ〜、何を言ってるの?
「梨華ちゃん、考えすぎだよ。セックスなんて、したいときに、したい相手と、すればいいんじゃないの?」

 私は走り出した。
 後ろも振り返らずに、走って逃げてた。
 怖い……怖い…怖い……。
 よっすぃ〜の言ってることが、理解できなかった。ううん…理解したくなかった。
 私だって、明日香ちゃんに会うまでは無茶な交際をしてきた。
 でもそれは、私を愛してくれる人が欲しくて…私なりのバカな愛情表現だった。

 よっすぃ〜は違う。
 買い物に行ったり、映画を見たり……そんな遊びの延長上にあるものとして、セックスをとらえてる。
 セックスというゲームを楽しもうとしてる。
 そんなことは、私の理解の外にあった。
 スキっていう思いや、愛という存在が伴わないセックスなんて私にとって何の意味もなかった。
 だから…とにかく逃げ出したかった。
 そんな私を、よっすぃ〜は追いかけて来なかった。
 ただ一言、
「福田さんに、よろしくって伝えといて」
って……。
 その言葉がまた…私には怖かった。

【焼き銀杏】

「いらっしゃ〜い♪」
 梨華ちゃんが、元気いっぱいに出迎えてくれた。
「よかった〜。来てくれないかもって思っちゃった」
「何で? 行くって約束したじゃん」
「そうだけど……」
 笑顔が一瞬、つらそうに見えて…何だか不安になった。
「さ。上がって」
 私の手を引く梨華ちゃんは、やっぱり笑顔で…見間違いかなあ?

 手を引かれるままに部屋へと上がる。
 あれ?
 入った途端、昨日とは違う強いにおいがした。
 これって……お部屋の芳香剤?
「梨華ちゃん…芳香剤、買ってきた?」
「…うん……」
 かなり強烈ににおうけど…それだけ昨日のことを思い出したくないってことなんだろうな。
 そう思って、それ以上は何も言わなかった。

「うっわ〜…梨華ちゃん、すごいじゃん……」
 テーブルに並んだ料理を見て、ちょっと圧倒された。
 鳥の唐揚げにシーフードグラタン、ポタージュスープにポテトサラダをメインにしたサラダボール、サンドイッチ。
 デザートにはもちろん、梨華ちゃん得意のケーキ。それから果物もいっぱい。
「……どうしたの、これ?」
「明日香ちゃんのこと考えてたら、作り過ぎちゃった」
 ……梨華ちゃん…そんな言葉、そんな笑顔で言われたら……惚れちゃうってば……。

 どれから手をつけたらいいのか迷いながら、取りあえず唐揚げに手を伸ばす。
 ……そこで、部屋中にすごい殺気が漂ってることに気がついた。
 梨華ちゃん……そんなに真剣な目で見られてると、食べにくいんですけど……。
 ものすごく緊張しながら箸を口に運ぶ。

 勇気の一口。
 パクッ、モグモグ…。
「……梨華ちゃん……」
「…どう?……」
 思わず二人で見つめ合っちゃったり……。
「すごく美味しいよ」
「…ホント?」
「……本当」
 梨華ちゃんは、大きく深くため息をついて……。
「よしっ!」
 両手でガッツポーズ。
 何だかこっちまで力が入っちゃうけど…梨華ちゃんが喜んでるから、いいか。

 梨華ちゃんの手料理は美味しかった……けど…とにかく量が多かった。
「食べられなかったら残してね」
なんて言葉に素直に従えるはずがない。
 だって…梨華ちゃんがずっと見てるんだもん。
「…ごちそうさまでした」
 何とか目を白黒させながらも全部平らげたけど…これ…絶対に太っちゃうよ。
 トホホ……。

 それにしても…何だか今日の梨華ちゃん、すごく必死な感じがする。
 張り切ってるっていうのと、ちょっと違う感じ。
 何でだろう?
 考えてたら、梨華ちゃんがバスルームから出てきた。
「明日香ちゃん、お湯入ったよ」
「ありがとう」
「……一緒に…入ろっか?」
「え?……」

 絶句した私を見て、梨華ちゃんは笑ってた。
 からかってるのかと思ったけど……目は真剣だった。
「イヤ?」
 梨華ちゃんが近づいてくる。
 私は…それを呆然と見てた。
「私のこと…スキ?」
 梨華ちゃんは…笑ったまま……涙を流してた。

「梨華…ちゃん……」
 言葉が…続かない。
 泣かないで……どうしたの?……何だか…私も苦しくなっちゃうよ。苦しくて…言葉が出てこないよ。
「私…私は明日香ちゃんのこと…スキ…大スキだよ」
 ありがとう…嬉しいよ…とっても……。
「明日香ちゃんは……私のこと…スキ?」
 繰り返し聞いてくる。
 もちろん…私も…梨華ちゃんのこと…大好きだよ……。
 そんなこと、梨華ちゃんもわかってるでしょ?
 だから、言葉には出さずに大きく肯いた。

「イヤッ!」
 梨華ちゃんが、苦しそうに首を振ってる。
 本当にどうしたの? 何があったの?
 私の気持ち…伝わってないの?
「ちゃんと言葉で言ってよ!…はっきり態度で示してよ!」
 自分の腕で自分自身を抱きしめて…よく見ると、梨華ちゃんは震えてた。
「じゃないと……じゃないと私…壊れちゃいそうだよ……」

 梨華ちゃんが…壊れちゃう……???
 頭の中が真っ白になった。
 そんなの…駄目だよ!…そんなことは…絶対、許されない!
 梨華ちゃんが苦しむことなんて…私が絶対に許さない。
「駄目っ!…駄目だよ……」
 もう夢中で梨華ちゃんを抱きしめた。
 梨華ちゃんを壊して体の中から出てこようと暴れてる「何かを押し込めるように、ギュ〜ッと強く抱いた。

 そんな状態で、梨華ちゃんはもう一度、私に聞いた。
「明日香ちゃん……私のこと、スキ?」
って。
「好きだよ! 大好き!!……だから…壊れたり…しないで」
 私は泣いてた。
 梨華ちゃんも泣いてた。
 二人で抱き合って泣き続けた。

 それからどうなったかって言うと……。
 お風呂に入ってる………何故だか二人で。
 あぁ…どうしたらいいのか分からないよ〜!
 そりゃ、私は銭湯好きでよく行くよ。
 でもさあ…やっぱり違うよね。
 二人きりでさ…しかも好きな子と……は…裸同士でさ……。
 緊張するなって方が無理だよね。

 今だって、梨華ちゃんに言われるままに背中を洗ってもらってるけど……でもさこれ、次はやっぱり…前…だよね?
「はい、きれいに洗えたよ。明日香ちゃん、今度、前向いて」
 やっぱり〜!
 梨華ちゃん、私、恥ずかしいっす……。
 こ…こういう時って、どういう風に振り返ったらいいの?
 だってさ…前を向くってことはだよ? 胸とか、ばっちり見られちゃうし…それ以上に触られちゃったりするってことで……。
 かと言ってさ、自分で胸を隠したりしたら…何か…やらしい感じがするし……。

 梨華ちゃんはと言うと、ちょっとだけ恥ずかしがってたけど、すごくオープンで……その…見えちゃってる……。
 それも私が困ってる理由の一つ。
 これで振り返って、向かい合っちゃったりしたら……目のやり場が……。
「明日香ちゃん? 早く前、向いてよ」
「あ、え〜と…うん……ちょ…ちょっと……」
 ちょっと何なんだ?
 自分でも何を言ってるのかわからない……。
 あぁ…本当に、どうしよ〜?!

 ムニュッ。
 へ? 何? 胸、触られてる……。
 モジモジしたままの私の胸に、背中から梨華ちゃんが手を回して、下からすくうように包んでた。
「嫌っ?!?」
 びっくりして胸を隠そうとするけど……胸を触ってる手を、上から余計に押しつける結果に……。
「嫌ぁん…梨華ちゃん…やめて〜……」
 梨華ちゃんは、後ろから覗き込むように笑ってた。
「明日香ちゃん、そんなに緊張しないで」
「……うん」
 そのまま、梨華ちゃんに抱えられるようにして振り返った。

 やっぱり恥ずかしくて、顔が上げられないよ。
「…きれいなピンク色……」
 梨華ちゃんのつぶやきに、慌てて視線を追うと……じっと私の乳首を見てた。
「梨華ちゃん、嫌っ!…恥ずかしいよ」
 両腕で胸を抱くようにして隠す。
「ごめ〜ん。もう見ないから、洗わせて? ね?」
 梨華ちゃんは笑いながら、私の腕をほどいていく。

 よく泡だったスポンジで、優しく洗ってくれる。
 それはいいんだけど…優しくっていうのが、ちょっと困る。
 自分で洗うのと、違わないはずなのに、妙に艶めかしい感じがする。
 だから…その…違う意味で気持ちよくなってきちゃうから……乳首が…ピョコンッて固くなって……。
 泡で隠れてるから、梨華ちゃんはまだ気がついてないみたいだけど……もう私は恥ずかしくって、真っ赤になってうつむいてた。

「明日香ちゃん、流すよ〜」
 いや、それはまずいっす。
「さ…先に、私が梨華ちゃんを洗ってあげる」
って言って、スポンジを取り上げる。
 有無を言わせずに、梨華ちゃんの背中をゴシゴシ。
 梨華ちゃんは素直に、
「明日香ちゃんに洗ってもらえるなんて…うれしいっ!」
って喜んでたけど、前を洗い始めると、だんだん私と同じように、真っ赤な顔でうつむくようになった。
 もしかして…梨華ちゃんも感じちゃってる?

 いつの間にか、二人で真っ赤になって黙っちゃって。
 無言のまま、二人でお湯を流し合って……やっぱり二人とも乳首がピンッて固くなって上を向いちゃってた。
 意思とは関係なく感じちゃった体を持て余しながら、二人で湯船に浸かった。
 ……もやもやした雰囲気を変えないと。
 そう思ったら、何故か、さっきの梨華ちゃんの泣く姿が浮かんできた。

「…梨華ちゃん……」
「なぁに?」
「何があったか…教えてほしい」
 梨華ちゃんは、体ごとゆっくり私の方に向き直った。
「帰り道に…昨日の人に……出会っちゃったの……」
 シャワーから湯船へと落ちてきた水滴が、ピチャンッて音を立てた。
「また…何か…された?」
 梨華ちゃんは首を振って……湯面に波が広がった。

「…ただ……」
「ただ?」
「その人が言ったの。『セックスなんて、したいときに、したい相手と、すればいいんじゃないの?』って……」
 何それ?…そんなの言い訳にもならないじゃん!
 目の前にいたら、絶対にぶっ飛ばしてるね。
 私は、そいつへの怒りでいっぱいだった。
 だから、続けての梨華ちゃんの言葉は、私には予想外だった。

「…怖くなったの……自分が……」
 梨華ちゃんは、確かにそう言った。
 自分が? そいつのことが、じゃなくて?
 梨華ちゃんは、また目に涙をいっぱい、ためてた。
 寂しそうだけど、すごく真剣な視線を私に投げかけてた。
 あふれそうな自分の思いを、どういう言葉で伝えようか迷ってた。
「梨華ちゃん……」
 だから私は、梨華ちゃんの手を両手で包んで、その思いのこもった言葉をずっと待ってた。

【チャーミー石川】

 明日香ちゃんに伝えたかった。
 知ってほしかった。
 グルグルと私の中を渦巻く、この判然としない思いを。
 そうじゃないと、ここから先に進めない。そう思った。
 だけど…どう言葉にすればいいのかなあ?

 ピチャンッ。また水滴が音を立てた。
 お湯の波が広がって……明日香ちゃんの肌に当たって返ってくる。
 明日香ちゃんは、じ〜っと私を見つめて待っていてくれた。
 瞳にお湯で反射した光が映って、キラキラと輝いていた。
 きれい……凛としていて…優しくて…傍にいると安心できた。
 それを見た感じが、そのまま言葉になった。
「私…明日香ちゃんのことがスキ…生まれて初めて…本気で愛した人…だと思う…」
 明日香ちゃんは、ちょっと照れたみたいに笑ってた。
「…でも…さっき…よっ…昨日の人に言われて……怖くなっちゃって……」

「セックスなんて、したいときに、したい相手と、すればいいんじゃないの?」
 笑顔で言われたその言葉が、私の深い部分をえぐってた。
 そんなの、おかしいよ! 変だよ!!
 そう思ったけど、でも……。
 明日香ちゃんを襲ったのは、何だったの?
 心も体も傷つけて……やってることは何も違わないじゃない……。
 本当は、明日香ちゃんを自分の欲望の犠牲にしてるだけじゃないの?

 違うよ!
 確かに最初、明日香ちゃんを傷つけた。
 でも、明日香ちゃんはそんな私を許してくれた。
 そこから、私の明日香ちゃんへ本当の愛は始まったの。
 だから……。

 明日香ちゃんに許された?
 本当に?
 「かわいそうな子」って同情されてるだけかもよ?
 実はバカにされてるかもしれないよ?

 違うよ!
 明日香ちゃんはそんな人じゃない!
 確かに…私のしたことは簡単に許されるようなことじゃないけど……。
 でも、明日香ちゃんはそれでも許してくれたんだよ。
 本当に優しい心を持った人だもん!

 へえ〜…この短い期間で、明日香ちゃんの何がわかったの?
 石川梨華は明日香ちゃんを犯して傷つけた。
 確かなのは、この事実だけ。
 石川梨華っていうのは、最低のひどいヤツ。

 そうだったかもしれない……。
 でも、もうあんなことは絶対にしない。
 だって…明日香ちゃんをスキ。スキなの!
 この思いは…ウソじゃないよ。

 やっぱりワガママな子ね。
 そんな勝手な自分の思いで、また明日香ちゃんを振り回すわけ?
 自分を傷つけた相手から「スキだ」なんて言われて、付きまとわれて、明日香ちゃんも迷惑なことね。

 そうなのかなあ?……
 私、明日香ちゃんの傍にいない方がいいのかなあ?
 でも…一緒にいたいよ……。
 どうしたらいいんだろ?
 わからない……わからないよ……。

 自分を責める心と、明日香ちゃんへの愛は本物だって信じる心。
 二つがグルグルと渦巻いて……。
 私は、何が何だかわからなくなっちゃって……とても怖かった。不安だった。
 明日香ちゃんに「スキ」って言われたい。
 愛されたい。
 私が明日香ちゃんのことをスキだって、愛してるって、明日香ちゃんに認めてもらいたい。
 そうしないと、自分が壊れちゃいそうだった。

 思ったままを、そんな風に話して……それを明日香ちゃんは、じっと聞いてくれていた。
「…ごめんね…明日香ちゃんに…迷惑ばっかりかけちゃって……」
 ううんって明日香ちゃんは首を横に振って……、
「梨華ちゃん…考えすぎだよ」
ってニッコリ笑ってた。
 でも、その目には…私が大好きな瞳には、涙が盛り上がってた。
「…梨華ちゃん…お風呂あがろっか…それから…伝えたいことがあるから…」
 明日香ちゃんは、私の手を引いて立ちあがった。
 ザバッとお湯があふれて……私たちが出た後には、ただお湯だけがキラキラと揺れていた。

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