【チャーミー石川】

 ベッドに横になって天井を見上げて、何か考え込んでる明日香ちゃん。
「私ね……」
 上を向いたままポツッて。
「ずっと…吉澤のこと…考えてみたんだけど……」
「……うん」
 知ってたよ。
 だからちょっとジェラシー感じて……。

「こんなこと言ったら、梨華ちゃん怒るかもしれないけど……」
 チラッと私の方を見て、躊躇ってる。
 私は小さく首を振って答える。
「…あのさあ……梨華ちゃんと吉澤が……ダブって見えるときが…あるんだよね……」

 よっすぃ〜と、私が?
「見た目とか、そんなんじゃなくて…何て言うか……陰の部分?」
「……どうせ、私はネガティブだもん……」
 いじけちゃいそうだよ…。
「いやいや、そうじゃなくって」
 明日香ちゃん、慌てちゃってる。…可愛いいなあ。

【焼き銀杏】

 やばい! どうしよう!
 梨華ちゃんを傷つけちゃったよ〜。
 何て言えばいい? 何て言えばいいんだろ…。
 考えろ…考えろ……よしっ!
「わ…私が言うのはさあ…吉澤も…本当の愛を探してるんじゃないかな…って思って……」

 今度は、何だかピンと来ないって顔してる。
「でも…よっすぃ〜は学校でモテモテのプレイガールだったって…あ、これは保田さんが言ってたんだけど」
「だから…余計にそうなんじゃないかなあ……」
 あ…余計に「?」って感じ。
 私の話し方って分かりにくいのかなあ……。

【チャーミー石川】

「だからね……」
 明日香ちゃん、何だか学校の先生みたいな話し方になってるよ。
「これまでは、吉澤は本当に人を好きになったりしたことがないんじゃないかなぁってこと…周りから告白されてばっかりでさ……」
 ふ〜ん…それはあるかも。

「だから…そのお…快楽を得るためだけの…セックス…とか……」
 ちょっと「セックス」って言うとき、躊躇っちゃうのが明日香ちゃんの可愛いとこね。
「……そんな吉澤が、本気で後藤さんを好きになってしまった……」
 人差し指を立てて、空中にポイントを書き出すみたいに動かしてる。指マーカーだね。

「でも!…でも、吉澤には後藤さんを、どう愛したらいいのか分からない……」
 指のマーカーで空中の一点を指してる。「はい!ここ重要」って感じ。
「でもさあ、明日香ちゃん……そこまではわかるけど、じゃあ、何で私達に…あんなことしたのかなあ?」
「う〜ん…そこが、分っかんないんだよね……」
 さっきまでマーカーだった指を頭に持っていって、今度は櫛がわりにワシャッと乱暴に髪をかき上げる。
 カッコイイ!

【焼き銀杏】

 ホンット、吉澤って分っかんないんだよね。
 そんなことを思って、チラッと梨華ちゃんを見たら、ほわって私のことを見てた。
 口元が何となく笑ってて……すごく…可愛かった。
「梨華ちゃん……」
「ん? なぁに?」
 あんまり可愛かったから……。

「あのさあ……あのぉ……」
「? 明日香ちゃん、どうしたの?」
 …欲しく…なっちゃったんだ。
「…ちょうだい……」
「……何を?」
 だから…その…可愛らしいもの。
「……梨華ちゃんの…唇……」
 すごくビックリした表情が…すぐに寂しそうな表情に変わった。

【チャーミー石川】

「…ダメ…だよ」
「何で?!」
 だって…だってね、今、明日香ちゃんが私を見たとき、すごく純粋な笑顔だったんだもん。
「私…汚れてるから……」
「だから! そんなことないって!!」
 明日香ちゃんが、グワッて上半身を起こした。

 だって…ちょっと触れただけで、汚れちゃいそうな…純白の笑顔だったから。
 でも、それ以上言葉にするとあまりに自分が惨めで悲しいから、首だけを激しく振った。
「……梨華ちゃん」
 見ると明日香ちゃんが、すごい怖い顔で見てた。

「梨華ちゃん、私のこと……好き?」
「好き。大好き」
 これは即答できるよ。
 今は、それだけが私の支えだから。
「でもね、梨華ちゃん……私のこと以上に、梨華ちゃん自身のことを好きでいてほしいんだ」
 明日香ちゃんの厳しい瞳は、吸い込まれそうに澄んでた。
 やっぱり私なんかが触れちゃいけない……そう思っちゃうほど汚れのない瞳だった。

【焼き銀杏】

 私だって梨華ちゃんのことが大好きだから……。
 だからこそ、不安そうに私を見つめる梨華ちゃんに言わなきゃ。
「自分のこと嫌いな女の子なんて……魅力なくなっちゃうよ。梨華ちゃんには、そうなってほしくないから……」
「うん…でも……」
 梨華ちゃん、ネガティブ・サイクルはもう止めようよ。

「でもじゃなくって! 『汚れてる』って…そんなこと全っ然ないじゃん! 少なくともその時は、梨華ちゃんは相手の人のこと…好き…だったんでしょ?」
 ウルウルしながら肯いてる。
 ……そんなに可愛く認められちゃうと…嫉妬心が出てくるのは仕方ないよね。

【チャーミー石川】

 思わず肯いちゃったけど……まずかったかな?
 明日香ちゃんの目が…何か…怖いよ。
「……ジェラシーは…感じちゃうけどさ……でもでも、汚らわしくはないよ! だって…もしそれが汚らわしいんだったら……」
 明日香ちゃん、ちょっと拗ねたみたいに目をそらして……。
「…私との…キスもさあ…汚らわしいことに…なっちゃうじゃん……」

 もう、涙を我慢できなかった。
「ごめんね…ごめん、明日香ちゃん…ありがとね……」
 何て言っていいかわからなくなってて……とにかく、そんな風に訳のわからない返事をしてた。
「もう『汚れてる』なんて言わない?」
 明日香ちゃんがそう尋ねたから、私は一生懸命に涙をぬぐいながら肯いた。

 そしたら…明日香ちゃんがパタッてまた上半身を倒して……。
「じゃあさあ…あの……いいかな?」
 一瞬、何のこと言ってるのかわからなかったけど、明日香ちゃんの顔を見たら、すぐに理解できた。
 だって、さっきまでと一変して、幼くって可愛い笑顔で、恥ずかしそうにモジモジしてたから。

「うん」
 そう答えたら、明日香ちゃん、ちょっとあごを上げて目をつぶって……ポッて上気した感じで、私を待ってる。
 あんまりにも明日香ちゃんが可愛らしくて……すごい幸せな気分だったから、また泣いちゃった。
 そのままゆっくり顔を近づけて…だから涙味のちょっとしょっぱいキスだった。

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