【焼き銀杏】

 まぶたの向こうから射し込む清冽な光に神経を刺激されて、パチッと目を開く。
「おはよう…寝坊すけさん」
 梨華ちゃんの笑顔が飛びこんできた。
 可愛く人差し指で、私の鼻の頭をツンツンッて弾いてる。

「おはよう、梨華ちゃん……」
 言ってから、両手を頭の上に伸ばして「う〜っ!」って、思いっきり仰け反るように背伸びする。
 そしたら……胸元に直接風が当たる感じがして……。
 私、真っ裸のまま寝てたんだ……。

「ぃゃん」
 思わず私らしくない、可愛らしい小さな叫びをあげちゃった。
 だって…梨華ちゃんが蒲団からこぼれ出た私の胸に手を伸ばして、今度は乳首をツンツンッて……。
 慌てて蒲団ごと抱き込むけど、
「えへへ…朝から明日香ちゃんのセクシーショットGet!だね」
 真っ赤な顔の私を嬉しそうに覗き込んでた。

「……梨華ちゃんのH!」
 梨華ちゃんを恨めしげに見上げるけど……ピョコンッて乳首が反応しちゃってるのは内緒。
「今更、恥ずかしがらなくてもいいのに」
「…けじめっ!」
 蒲団をしっかり抱きしめたままの私の言葉に、「そうだったね」ってペロッと舌を出す。
「じゃ、朝ご飯の準備、もう出来るから着替えたら来てね」
 キッチンに向かいながら言う梨華ちゃんの背中を見送って、こっちが見えないのを確認してから、いそいそとベッドから出て着替え始めた。

【チャーミー石川】

「…あのね……」
 二人で朝ご飯を食べながらの楽しい会話。
 ずっと続けばいいのに……現実は二人を引き裂くの……。
 …なんて浸ってる場合じゃない。

「今日からね…新曲のプロモーションで…地方に行かなきゃいけないんだぁ……」
 その間、明日香ちゃんに会えないなんて耐えられないよっ!
「ふぅん…どれくらいの間?」
 ……明日香ちゃんは結構、平気そう。

「…二泊三日……」
「それくらいだよね……頑張ってきてね、梨華ちゃん」
 ニコニコ笑ってる。
 明日香ちゃん……それだけですか?

「…うん…頑張る……」
 拍子抜けしちゃうよ。
 私はもっとこう……「うそっ! 嫌だよ! 梨華ちゃんと離れたくない!」…とかいうドラマティックな展開をね……。
 ……まぁ、素っ気無いのが明日香ちゃんらしいと言えば明日香ちゃんらしいけど……グスン……。

【焼き銀杏】

 何か…梨華ちゃん、ちょっと拗ねてるように見えるけど……どうしたんだろ?
 それより気になること。
「一緒に行くのは…誰?」
「……安倍さんと保田さん。北海道と東北担当なんだよ。後は飯田さんと…よっすぃ〜、辻ちゃん組。矢口さんとごっちんと、あいぼん組」
 ホッ……あいつとは別の組かぁ……良かった。

 その安心が顔に出たみたい。
 梨華ちゃん、嬉しそうに、
「心配だった?」
って目をキラキラさせてる。
「え?…んと…まぁちょっと…心配…だった…かな……」
 モゴモゴ言う私は、すぐにお茶碗で顔を隠そうとしたり……。
 自分のことながら、相変わらず素直じゃない奴!

 それでも梨華ちゃんは、そんな私を見て機嫌を直したみたい。
 悪戯っ子を見るみたいに「しょうがないなぁ…」って感じの視線で私を見てる。
 いや…だから…そんなに見られると余計に照れくさいって……。
 ソワソワしてる私をクスッて笑う。

 それから梨華ちゃんは、
「メール、いっぱい送るね?」
「帰ったら、すぐに連絡するから、会いに来てくれる?」
とか次々言って、私はそれに「うん」「うん」って肯くだけで。
 それだけで、二人とも会話に満足してた。

【チャーミー石川】

 それから二人で駅まで手をつないで歩いて…流石に「行ってらっしゃいのキス」は、「ぃやっ!」って素っ気無く断られちゃったけど……。
 いいんだもん……別れ別れの間、ずっとあの「おそろのピアス」をしてるって約束したから…それで我慢するの。
 それでも私、悲しそうな顔してたのかな?
 明日香ちゃんが心配そうに言った。
「梨華ちゃん、ポジティブにね?」
 明日香ちゃんがそう言うなら、私はもうずっとポジティブで行くよ!
 ポジティブッ!

 そんな私は元気百倍で楽屋に入る。何故かタッパ持参。
「おはようございま〜す!」
「おはよう」
 …中にいたのは…よっすぃ〜一人だった。
 明日香ちゃ〜ん!
 私のポジティブ…いきなり限界かも……。

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