【チャーミー石川】

 はぁ〜……やっぱり明日香ちゃんって優しいなぁ……。
 愛を感じるよ。「応援してるから」って…よぉっし! 頑張っちゃう!!
 保田さんはどこぉ?
 あ、いた!
「保田さ〜ん」
「ん? 何?」

 うっ……やっぱり不機嫌。
 でもでも、頑張って謝らなきゃ。
「あ…あのぉ……ごめんなさい!」
 ペコッて頭を下げる。
 保田さんは、ハァ〜ッて大きくため息をついて……。
「…いいよ、石川……私もちょっと大人げないかなって思ってたから……」
 優しく言って、肩のとこをポンポンッて叩いてくれた。

「でも石川…これからは気をつけなよ。今回は、かなりヤバイこと言ってたから」
「そう…でしたっけ?」
 自分じゃあんまり覚えてないんだけど……。
「あのねぇ……あんた、『もし好きな人が出来たら…その人と持ち物の交換したりとか……だって、ずっと一緒にいられる気がするじゃないですかぁ』って言ってたでしょ」
「はい」
 それが何か?

 保田さんは私の耳元を見つめてる。
「そのピアス…明日香と交換した物でしょ?」
 すごい! どうして知ってるんだろう?
「何で分かったんですか?」
「さっきの話してるとき、ずっとそのピアス触ってたでしょ。ピ〜ンときたわよ…ヒヤヒヤしながら見てたんだからね! それだけじゃなくって、ずっとラブラブ発言の連発だったわよっ!」
 その時のことを思い出したのか、だんだん口調がきつくなる。
「ご…ごめんなさい……」
 謝ったのに怒られた……グスン。

「ま、普通、相手が女の子だとは思わないから、ピアスくらいじゃバレることはないだろうけどさ…気をつけるにこしたことはないからね」
 私と明日香ちゃんが異常ってこと?……確かに、明日香ちゃんは普通じゃないくらい可愛いけど……。
「はい……すいませんでした」
「上手くやりなよ。私だってあんた達のこと、応援してるんだからさ」
 私を見ながら苦笑いしてたけど、優しい目だった。
「保田さん……ありがとうございます」

【焼き銀杏】

 梨華ちゃんからの相談の電話で、何となく落ち着いちゃった私。
 声が聞けたから…かな?
 何とか仕事にも集中できて、そうなれば時間もあっという間。
「お疲れさまでした〜!」
 仕事が終わって、超特急で梨華ちゃんのもとへ……と思ったら電話がかかってきた。

「もしもし?」
『お! 明日香? 私。久しぶり〜』
 ん?…この声は!!
「紗耶香?! どうしたの突然」
『えへへ…ちょっと明日香に会いたくなっちゃってさ……この後、空いてる?』
 えぇ〜……タイミング悪いよ、紗耶香。
「ごめん。約束があるんだ」
『そっかぁ……じゃ、明日は?』

 明日は定休日で仕事はないけど…梨華ちゃんが離してくれるかどうか……でも、紗耶香にも会いたいな。
「明日だったら……長い時間は駄目かもしれないけど」
『本当? じゃ…夕方。今と同じ時間とかどう?』
 ちゃんとお願いすれば、梨華ちゃんも分かってくれるよね。
「うん、いいよ」
『よし! じゃ、明日の夕方ね。また連絡するよ』
「うん」
『それじゃね〜』
 慌しく電話が切れた。

 紗耶香…武道館コンサート以来かな。
 懐かしいなぁ。
 元気そうだったし、明日が楽しみだな。
 おっと、いけない。
 梨華ちゃんの家に急がなきゃ!

【チャーミー石川】

 保田さんのご機嫌も直って、後顧の憂いなく午後からの雑誌の取材も絶好調で終了。
「石川…早過ぎない?」
 保田さんが呆れてる。
 他のメンバーがワイワイ言いながら楽屋に戻ってきたとき、私はもう着替え終わってた。
 ごっちんとよっすぃ〜も、二人で楽しそうにおしゃべりしながら入ってきた。
 ごっちんも呆れてて、よっすぃ〜は……相変わらずバカにしたような冷たい目で見てる。

 だけど今の私は、そんなことは全然平気。
 左右の手に牛タンとウニ(事務所付けで送ってたの)を抱えて帰宅準備は万全だった。
「明日香ちゃんが来るんです!」
 もうそのことだけでワクワク。
「……はいはい。車に気をつけてね。早く行っといで」
「は〜い!」

 元気いっぱいに飛び出して、駅へと急ぎながら明日香ちゃんに電話。
「もしもし、明日香ちゃ〜ん♪」
『梨華ちゃん! もう仕事終わった? 私はもう仕事終わったんだけど、ちょっと買い物してから行こうかと思って……』
「えぇ〜すぐに来てよ。私、もう家に向かってるから」
『すぐだから。すぐに梨華ちゃん家に着くからさ』
「絶対だよ! すぐ来ないと…大変だよ」
『何?! 大変って…何?』
「すぐに来なかったら…泣いちゃうから……」
『……分かった。もう超特急で行くからさ…泣かないで』
「うん…」

 電話を切ってからもワクワク、ドキドキ。
 もう、すっごい豪華な夕食で明日香ちゃんをビックリさせちゃうんだ〜。
 それから…それから……二人でラブラブな時間を過ごすの〜♪
 電車に揺られながら、一人でニヤニヤ。
 明日香ちゃ〜ん! ホントに超特急で来てねぇ。

【焼き銀杏】

 梨華ちゃんに泣かれると困るから、速攻で苺のショートケーキを二つ買って限界まで急ぐ。
 アフロ犬のストラップとケーキ。
 ま、こんなもんだよね。
 後はとにかく急がなきゃ。
 いつになく足取りも軽い。

 ピ〜ンポ〜ン。
 もう着いちゃった♪
 ドアの向こうからは、トントントンッて梨華ちゃんが近づいてくる足音。
 どうしよう。急に抱き着いちゃったりしようかな。
 梨華ちゃん、ビックリしちゃうかな。

 ガチャッ!
「梨華ちゃ…うわっ!」
 飛んできた。梨華ちゃんが。
「明日香ちゃ〜ん!!」
 飛びついて、首に抱き着いてきた梨華ちゃん……。
「明日香ちゃん、明日香ちゃん、明日香ちゃ〜ん!!」
 喜んでくれるのは嬉しいよ…嬉しいけど……。

「り…梨華ちゃん……苦しい……」
 首にガッチリ決まっちゃってて……息が…出来ない…よ。
「あれ?…明日香ちゃん?……明日香ちゃん?……」
「ぜぇ…ぜぇ…し…死ぬかと…思った……」
「明日香ちゃん…ちゃんと息はしないとダメだよ?」
「……そ…そうだね……」

 室内に入って一息…つけなかった。
「り…梨華ちゃん?!」
「どう?」
 ウニ丼に牛タン……山盛り。
「どうって…これ…何?」
「ウニと牛タン」
 確かにそうだね。そうなんだけど……私が聞きたいのは、そういうことじゃなくて……。
「……高かった…んじゃない…の?」
 確認するまでもなく、これは高いよね。

「やだなぁ。明日香ちゃん、そんなの気にしないでよ。明日香ちゃん、ウニ、スキだって言ってたでしょ?」
「うん…好きだよ…好きだけど……」
 いや…気になるって……。
 普通、気になるでしょ?
 梨華ちゃん、やっぱりちょっと間違ってると思うよ。

【チャーミー石川】

 明日香ちゃん、何だか困ったような真剣な目で私を見てる。
 喜んでくれると思ったのに……何がいけなかったの?
「あのね…梨華ちゃん……」
 明日香ちゃんのお言葉が……と思ったら…。

 ピ〜ンポ〜ン。
「…梨華ちゃん、お客さんみたいだよ」
 明日香ちゃん、ちょっと不機嫌。
 お話を遮られたから? 二人だけのところにお客さんが来たから?
 私、明日香ちゃん以外と約束してないよ。
 誰だろ?
 何か気まずい感じで玄関に。
 ドアに顔をつけて覗いて見たら……。
「…市井さん?!」
 慌ててドアを開けたら、
「よっ! 石川、久しぶり」
 …何で?

【焼き銀杏】

 紗耶香?!
 相変わらず目を細くして笑いながら玄関に入ってくる姿を見ながら、恐らく私は間抜けな顔をしてたと思う。
「市井さん、どうしたんですか?」
「ん? 急に来て石川をビックリさせてやろうと…思って……明日香?!」
 悪戯っぽく笑ってた紗耶香の視線が、私と合って、二人とも驚いて固まったまま。
「……何で…明日香がいるの?」
 そりゃ、私のほうが聞きたいって!

 取りあえず牛タンとウニ丼が並んだテーブルに三人で座ってる。
「で? 私は、久しぶりに石川に会ってみたいなって思って来たんだけど…明日香はどうしてここにいるの?」
 どうしてって言われてもねぇ……梨華ちゃんは、ちょっと拗ねたみたいに唇尖らせてるし……。
「…梨華ちゃんと一緒に晩ご飯食べる約束してたから……」
 テーブルの上を見渡して首をかしげる紗耶香。
「ふぅ〜ん……明日香、ウニは嫌いじゃなかった?」
 げっ……それは……。

 紗耶香の言葉を聞いて、梨華ちゃんがビックリしたみたいに顔を上げる。私の方を確かめるように見てる。
「いや…食べられるようになったんだよ……ホントだよ?」
 最後の言葉は梨華ちゃんに向けて。
「へぇ〜……」
「私も大人の味が分かるようになったってことで…さ」
 紗耶香も梨華ちゃんも疑うように見てる…梨華ちゃん、信じて!

「でもさ…石川と明日香、いつから一緒に食事とるほど仲良くなったの?」
 紗耶香…何でそんなに絡んで来るんだよぉ……。
 私がタジタジッてなってるのを見て、梨華ちゃんが急に紗耶香の方に向き直った。
「私と明日香ちゃん…今、付き合ってるんです!」
「………うっそ………」
 今度こそ、紗耶香は呆然。梨華ちゃんと私の顔を、交互に見つめて絶句してる。
 こういうとき、いつも梨華ちゃんの方がハッキリ態度を示すんだよね。
 私は…ちょっと情けない。
 ごめんね、梨華ちゃん。

【チャーミー石川】

 もう! いくら市井さんだからって、明日香ちゃんとのことをあれこれ言われたくないです!!
「……付き合ってるって…明日香と…石川が?」
「そうです」
 市井さん…何でそんなに信じられないって顔してるんですか?
「………付き合ってるってことは…その…恋人同士って…こと?」
「そうです」
「………明日香…何か辛いことでもあったの?」
 どういう意味ですか!

 この際ハッキリさせておかないと。
「私と明日香ちゃんは、愛し合ってるんです! お互いに必要な存在で、愛しのハニーなんです!!」
 ビシッと言えたわ。と思って明日香ちゃんを見たら、真っ赤になってうつむいてる。何で?
「石川……言ってて…恥ずかしくない?」
 市井さんも呆れ顔。
 私は全然恥ずかしくないけど……明日香ちゃんは恥ずかしがってるし……あれ?

「とにかく、さっきから石川ばっかりしゃべってるじゃない。明日香は梨華ちゃんのこと、どう思ってるわけ?」
 そうだ! 明日香ちゃん、市井さんにビシッと言ってあげてよ。ビシッと。
 あ……真っ赤になったまま、モジモジしてる……。
 明日香ちゃ〜ん、しっかり〜!

【焼き銀杏】

 え?! 私?………。
 もう…私、こういうの苦手だって言ってるのに……。
「…いやぁ…ハハハハハ……」
 見つめる二人の目は笑ってない。笑っても誤魔化せないか。

「コホン……えぇと……私も…そう…かな」
「え? どういうこと?」
 ……紗耶香…ホントは分かったでしょ?……助けて、梨華ちゃん。
「明日香ちゃ〜ん、早く〜」
 梨華ちゃんまで……しかも、何か…言い方がHっぽいよ……。
「えぇと……」
 梨華ちゃん…紗耶香……いや、だから…そんなに見つめないでって……。

小説「あすりか」(26)へ進む