【チャーミー石川】

 明日香ちゃん、ますます真っ赤になっちゃった。
「………」
 ガンバレ、明日香ちゃん!
「……私も…梨華ちゃんのこと……好き…なんだ……」
 あぁ…明日香ちゃん……その上目遣いがセクシーだよ……。

 どうです、市井さん? これで私達がラブラブだって分かったでしょ?
 …あれ?…どうしたんですか、市井さん?
 じっと明日香ちゃん見つめちゃって……。
「…明日香…真っ赤になっちゃって…可愛い……」
 なぬ?!
「ちょっと市井さん!!」
 私の声にハッとして。
「分かったよ…二人が付き合ってるってことは納得したけどさ…そんな私のこと邪魔にしないでもいいじゃん」
「べ…別に…邪魔になんかしてないですよ」
「い〜や。明日香はともかく、石川は『早く帰れ』って思ってるね。顔に出てるもん」
 う……そりゃ…早く二人きりになりたいけど……。

 明日香ちゃんがは、私と市井さんを見ながら、
「久しぶりだし、晩ご飯一緒に食べようよ。いっぱい有るしさ。いいよねぇ、梨華ちゃん?」
 ホントは良くない…けど、ま、いいか。
「流石は明日香! 話が分かるねぇ」
 市井さん…何か言い方が気になります。私ばっかり悪者じゃないですか……。
「石川、ポジティブだぞ!」
 ……はぁ〜……せっかく明日香ちゃんと、ラブラブな夜を過ごせると思ったのになぁ……ネガティブ……。

【焼き銀杏】

 梨華ちゃんは不満そうだけど…紗耶香と久しぶりに会えて、私は嬉しかった。
 離れた目で見た娘。の在り方とか、ああだこうだ言いながら、会食みたいににぎやかだ。
「梨華ちゃん、これホンットに美味しいよ!」
「石川やるじゃん」
 もちろん、この会食を用意した梨華ちゃんにも気を配ったり。紗耶香も招かれざる客の自覚はあるらしく、何げによいしょしてる。
 そんなこと分かってはいても、褒められれば梨華ちゃんだって嬉しいみたい。
「でしょう?…『明日香ちゃん』のために愛を込めて買ってきたんですから」
 ……梨華ちゃん…そろそろ紗耶香を許してあげなよ。

 あ、紗耶香と言えば……。
「紗耶香、何か用事があってきたんじゃないの?」
 私にも電話してきたし、ただの思いつきじゃないと思うんだけど。
「あぁ…忘れてた。あのさぁ…私、自費でイギリスに行く目途がついたんだ。それで、みんなに報告しとこうと思ってさ」
「そんな大切なこと、忘れるなっ!」
 私のツッコミにも、紗耶香はケタケタ笑ってた。

【チャーミー石川】

「市井さん、イギリスに行っちゃうんですかぁ?」
 寂しくなっちゃうなぁ……。
「電話でも良かったんだけど……向こう行ったら、何年になるか分からないからさ…行く前に、みんなに会っときたいと思って……」
 早く言ってくださいよぉ……そうしたらイジワル言ったりしなかったのに……。
 明日香ちゃんも、すごく寂しそうだよ。
「いつ行くの?」
「言わない」
「何でよ?!」

 市井さん、何故か照れくさそうに笑ってる。
「……見送りとかされたら…涙が出ちゃいそうだから…明るく旅立ちたいじゃない?」
 私の方をチラッと見て、それから明日香ちゃんと見つめ合ってる。
 ……ちょっと待って。
 今、気がついたけど…市井さん、さっきから明日香ちゃんのことばっかり見てない?
 まさか……まさか…ねぇ……。

「泣き虫・紗耶香〜♪」
 明日香ちゃんは、からかうように言ってる。
「なんだよう」
 拗ねるように言って、市井さんは嬉しそうに笑ってる。
 久しぶりなのに、何だかいい感じ。
 …イヤだよ〜……。

「さっきの私への電話も、イギリス行きの件?」
「まぁね」
「じゃ、明日はもういいんだ」
 明日? 何のこと?
「ダメ。明日香には渡したい物があるんだぁ」
 ちょっとお二人さん、私に分からない話はダメですよ。

「渡したい物?」
「先に言っとくけど、明日まで秘密だからね」
「ケチ〜!」
「ケチで結構」
 ブ〜……私をのけ者にしてる……。

【焼き銀杏】

 ふと気がついたら、梨華ちゃんが怖い顔で睨んでる……。
 ヤッバ……ついつい紗耶香とばっかり話しちゃった。
 ごめんね、梨華ちゃん。
「あ…あのさぁ、梨華ちゃん…明日の夕方、紗耶香と…」
「ダメェ〜!!」
 ……いや…そんなにすごい勢いで否定しなくても……。

「…いいでしょ。その時間、梨華ちゃんは仕事があるって言ってたじゃん。用事が終わったら、すぐに連絡するからさぁ…」
「ダメッたら、ダメェ〜!!」
 …もう…梨華ちゃん…そんなにヤキモチ焼かないでよ。

「お願いだからさぁ」
「だってぇ…心配なんだもん」
 心配? 何が?
「心配って…ちょっとの時間だけだからさぁ」
 梨華ちゃんは、何だかしきりに紗耶香を見てるし……。

 紗耶香は…何だか複雑な表情で様子を見てて…ポツッてつぶやくように言った。
「…梨華ちゃんって…束縛するタイプだったんだぁ…明日香も大変だね……」
 それを聞いて、梨華ちゃんは急に慌てだして……。
「そんな…別に…束縛してるわけじゃ……」
「そう? じゃ、明日の夕方、私と明日香が会ってもいいよね?」
「…はい……」
 梨華ちゃん、今にも泣きそう。
 何でそんなにイヤがるのか分からないけど…梨華ちゃんが何だか可愛そうだよ…。

【チャーミー石川】

 ……市井さんに押し切られちゃった……。
 だってぇ…「束縛するタイプ」なんて言われたら…イヤじゃない?
 別に明日香ちゃんに、「あれしちゃダメ」「これしちゃダメ」って言いたいわけじゃないし。
 明日香ちゃんに嫌われたらイヤだもんね。

 ただ…市井さんと会うっていうのが…心配なんだよ。
 何だか、明日香ちゃんと市井さん…いい感じなんだもん。
 胸騒ぎがするっていうか……とにかく不安なの!
 市井さんの明日香ちゃんを見る目も気になるし……。

 でも…市井さんと会うだけでもダメって…ワガママだよね。
 …ハァ〜……。
「梨華ちゃん…」
 困った顔の明日香ちゃんが、私の手をキュッて握ってくれた。
 きっと明日香ちゃん、私が何でイヤがってるのか、分からないよね。
 それでも私のこと心配してくれて……ごめんね、ワガママばっかり言って。
「…明日香ちゃん……ホントに連絡ちょうだいね……」
「うん。絶対だから…ありがとう、梨華ちゃん」

 そんな二人のやりとりを見てた市井さん。
「ありゃりゃ…明日の予定も決まったし、お邪魔虫はさっさと退散しますか」
 無造作に立ち上がって、サッと玄関まで出て行っちゃう。
「市井さん、もう帰っちゃうんですか?」
 靴も履いちゃって、振り返ってニカッて笑ってる。
「これ以上いたら、本当に梨華ちゃんに嫌われちゃいそうだから」
「そ…そんなこと…ないですよ〜」
 アハハッて笑って、ドアを開けてから、もう一度振り返る。
「じゃ、明日香。明日ね」
「うん。明日」

【焼き銀杏】

 紗耶香が出ていって、ドアが閉まった瞬間、梨華ちゃんが抱きついて顔を埋めてきた。
「明日香ちゃ〜ん……ホントに浮気はイヤだよ?」
 また〜…梨華ちゃん、何余計な心配してんの?
「浮気なんて絶対ないよ。電話でも言ったじゃん…信用できない?」
「そうじゃないけど……」
 じゃあ、何でそんなに心配するの?
 分からないよ……。 

「恋愛って…いつ…何が起こるか…分からないから……」
「…私が心変わりしちゃうかも…ってこと?」
「それは…明日香ちゃんのことは信用してるよ……でも、それでも何か起こるかもしれないし……」
 何かって…私が心変わりしなくても、浮気になっちゃうことがあるの?……想像つかないよ。

「梨華ちゃん、ネガティブに考え過ぎじゃないの?」
「…そうであってほしいけど……」
 もしかして、梨華ちゃん、これまでの嫌な思い出を心に浮かべてる?
 そんなものに縛られて、不安にならないで……。

「梨華ちゃん……」
 自分も不安になりそうなのを振り払うように、梨華ちゃんの背中に手を回して、ギュッて抱きしめる。
「私…梨華ちゃんに安心をあげたいのに…無理…なの?……」
「明日香ちゃん…そんなことない…すっごい…いっぱい元気をもらってるよ」
 本当に? 私、梨華ちゃんを励ませてる?
 思いを込めて、ジッと視線を絡めて……ゆっくり顔を近づけていった。

【チャーミー石川】

 不安なの…明日香ちゃんが、私のことを大事にしてくれるほどに、もっと不安になるの。
 明日香ちゃんの優しさが、あったかくて、嬉しくて……これを無くしたらと思うとゾッとする。
 また、孤独な暗く寂しい毎日に逆戻り。
 明日香ちゃんに出会うまで、ずっとずっとそうだったから、それが当たり前だと思ってたから……。

 だからこのキスの温もりも、いつ消えちゃうんだろうって。溶けちゃいそうな明日香ちゃんの笑顔が、私以外の誰かに盗られちゃうじゃないかって……。
 イヤ! イヤ…イヤ……明日香ちゃん、もっと、ずっと抱きしめてて!
 他の誰かの所になんか行っちゃイヤだよっ!!
 ずっと私の傍にいて。ずっと私だけを見てて……。

 この気持ち、きっと明日香ちゃんには分からないね。
 ご家族も、安倍さんも保田さんも、飯田さんも矢口さんも、それから中澤さんも石黒さんも、そして…市井さんも…みんなが明日香ちゃんのこと、信頼して、可愛がって、大切に思ってる。それほどに、明日香ちゃん自身が輝いてる。
 学校でのイジメさえも、最後には自分の力で道を開いた明日香ちゃん。
 人を好きになるのに、躊躇いなんか無いよね。

 私は違う……私は明日香ちゃんに救われて、孤独から解放された。
 もし、また孤独に陥ったら……どうやってそこから這い出して良いか分からないよ。
 きっとまたダメな人間になっちゃうよ。
 だから…だから…明日香ちゃん……私の傍にいてほしい……。
 なのに……不安なの…明日香ちゃんが、私のことを大事にしてくれるほどに、もっと不安になるの。

 だって…私は汚れてるから。
 明日香ちゃんは「違う!」って言ってくれる。でも、やっぱりそうなんだよ。
 今まで、明日香ちゃん以外にも、たくさんの人に抱かれてきた。
 その誰とも、明日香ちゃんは違う。私を理解して、愛してくれてる。

 だからこそ、その輝くほどに白い明日香ちゃんの思いを、過去の人達の手垢で汚れた私が触れて良いの?って…不安だよ。
 そんなこと考える自体、私はやっぱり汚れてるって思い知らされるの。
 明日香ちゃんを好きになっても良いのかな?
 私だけじゃなくて、明日香ちゃんまで汚しちゃいそうで……怖いんだよ。

【焼き銀杏】

 梨華ちゃんの唇……やっぱり柔らかい……。
 ウットリして、キスの温もりに浸ってた。
 やっぱり電話越しより、本物の方が好き。
 それから…ふわって目を開けたら、梨華ちゃんの頬が濡れてた。
 何で? どうしたの? 梨華ちゃん、泣かないで……。
「……嬉しいの…やっと二人きりになれたから……」
 ホントに?
 でも、すごく寂しそうな目だよ……。

「…一緒に…お風呂に入りたい…いい?…明日香ちゃん……」
「……うん……」
 前よりドキドキしちゃうのは…何でかな?
 その割には、すんなり服を脱いじゃったり……そんなにHになっちゃったのかなぁ?
 それでも、流石に恥じらいまでは失ってなくて、自分でもビックリするくらい、見る見るうちに全身がポッて赤くなっていった。

 手で身体を隠しながらチラッて見たら、梨華ちゃんも真っ赤。
 私の視線に気がついた梨華ちゃんは、ニコッて笑って…グイッて手を伸ばしてきて……ムニョムニョッて胸を…ちょ…ちょっとぉ、イヤン梨華ちゃ〜ん!!
「久しぶりの明日香ちゃんのおっぱい〜♪」
「もう! 梨華ちゃんのH〜!! まだ駄目だって…」
「『まだ』? 明日香ちゃ〜ん、『まだ』ってどういうことかなぁ?」
 あ……そ…それは……。
「ん〜? 明日香ちゃ〜ん、どういうことぉ?」
 …そのぉ……あのぉ……もうイヤッ!
「梨華ちゃんの意地悪ぅ!」

 怒って梨華ちゃんの手を胸から手をどかしたら、代わりにガバッて抱きつかれちゃって……。
「エヘヘェ…明日香ちゃん、チュキッ♪」
 チュキッて…可愛いじゃん…………ハッ!
「可愛い子ぶっても、誤魔化されないぞ〜!」
 そのままバスルームまで、二人でもつれるように入っていった。

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