【焼き銀杏】

 飲み物…冷蔵庫でちゃんと冷やしてる……OK。
 夜食…うどんで良いかなぁ?……まぁOK。
 部屋の掃除……うん。OK。
 あとは…えぇと…梨華ちゃんのパジャマも用意したし……えぇ〜っとぉ……大丈夫かなぁ……。

 さっき梨華ちゃんから電話があった。
『仕事終わったよ〜…今から行くね』
って。
 何となく梨華ちゃんはリラックスした感じだった。

 なのに私は……。
 はぁ〜……何だかめちゃめちゃ緊張するよぉ……。
 何だか変だよね。今更こんなにソワソワするなんて……初めて梨華ちゃんが来たときにも、こんなに緊張しなかったのに……。
 まぁ…梨華ちゃんとの関係って、いきなり深いところから始まったから、後からだんだんと手順を踏み直してる感じ。

 いきなり襲われたあの日……ある意味、梨華ちゃんとの記念日には違いないけど……本当の意味で、素顔の梨華ちゃんを知ったのはもっと後だしねぇ。
 正直…最初は断りきれなかっただけだった……。
 初めてのデートで、おねだりされて…黄色と空色の星形ピアスを、一個ずつ交換したんだよね………そうだ…今日もあのピアス付けよう……。

 そう…吉澤が梨華ちゃんを襲って…今でも思いだす……吉澤への怒りと…梨華ちゃんへの愛情……いつの間にか、すっかり梨華ちゃんを好きに…大好きになってた。
 その日…初めて私ん家にお泊まりしたんだよね。
 梨華ちゃんを護りたい…護るんだって…それだけを考えてたあの日……。
 今でも…その思いは変わらない…はずなのに……。

 あれから梨華ちゃんは、私の中で加速度的に大きな存在になっていった。
 初めて一緒にお風呂に入って……初めて私の方から「梨華ちゃんを抱きたい」って……。
 それで…今度は私が吉澤に襲われて……考えてみれば吉澤って、ホントに私と梨華ちゃんを翻弄してるよね。
 まったく……むかつく!

 まぁ、それはともかく……。
 今、私が梨華ちゃんを愛してて、絶対に失いたくないって思ってる……それは確かで、それが一番大事なことで……。
 紗耶香とのことは…本当に夢だったら…夢ってことにしてしまえたら…どんなに良いだろう…紗耶香には悪いけどさ。

 でも…私だけそんなじゃ、駄目なんだ…きっと。
 だって、梨華ちゃんは自分の過去を私に全部話してくれた。
 本当だったら一番知られたくないことも全部……。
 だったら、私も梨華ちゃんに知られたくないことでも、正直に話さないと…その上で、私の梨華ちゃんへの愛は変わらないってことを伝えないと……。

 梨華ちゃんには私を信じててほしいから……私も梨華ちゃんを信じて、自分をぶつけよう。
 やっと、そんな風に決意出来て……不安は残しながら、それでも梨華ちゃんと面と向かう勇気を固めてた。

 ピ〜ンポ〜ン♪
 きっと梨華ちゃんだ。
「…は〜い!」
 最高にドキドキしながら、玄関へと向かった。

【チャーミー石川】

 さっき、
「今から行くね」
って電話したら、明日香ちゃん…何だか深刻な声だった……。
 私としては、安倍さんのアドバイスもあって、もう吹っ切れた感じ。
 後は明日香ちゃんの話を、落ち着いて受け止めるだけ…そんな気持ちになってるよ。

 だから…明日香ちゃんも深刻にならないでも良いのに……。
 そりゃ、不安もあるけど…ね……。
 でも…どんな時でも真面目な明日香ちゃんが…スキッ!!

 今日だって、明日香ちゃん家にお泊まりだって考えれば、すっごい楽しみだから。
 もし、嫌な話でも……いっぱいお仕置きしちゃうんだ♪
 どんなことがあっても、絶対…絶〜っ対、明日香ちゃんを離したりしないんだから……。

 例え明日香ちゃんの心の扉が閉じてても、私はチャイムをいっぱい鳴らすよ。ノックし続けるよ。
 ピ〜ンポ〜ン♪
 ほら、こんな風に。
「…は〜い!」
 そう。いつでもそんな風に、元気な声で出てきてね。
 はぁ〜……。

【焼き銀杏】

 迎えに出たら、梨華ちゃんはいつも通りにニッコリ笑ってくれた。
 ホッとするよ……でも…だからこそ、自分のやったことが…されたことが……胸に痛い……。
「…あ、夜食、食べる?…うどんしかないけど」
「おうどん? 食べた〜い」
「じゃ、作るよ…梨華ちゃん、疲れてるでしょ?…部屋で待っててね」
「ううん、大丈夫。明日香ちゃんと…一緒に作りたいなぁ…いい?」
 梨華ちゃんと一緒に料理……それだけで…もう幸せだった。

 キッチンに立って、ネギやかまぼこを切ったり、一つの鍋を二人で見つめたり……。
「…もうちょっと…かなぁ?」
 チラッと鍋から上げた視線が、私に向けられる。
 その柔らかい表情が、嬉しくて……。
「……もうちょっと…だね」
 ホントはもう良い頃合いかもしれないけど……まだ一緒にこうしていたいから……。
 ちょっとのび気味のうどん、出来上がり。

「美味しいね」
 二人で食べるうどんの味は、また格別で…のびていようが、こんなに美味しいと思ったうどんは初めてだった。
「…うん。美味しい……」
 このまま…ずっと、このまま……。

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