【焼き銀杏】

 ……やっぱり…もったいなかったかなぁ……梨華ちゃんのキス……すっごく幸せな気分になれるんだけど……。
 でもさぁ…何か…何か駄目な気がするんだよぉ。
 紗耶香とのことで、梨華ちゃんを傷つけちゃった直ぐ後だし……いくら梨華ちゃんが許してくれてもさ…やっぱり…自分でけじめをつけないと!

 ふっと、吉澤の顔が脳裏をかすめる。
 ……吉澤も…ずっとこんな感じで、どうしたら良いか分からなくなってるのかな…って。
 「汚れてる」……吉澤にぶつけられた言葉が…今ほど痛く感じられたことはなかった。
 今の私は…確かに「汚れてる」かもしれない……。
 それは別に、紗耶香だからとか、そういうことじゃなくて……行為そのものに私のどんな思いが込められてるかっていう…極めて個人的かつ精神的な問題なわけで……。

 少なくとも、紗耶香の方は私への好意を、ああいう行動で示してくれたわけで…それを「汚れてる」とは、私には言えない。
 でも…それを受け止めちゃった私の方は…酔いつぶれちゃったにしろ…梨華ちゃんを裏切ってるわけで……その一点だけで、やっぱり私は「汚れてる」。そう思う。
 そんな「汚れた」私が、梨華ちゃんと…キス…したりとか…ましてやそれ以上の行為は…やっぱり駄目でしょう。

 それは、決して梨華ちゃんへの思いが薄くなったわけじゃなく、反対にその思いゆえに余計にそう感じるわけで……。
 だとしたら、吉澤のごっちんへの態度もそういう部分があるのかもなぁ…って思う。
 本気で好きになればなるほど、自分が近づいちゃいけないような気がする。
 でも…一緒にいたいんだよ!

 ……吉澤も…辛いのかも…しれないね……。
 でも、その辛さに耐えかねての行動が、梨華ちゃんや私を襲ったことだとしたら、益々自分を追い込んでるとしか思えないけど……。
 何だか、前には出来なかった吉澤の立場に立って考えることが、多少なりと出来るようになったのは……良かったような……悪かったような……。
 いろいろ人生について考えちゃうね。

 それにしても……。
「……梨華ちゃん?」
「なぁに〜?」
 いや…あの…さっきから私の首に手を回して、超接近状態なんですけど……。
「今日は、い〜〜っぱい甘えさせてもらっちゃうんだ〜。私を寂しがらせた罰なんだから、明日香ちゃんは嫌がっちゃダメ!」
「…………」
 そう言われると反論のしようがないよ。

「今日は寝るのも一緒だからね♪」
「えぇっ!?」
 いや…だから…今日はそういうことは…しちゃ駄目だって……。
「一緒のベッドに寝るだけだよ〜。やだ〜、明日香ちゃんのH〜♪」
「…………」
 ま、梨華ちゃんが喜んでくれるなら…そのくらいはいっか。

【チャーミー石川】

 明日香ちゃんと一緒〜♪
 明日香ちゃんとラブラブ〜♪

 やっぱり、私は明日香ちゃんの側にいられれば何だって楽しいの。実感しちゃった。
 だから、これからは絶対に離さないよ。
「明日香ちゃんも…何があっても私のこと、一人にしちゃダメだよ?」
 腕を抱き込んで、ベッドに腰掛けながら顔を覗き込む。
「う…うん」

「絶対だよ?」
 重ねてそう聞いたら、
「うん…絶対」
だって。
 良かったぁ。
 明日香ちゃん、私にウソは絶対言わないから、この約束も必ず守ってくれるよね。

 市井さんとのことは…やっぱりイヤだけど、明日香ちゃんは悪くないし、変わらずに私のことをスキでいてくれて、それで十分。
 明日香ちゃんがはっきり「好き!」って言ってくれたし……。
「今度のことで、こんなに梨華ちゃんのことが好きなんだって…自分で思ってるより、もっとも〜っと好きだって分かったから……」
 明日香ちゃんの言葉、これからも絶対に忘れないよ。
 この言葉が聞けただけで……市井さんとの事件は、「ま、いっか」って思っちゃう。

 でも…今回のことで、明日香ちゃんを狙ってる人がいっぱいいるって分かって……何か予防策を考えないと……。
 明日香ちゃんが可愛いのは変えようがないし……。
 これから私以外の人に会わない…ってわけにもいかないし……。
 どうしようかな〜……。

 気がついたら、考え込んじゃってた。
 急に黙っちゃった私を、明日香ちゃんが不思議そうな、不安そうな目で見てた。
 慌ててニコッて笑って……それを見て、明日香ちゃん、余計に不安な表情になってた。
「大丈夫。安心して、明日香ちゃん」
 そう言ったのに…やっぱり明日香ちゃんは不安そうだった。
 もう…明日香ちゃんは心配性なんだから〜。
 でも…そういうところも…スキ♪

【焼き銀杏】

 私に抱きついたまま、梨華ちゃんが、何か一生懸命に考えてる。
 どうしたの、梨華ちゃん?
 やっぱり…私のこと…許せない?
 一緒にいて、楽しくない?
 不安だよ……。

 私の視線に気がついて、梨華ちゃんがニコッて笑う。
 いつも通りの柔らかい笑顔。
 私に安らぎをくれる笑顔。

 でも…私の方はいつもとは違う。
 この笑顔を受け止める資格が、私にあるのかな…って。
 安らぎをもらっちゃっても良いのかな…って。
 だから…すごくドギマギしちゃうよ。
 照れるっていうより…恥ずかしい……。

「ねぇ…お風呂…入っても良い?」
 梨華ちゃんが笑顔のまま訊ねてきた。
「あ…うん…大丈夫だよ…」
「じゃ…行こっか」
 そう言って、立ち上がって…私の腕も持ち上げられる。
 え?…もしかして……。

「お風呂も一緒ね♪」
 いや…でも…ここ、家だし……親が……弟も……。
「嫌がっちゃダメ〜!」
 あの…だって……。
「もう! 一緒に入るの!!」
 ……引きずられるようにしてお風呂場まで連れて行かれる私。
 ものすごくちっちゃい頃に、頭洗うのを嫌がった時以来のような……。

「梨華ちゃ〜ん…やっぱりさぁ…やめようよぉ…」
 そりゃさぁ…梨華ちゃんとは、もう何度も一緒にお風呂入ってるよ。
 でもそれは、本当に二人だけの時で…自分の家じゃ…ちょっとマズイッす……。
「明日香ちゃん……私のこと…キライになっちゃったんだ……」
 ピタッと立ち止まって、悲しそうにつぶやく……。

 梨華ちゃん……。
 ……分かってるよ…きっと、ちょっと拗ねて見せてるだけだって……でも……。
「そ…そんなこと、あるわけないじゃん!」
 ムキになって答えちゃうんだよねぇ……。
「…ホント?」
「ホント、ホント!」
 梨華ちゃん、ニコッて笑って……。
「じゃ、一緒にお風呂に入りましょう♪」
 ……ほら…やっぱり……トホホ……。

【チャーミー石川】

 一つダメでも決してあきらめない――私がモーニング娘。で学んだ鉄則。
 そしたら…ね?
 キスはダメだったけど、こうやって一緒にお風呂に入れちゃった♪

「明日香ちゃ〜ん、はい、こっち向いて〜」
 相変わらず、明日香ちゃんは恥ずかしがり屋さん。
 こっちを向くとき、今でもオズオズッて感じで、胸とかを何とか隠そうって頑張ってるんだもん。
 でも…そんな恥ずかしがり屋さんなところも…スキ♪

 大体、隠そうとしたって、明日香ちゃんの胸、しっかり見えちゃってるんだから。
 しかも、ギュッて両手で寄せて上げてで……いつも以上にセクシーだよ〜。
 もうねぇ、見てるだけで、こう…抱きつきたくなっちゃうの。
 でも…今日は明日香ちゃんが怒るから、我慢、我慢。
 湯気でポワポワ〜ッて上気してる明日香ちゃんを洗ってあげて、私も洗ってもらって、一緒に湯船に浸かって……。
 もうそれだけで満足、満足♪

 良い感じでお風呂に入ってたら、突然、外から声が飛んできてビックリ。
「明日香〜」
って、ちょっと眠そうな声。

「お…お母さん?!…な…何ぃ?」
 明日香ちゃん、目を白黒させちゃって…私もビクビクしてたけど、それを見たら可笑しさの方が勝っちゃって、笑いがこみ上げて来ちゃった。
「り…梨華ちゃん、シ〜ッ!」
 焦って人差し指を唇に当てる明日香ちゃんが、また可笑しいんだもん。

「明日香、お風呂? お客さんだけど、上がれる?」
 すぐ外から明日香ちゃんのお母さんの優しそうな声が聞こえる。
「お客さん?…こんな時間に?…分かったぁ…すぐ上がるぅ」
「そう。あんまりお待たせしちゃ駄目よ」
 そう言って、足音がだんだん遠ざかっていった。

「…っふぅ〜……梨華ちゃん、上がろう」
 相変わらずクスクス笑いをしてる私に、ドッと疲れたって顔の明日香ちゃんが声を掛ける。
「うん」
 せっかく二人で入ってたお風呂タイムだったけど、ドキドキ明日香ちゃんが可愛かったから、ま、いいか♪

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