【焼き銀杏】

 梨華ちゃんには部屋で待っててもらって、私はトレーナーにジャージ姿に大急ぎで着替えて玄関に。
 そしたら……。
「ごっちん?!」
「……遅くにごめんなさい…」
 ポツンッて感じで何だか寂しそうに、ごっちんが立ってた。

 本当にもう深夜で、お母さんなんか「お客さん」って言っただけで誰が来たとも言わずに、たぶんもうベッドに潜り込んでる。
 そんな時間に、ごっちんがしかも家なんかに来るって……何事?
 思わずいろいろ考えちゃって、なかなか言葉にならないよ。
 あれこれ考えに考えて、私が言った言葉。

「…どうしたの?」
 こういうときって、当たり前の言葉しか出てこないもんだよね。我ながら動転してるね、かなり。
 そしたら、ごっちんの顔がクシャッて歪んで……。
 ポロポロッて涙がこぼれてた。
「…よっすぃ〜と…ケンカ…しちゃって……」
「…………」
 玄関先で泣かれちゃって……私はどうすればいいのさ?!

 取りあえず……。
「…部屋、上がる?」
「……うん……」
 部屋には梨華ちゃんがいるわけで……まぁ、ごっちんは私たちのこと、知ってるけど……また梨華ちゃんの機嫌が悪くなっちゃうよ…絶対……。
 どうしよう……。
 ごっちんはまだ涙流してるし……。
 もう頭を抱えたくなりながら、ごっちんをなだめて部屋へと連れて上がった。

【チャーミー石川】

 明日香ちゃんの部屋で、髪をバスタオルでワシャワシャ乾かして、さてドライヤーで…と思ってたら、
「…梨華ちゃん」
って、明日香ちゃんの声がした。
 振り返ったら、明日香ちゃんがドアから顔だけ出してた。
 何故だか困った顔。

「どうしたの?…あ…髪、生乾きだよ?…早く入って来て。私が乾かしてあげる」
「うん…ありがとう……」
 言ったきり、明日香ちゃんはそのままモジモジしてて……。
 ??? どうしちゃったんだろう?

「あの…さぁ……」
「ん? 明日香ちゃん、なぁに?」
「あのぉ…お客さんが…来ちゃって……」
 お客さん。
 こんな深夜に誰だろうなって思ってたけど……何かイヤな予感がする。

「それが…どうかしたの?」
 まさか「帰って」とか言ったりしないよね?
「えぇと…もう一人…増えてもいいかな?」
 え?……増えても…って……???

「いや…あのね……ごっち…後藤さんが来ちゃって……」
 ごっちんが?!
 私の顔色をうかがいながら、明日香ちゃんが部屋の中に入ってくると、その後ろからごっちんも現れて……。
 何だかすごい暗い顔してる。

「それでね……あのさぁ……そのぉ……」
 しどろもどろになってる明日香ちゃん。
 その向こうから、ごっちんが申し訳なさそうに口を開いた。
「梨華ちゃん…ごめんね……二人の邪魔しちゃって……でも…最初は梨華ちゃん家って思ったんだけど…電話しても出ないし……他に行くとこ思いつかなくて……」
 そう言うごっちんの目は真っ赤で……私は何も言えなかった。

 続けて明日香ちゃんが恐る恐る。
「…それで…今日、後藤さんを泊めてあげようと…思うんだけど…いいかなぁ?」
 ごっちんの様子を見て、お人好しの明日香ちゃんが他の結論を出すわけが無いことは、私が一番知ってる。
 でもぉ……こんな形で二人の夜が消えて無くなるなんて……。
 と思ったけど、この瞬間、私は閃いちゃった。フフフフ……。
 ごっちんがいても、明日香ちゃんを独り占めできればノー・プロブレムよね!

【焼き銀杏】

「良いよ、明日香ちゃん。ごっちんを泊めてあげて」
 梨華ちゃんはニコニコ顔で、何か拍子抜け。
「…ホントに良いの?」
「良いよ……その代わり……」
 やっぱり何かあるんだ。

「ごっちんにはベッドで寝てもらって」
 ???それは…お客さんだからそうした方が良いけど……何故、梨華ちゃんが嬉しそうに言うんだろう?
「それで〜…明日香ちゃんは私と一緒のお布団で寝ると」
「は?…え…えぇ〜!!!」
 ……それが梨華ちゃんの狙いだったわけ?

「いや…あの…私は応接のソファででも……」
「ダメッ!」
 …一言で却下っすか……。
「そんなことして風邪でもひいたら大変だもん」
「大丈夫だと思うけど……」
「何て言ってもダメッたらダメッ!!」
「…でもぉ……」
 いくら何でも恥ずかしいじゃん……ごっちんの前でイチャイチャしてるみたいでさぁ……。

「あの…私だったら気にしないで。二人がラブラブなのは、よく知ってるから」
 いや…あのね、ごっちん。
「やだもう、ごっちんたら!…じゃ、お言葉に甘えて」
 ちょっと…梨華ちゃん……。
「どうぞ、どうぞ。ごめんね、ベッド使わせてもらっちゃって」
「ううん。ドンドン占領しちゃって。私は…明日香ちゃんを占領しちゃう。キャッ♪」
 …………もう…何でも良いや……。

「……分かりました! 一緒に寝ればいいんでしょ。一緒に寝れば……」
「分かればよろしい」
 梨華ちゃん、大満足の表情で大きく肯いてる。
「はぁ〜ぁ……」
 大きなため息一つ。

 そんな私たちを見てるごっちんに、ちょっとだけ笑顔が見える。
「あ…着替え、どうしようか? 私のじゃ小さいかなぁ?」
 そう言ったら、ごっちんは、
「えっと…このままでいいです」
って言うけど……見ると、デニムの上下で、そのままじゃ絶対に寝られそうもない。

 タンスを開けて、奥の方から私にはちょっと大きくて、いつもは着てない、ゆるめのパジャマを取り出す。
「これなら、何とか着られると思うけど……」
「あ、良いな〜…私も明日香ちゃんのパジャマ着た〜い!」
 ……騒いでる梨華ちゃんは、ちゃんと自前のピンクのパジャマに着替えてるし……。

 ごっちんが着替えてる間に、梨華ちゃんと二人で客間から布団を運ぶ。
「二人で客間で寝ても良かったね」
 後ろで毛布を抱くようにして運んでる梨華ちゃんが、そんなことを言った。
 …それは……何となく身の危険を感じるから却下します。

「……ごっちんの相談にのってあげたいから……」
…ということにしておこう。
「そっか〜…よっすぃ〜とケンカしたって言ってたね」
 私の言葉を疑うことなく受け止めてくれる。
 素直な梨華ちゃんは好きだよ。うん。

 二人で布団を運び込んだら、ごっちんは着替え終わってた。
 ベッドに腰掛けて枕を抱き込んで、ボンヤリと宙を見つめてた。
 パジャマは丈が若干短いくらいで、まぁ、何とかなりそう。
 ……胸がきつそうなのは…うむ…仕方ないね……。
 ショックなんて感じてないやい!

 ……気を取り直して。
「後藤さん……話…聞いても良いかな?」
 梨華ちゃんと二人、布団の上に座って、ベッドのごっちんをちょっと見上げる感じ。
「……聞いてもらっても…いい?」
「私たちで良かったら、聞かせて」
 ごっちんは、少しの間視線をさまよわせて……また泣きそうな顔になって、話してくれた。

【チャーミー石川】

「今晩ね…もう、ねだりにねだって、やっとよっすぃ〜のマンションにお泊まりさせてもらうことになってたの……」
 わ〜♪ ごっちん、積極的〜。
 でも、それくらいじゃなきゃ、恋は成就しないよね。
 特にキスも恥ずかしがるような相手には。
 チラッと明日香ちゃんの方を見たりして。

「もう、私嬉しくって、昨日からワクワクしながら準備してたんだよ」
 分かるよ〜。
 私も明日香ちゃん家にお泊まりするの、今でもワクワクするもん。
 初めてだったら余計に嬉しいよね〜。
「なのに…なのにね……よっすぃ〜のマンションに行ったら、『やっぱり、こういうの良くないよ』とか言い出して……」
 そんな…ひっど〜い。
 よっすぃ〜のバカァ〜!!
 ごっちんの気持ちも考えてあげなよ。まったく〜!

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