【焼き銀杏】

 ……ごっちんが悲しむのも分かるけど……どっちかって言うと、私はお泊まりとか元々苦手だし、吉澤がそういうのを嫌がる気持ちも分からなくはない。
 特に紗耶香とのことがあってからは……。
 ま、当日になってから断るなんて論外だけどさ。
 必要以上に近づくと、壊しちゃいそうで……汚しちゃいそうで、怖いんだよね。
 …私が、吉澤の弁護をするのもおかしなことだけどさ。
 何となく、ごっちんの話を聞きながら、複雑な気分になってた。

「……それで…思わずカッとなって…『もう、よっすぃ〜なんて…キライ!』…って言っちゃって……」
 また涙がポロポロ。
「ホントは今でもスキなのに…私って…バカだね……でも…よっすぃ〜のこと、もっともっと深く愛したいだけなのに…何で分かってくれないのかなぁ……」
 その言葉が、いつかの梨華ちゃんの言葉と重なって、私の心の中に染み込んでくる。
「もっともっと深く愛したいだけ……」

 ごっちんを見つめる梨華ちゃんも、今にも泣きそうな顔。
 梨華ちゃんには、ごっちんの気持ち、共感できちゃうところが多いんだろうなぁ。
 梨華ちゃんの横顔を見ながら思う……私も…自分じゃ気がつかないけど……吉澤と同じように…梨華ちゃんを悲しませちゃってたりするのかなぁ……。
「…ふぅ〜……」
 思わずため息が出ちゃうよ。

【チャーミー石川】

 何でだろ? 明日香ちゃん、元気がないみたい。
 すごい気になるんだけど……。
「ふぇ…よっすぃ〜…うわぁ〜ん!…」
「あぁ…泣かないで、ごっちん!」
 それどころじゃないよ……。

 ごっちん、すっかり号泣モードに入っちゃってる……。
「あの…ごっちん…泣かないでよ〜……ね?…ごっちん〜……ベロベロバ〜……ダメか〜……」
 どうやったら、ごっちんを泣き止ませること、出来るの〜?!

「泣いちゃいなよ…気が済むまで…泣いた方がいいよ」
 明日香ちゃん……。
 冷たいって感じるほど、乾いた言葉にハッとして振り返った。
「…思いっきり泣いちゃうんだよ……それから…吉澤にぶつかっていくのは…それからでいいじゃん…」
 ごっちんに向けられた明日香ちゃんの目は、本当に優しくて……私がドキドキしちゃうほど……。

 見詰められたごっちんも一瞬ポ〜ッとして、涙も止まったみたい。まだヒック、ヒックて感じでしゃくりあげてるけど……。
 あ…嫌な予感がする……。
「明日香さん…かっこいいなぁ……」
 いや〜ん! ごっちんまで明日香ちゃんに……ダメダメ。絶対にダメ〜!!
「ごっちん! 絶対によっすぃ〜と仲直りできるよ! ね? 絶対!!」
 妙に力んで言っちゃったり。

「…うん!」
 ニッコリ笑うごっちん。
 明日香ちゃんは、力んでる私を不思議そうに見てるけど。
 何としても、よっすぃ〜の問題を解決しないとね。
 ごっちんのためにも……明日香ちゃんと私のためにも……。

【焼き銀杏】

 ごっちんも泣き止んで、笑ってくれたのは良いけど……梨華ちゃんの視線が妖しい。
 ごっちんだけじゃなくて、私にも、
「ごっちんとよっすぃ〜を、絶対、仲直りさせてあげようね!」
って……そんなに力んで言わなくても……まぁ…頑張ろうね。

 とにかく。
「明日、二人でちゃんと話し合った方が良いよ」
 ごっちんは「う〜ん…」って唸ってる。
「…明日…私はソロの仕事で…よっすぃ〜…と圭ちゃん、オフなんだよね……」
「え、そうなんだぁ。良いなぁ…私もオフだったら明日香ちゃんと一緒にすごせるのに〜…そしたら…うふふ……」
 いや…だから……梨華ちゃん、ちょっと怖いっす……。

 ウットリしちゃってる梨華ちゃんは置いておいて……。
「まぁさぁ、ごっちんの仕事が終わってからでも、絶対に話し合わなきゃ駄目だよ」
「…うん……分かった……」
 何だか自信なさそうだけど……。
「頑張れ、ごっちん!」
「うん!」

 落ち着いたごっちんを取り敢えずシャワーに案内して部屋に帰ると……。
「明日香ちゃん……」
 何だか不安そうな目の梨華ちゃん。
「…どうしたの?」
「さっき、ごっちんのこと『ごっちん』って呼んでたね……」
 またそのことぉ?……だからぁ…前にも説明したじゃない……。
「…梨華ちゃんが心配するようなことじゃないって…いつまでも『後藤さん』っていうのも変だし……ね?」
 前と同じことを言って、何とか梨華ちゃんを納得させる。
 …はぁ……。

【チャーミー石川】

 呼び方のことで、明日香ちゃんにキッチリ釘を刺しておいて、と。
 シャワーから戻って来たごっちんにはベッドに寝てもらって、私は明日香ちゃんと密着♪
「……梨華ちゃん……ちょっと……」
 困った声を出しても、ここで引き下がったりしないんだから。

「シ〜ッ。ごっちんが起きちゃうよ」
 ガッチリ腕を抱き込んじゃうんだ。
「…はぁ〜……」
 ため息ついてたけど、明日香ちゃんも諦めて、そのまま二人そろって夢の世界へ。
 昨日と違って、今日は良い夢が見れそう♪

 …と思ったんだけど……夢の世界の入り口で呼び返されちゃった。
 フッと布団の中に冷たい風が入ってくるような感じで目が覚めちゃった。
 明日香ちゃんが、慎重に私が抱いてる腕を抜いてるところだった。
 それから……パジャマの上にカーディガンを羽織って、抜き足差し足で出て行って……トイレかな?とも思ったけど、何となく気になって私も起き出して、直ぐにその後に付いて行った。

 明日香ちゃんは私に気付かずに、ドアから外に出て行った。
 どこに行くんだろ?
 空にはちょっと欠けた月。
 その月影が、明日香ちゃんの後姿からアスファルトの上に伸びてる。
 左右に揺れるその影法師の動きは、とてもユーモラスな感じなのに……何故か寂しそう。

 明日香ちゃんの足は、すぐ近くの小さな公園に向かってた。
 公園に入った明日香ちゃんは、真っ直ぐにブランコの方に歩いて行った。
 ギ〜コ、ギ〜コ。
 ブランコに腰掛けて揺られる明日香ちゃん。
 月を見上げて、真っ直ぐに見詰めてた。

 前に、後ろに、行きつ戻りつ。
 その度に明日香ちゃんの顔の陰影が、伸びたり縮んだり。
 明日香ちゃんの表情は、すごい淡々としてて平静なのに、陰影が悲しみを刻んでるように見えた。
 胸の奥がキュ〜ッて苦しくなって……切なくて、心が乱されるような悲しみだった。

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