小説「あすりか」(37)

【焼き銀杏】

 梨華ちゃんと二人で布団に入ったけど……どうしても寝付けなかった。
 最初は、ちょっと恥ずかしくて、ドキドキして……でも、だんだん、「良いの?」、「ホントに良いのかな?」って。
 私の腕を抱きしめて、迷いなく幸せそうな寝顔を見せてる梨華ちゃん。
 その寝顔を見てると、何故だか胸が苦しくて……。

 ジッとしてられない気持ちになって、梨華ちゃんとごっちんを起こさないように、そっと部屋を抜け出した。
 行き先は、直ぐ近くの公園。
 懐かしいブランコに腰掛けて、月をじっと見詰めてると、いろんなことが頭に浮かんでくる。
 小さな頃は、いつでも砂場の縁に上がって、歌ばっかり歌ってたなぁ、とか。
 怖いところを通る時とか、嫌なことがあった時とか、歌っていると気持ちが軽くなった。
 今も…何となく歌いたい気分。

  ♪Close your eyes
    夢の中まで あなたがスキよ……

 自然と「夢の中」を歌いだしてた。
 娘。の曲の中で、何となく一番心に残ってる。
 青白い月の光の下で、本当に夢の中みたい。
 私が今一番好きな「あなた」は……さっきの寝顔が浮かんでくるよ……。

 でも……私…ホントに梨華ちゃんの側にいても…良いのかな?
 紗耶香とのことは梨華ちゃんに許してもらったけど……。
 こんなに好きなんだから、良いに決まってる!
 でも…でもさ……ホントに…梨華ちゃんのためになってるのかな?
 ブランコみたいに、心が揺れて一つに決まらないよ……。

 迷ってるうちに、近づいてくる足音に気が付いて視線を向けると、梨華ちゃんが立ってた。
「…梨華ちゃん……何で?……」
 思わず言葉を飲み込んだ。
 何で…何で泣いてるの?
 月明かりの下で、涙を流しながら佇んでる梨華ちゃんは……とても…とても綺麗だった。

【チャーミー石川】

  ♪Close your eyes

 深夜の静寂をはばかるように、低く静かな明日香ちゃんの歌声が公園に響く。
 こんなに間近で明日香ちゃんの歌声を聴くの、初めて。
 でも……初めてじゃないみたい。

    ♪夢の中まで あなたがスキよ……

 ……この「あなた」って…私のことだよね?…そうでしょう?
 恥ずかしそうに、ちょっと小さ目の声で、私のことを「好き」って言ってくれるのと同じ声だもん。
 何があっても、そのことだけは信じられる。
 明日香ちゃんの歌にウソはない。
 明日香ちゃんが、歌でウソをつくことなんて絶対出来ない。
 聴けば分かるよ。

 だから……同時に明日香ちゃんが悩んでること、私にも分かるよ。
 市井さんとのこと、明日香ちゃんはホントに悪くないって、私は思うんだけど……。
 明日香ちゃん、真面目すぎるね。
 堅物・明日香ちゃん。
 でも……そこまで真剣に考えてくれるから、私のこと、真剣に愛してくれてるって感じられる。

 どうしたら良いのかな〜……私に何が出来るんだろう。
 明日香ちゃんの歌を聴きながら、いくら考えても分からない。
 悲しいよ。
 明日香ちゃんも悲しいね。
 二人分の悲しみが、涙になって落ちていく。

 一歩一歩、明日香ちゃんに近づいて……。
 気が付いた明日香ちゃんが、こっちを見る。
「…梨華ちゃん……何で?……」
 ビックリさせちゃったね。
 ごめんなさい。泣き虫で。
 でも……。
「…悲しいの……何故だか…とっても悲しいから……私も……明日香ちゃんも……」
 明日香ちゃんは、滅多に涙を流さない人だから、私が二人分泣いてあげるよ。
 ほんの少しだけど、悲しみも涙と一緒に流れてくれるから。

【焼き銀杏】

 梨華ちゃんは涙を流しながら、それでも微笑んでた。
 月の光なんか目じゃないくらい、とっても眩しい笑顔で……私は、思わず見とれちゃったよ。
「…明日香ちゃんも…悲しいんだね……」
 そう言う梨華ちゃんの言葉に、何も考えられずに肯づいて。

「私が…代わりに泣いてあげる……少しは楽になれるよ」
 そう…私は泣けない。
 泣いたら、自分がポッキリ折れちゃいそうだから。
 それくらい打たれ弱いから。
 だから、梨華ちゃんが代わりに泣いてくれるって。

 こんなに優しい梨華ちゃんを……好きにならないわけがないじゃない!
 私は梨華ちゃんのこと、大・大・大好きなんだ!!
 やっぱり、私には梨華ちゃんが必要なんだよ。
 だから……梨華ちゃんを幸せにするために、もがいてもがいて、もがき苦しめば良いんだよ。
 梨華ちゃんが側にいてくれるんだったら、どんなに苦しくたって構わない。
 梨華ちゃんさえ微笑んでくれたら、例え自分が汚れちゃっても良い!

 そう思ったら、心が急速に軽くなった。
 目の前には、まだ涙を流してる梨華ちゃん。
「もう…私、大丈夫だよ」
 梨華ちゃんの顔に手を伸ばして、一瞬、躊躇ったけど、思い切って両手で頬を挟むように包んだ。

 今、この涙をぬぐうことが出来るのは、私しかいないじゃない。
 私しか、梨華ちゃんの涙をぬぐう権利をもった存在はいないじゃない。
 だから……もう、梨華ちゃんに触れることを怖がるのはやめよう。
 梨華ちゃんは、私が思ってるより、ずっとずっと強い女の子だから。

 頬を包んだまま、親指で涙をぬぐう。
「明日香ちゃん……」
 嬉しそうに微笑んで……梨華ちゃんは目をつぶった。
 すごく久しぶりに感じたキスは……柔らかくて…温かくて……もう、最高だった。
 やっぱり……梨華ちゃんのキス…好き!

【チャーミー石川】

 やっとキスしてくれた……。
 二人が一つになる瞬間。
 もう何度も感じたはずなのに……それでも、初めてのキスみたいにドキドキした。
 嬉しかった。
 頬を包む明日香ちゃんの手が、すごい温かかった。

 でも、明日香ちゃん……み…耳触っちゃ…ダメ……。
 明日香ちゃんは気がついてないみたいだけど、指先が耳元に触って……神経を直接刺激されたみたいに、カッて熱いものが全身を走って……。
 もう…たまらなかった。
 だから……ゆっくり、でも力を込めて背中に手を回す。

 明日香ちゃんは、まだ私の両頬に手を当てたまま。
 そのままの状態で……私は明日香ちゃんを抱き上げちゃう。
「ん?!」
 唇は絶対に離さない。
 だから明日香ちゃんは、目をまん丸にしながら、何も言えずに私に抱きかかえられて……。

 私は、目の前の植え込みの陰の芝生まで運んで、ゆっくりと明日香ちゃんを横たえる。
「ん〜!…んん〜!!」
 前に明日香ちゃんに怒られちゃったディープなキスで、まだまだ唇は離さない。
 明日香ちゃん、ビックリして足をバタバタさせてたけど、あっという間にフニャッて良い子ちゃんになっちゃった。
 前から感じてたけど、明日香ちゃんって唇が感じやすいのかな?

 ごめんね、明日香ちゃん。
 私……もう我慢できないの。
 もっと直接、明日香ちゃんを感じたい。
 今のうちにパジャマの前をはだけちゃって……。
 明日香ちゃん、やっと気がついたみたい。
「ん〜…ん〜!」
って、また唸ってる。

 何だか、初めて明日香ちゃんを襲った時を思い出しちゃうね。
 そんなことを思い出す余裕があるのは私だけで、明日香ちゃんは混乱しちゃって目を白黒させてる。
「ん!…ふぅ…ん〜……」
 私の手が胸のふくらみを包むと、その冷たさに一瞬、ビクッて身体が強張って、でも、それぞれが同じ温度になるのと同じように、だんだんと指の動きに応えてくれるようになる。
 もう、唇を離しても良いかな?

「ん…ぷはっ…もう!…梨華ちゃん、何するの?!…あ…やん……」
 気丈な言葉で私を問い詰めようとしても、感じちゃった声じゃ、それも失敗してる。
「ごめんね〜。ずっと…ずっと我慢してたんだから…それなのに…明日香ちゃん、耳元、触っちゃうんだもん……もう、我慢できないよ……良いよね?…明日香ちゃんも、ほらっ!」
 円を描くようにだんだんと胸の頂上に向かって指を滑らせたら、堅く尖った感触がする。
「あ…いやん……ち…違うもん!……」
 身をよじるようにしてる。明日香ちゃん…可愛い!

「駄目だよ、明日香ちゃん。騒いだら、誰か見に来ちゃうよ?」
 その一言で、明日香ちゃん、ピタッて動かなくなった。
 代わりに、悲しそうにつぶやく。
「ねぇ……やっぱりやめようよぉ……ホントに誰かに見られちゃうかも……」
 そうだね〜……でも、明日香ちゃん。
 私、もう、自分でも止められないよ。

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