小説「あすりか」(44)

【焼き銀杏】

 店に入ったら店員に、
「お一人様ですか?」
なんて聞かれたけど、
「友だちが席とってるはずなんで」
って答えて、グルッと店内を見渡す。

 えぇっと……いた!
 梨華ちゃん、私には輝いて見えるから、すぐに分かる。何てね。
 向かいの席に座ってるのは……加護ちゃんか。
 何だか楽しそうに話してる。
 ちょっと…何か……仲間外れみたいで…胸がチクッて……。

 早足で、でもコッソリ梨華ちゃんの後ろ側から近づく。
 すぐに加護ちゃんは気がついたみたいで…チラッと私を見て、梨華ちゃんに向かって言った。
「……梨華ちゃん…福田さんにラブラブなんやなぁ」

 思わず、「えっ!」って声が出そうになった。
 今までどんな話をしてたんだろう?
 加護ちゃんの表情は、明らかに梨華ちゃんをからかってる感じ。
 梨華ちゃん、何て答えるだろうって思ってたら、
「そうだよ」
って、はっきり言ってくれた。

 正直、嬉しかった。
 知らず知らず、顔が弛んじゃうくらい……。
 だからなんだろう。
 加護ちゃんが私の顔を見て、
「福田さんも、梨華ちゃんにラブラブみたいだね」
って言ったのは。

 加護ちゃんの視線を追って振り返った梨華ちゃんは、何故だかすごく驚いた表情。
「お待たせ」
 照れながらそう言ったら、梨華ちゃん、
「…何で明日香ちゃんがここにいるの?」
って……呼び出しといて、それはないと思うんだけど。

「だって…さっき電話かけたら、『ここに来て』って梨華ちゃんが……」
「電話?…私に?……」
 慌てて携帯電話を取り出して、着信履歴を見て、
「…ホントだ……」
なんて言ってる。
 一体…どうなってるの?

 そしたら、
「待ってたわ〜♪」
 甲高い声で言って、加護ちゃんがニンマリ笑ってる。
 まさか……。
「似てました?」
 ……やられた……。
 いたずらっ子だってことはチラホラ聞いてたけど…これは…かなりの問題児だ……。

【チャーミー石川】

 絶句してる明日香ちゃんと、勝ち誇ったようなあいぼんの様子を見て、やっと私にも状況が分かってきた。
「あいぼん!…明日香ちゃんを騙したの?!」
 本気で追求してるのに、あいぼんは全然平気な顔。
「だますて、人聞き悪いやん。梨華ちゃんの気持ちを、加護が代弁したったんやで……『明日香ちゃ〜ん、会いたいよ〜』って」
 ……頭に来た。
 私ならともかく、明日香ちゃんをからかうなんて!
 もうプッチンと、何かが切れる音が聞こえちゃったよ。

 ムギュ〜ッ!
 明日香ちゃんを騙したのは、この口?!
「い…いらい!」
「ちょ…梨華ちゃん! やめなって……」
「止めないで、明日香ちゃん!」
 あいぼんのほっぺを、両手でつまんで引っ張って……。

「いらい!…いらいよ〜!!」
 ジタバタ暴れるあいぼん。
「落ち着いて! 梨華ちゃん、どうどう」
「私、お馬さんじゃないもん!!」
 離すもんかって頑張る私を、何とか引きはがそうとする明日香ちゃん。
 絶対許さないんだからね、あいぼん!

【焼き銀杏】

 …いやぁ……参った……。
 梨華ちゃん…案外、力強いんだねぇ。
 引き離すの、必死だったよ…私。
 ようやく落ち着かせた梨華ちゃんは、今、私の隣に座ってて……向かい側に座った加護ちゃんを、まだ睨んでる。
 流石の加護ちゃんも、つねられて赤くなった頬を両手で押さえて、目をウルウルさせながらしょぼんとしてる。

「…あのさぁ…私は気にしてないからさぁ……」
「ダメッ! こういうときは、ちゃんと叱らないと!」
 いつになく梨華ちゃんは興奮してる。
 そんな怒るようなことじゃないと思うけど……。

 まぁ、状況くらいは聞いてみようかな。
「…えぇっと、加護ちゃん…何で私を呼び出したりしたの?」
 梨華ちゃんのマネまでして……って、梨華ちゃんのマネはテレビとかでも、よくやってるか。
「……梨華ちゃんと福田さんが一緒におるとこ…見てみたかったから……」
 ポツッて、うつむいた加護ちゃんが呟くように言った。

「私たちが一緒にいるとこを?」
 どういうことだろう?
「…梨華ちゃん、ずっと嬉しそうやったから…ポジティブになって…良かったなぁって……それで…福田さんって、どんな人なんかなぁって……ちょっと見てみたいなぁって……」
 上目遣いで私の方を見てて……。
 可愛いじゃん。

「そっかぁ…加護ちゃん、梨華ちゃんのこと…心配だったんだ…梨華ちゃんのこと、好き?」
「うん…あ、はい!」
 あどけなくって、ホント、愛らしい笑顔だよね。
「…梨華ちゃんと私…仲良くしても…許してくれる?」
「はい!」
 お、良いお返事だ。
 素直な良い子じゃない。
 何か、梨華ちゃんのホントの妹みたいな感じだし。

「じゃ、これからは、私と加護ちゃんも仲良しだね」
「…ホント…ですかぁ?」
 何かモジモジしてる。
「ホントだよ。私と加護ちゃんは、仲良し小良し」
 手を伸ばして頭を撫でてあげたら、ビックリしたみたいに口を小さく開けて…恥ずかしそうに、それでもニコッて笑うしぐさが、ホント、可愛かった。

【チャーミー石川】

「梨華ちゃん、もう許してあげなよ」
 明日香ちゃん、そう言いながら私の方を見て笑って……。
 ズルイな〜……そんな笑顔見ちゃったら、さっきのことなんか、どうでも良くなっちゃうよ。

「……あいぼん、もう騙したりしちゃ、ダメだからね?」
「うん!」
 本当に分かってるのかな〜?
 明日香ちゃんに優しくされて、私が怒ってるのなんか、もう忘れちゃってるでしょ?
 まったく…もう……。

 それから、明日香ちゃんがスープ・スパを頼んだのと一緒に、私とあいぼんも飲み物を追加して、それなりに楽しい晩餐だった。
「加護ちゃんって、梨華ちゃんの妹みたいで可愛いね」
 明日香ちゃんはすっかり、あいぼんのこと気に入っちゃったみたいだけど、そんな甘い顔したらダメだよ。
 本当に問題児なんだから……。

 それに……何か…妬けちゃうし……。
「加護ちゃんは…出身、奈良だっけ? 今は誰と住んでるの?」
「お祖母ちゃんと…でも、時々お母さんも弟連れて来てくれるし、仕事が休みの時はお父さんも……」
「そっかぁ…加護ちゃんは偉いねぇ」
 明日香ちゃん、あんなに優しく話しかけてる……。
 いいな〜…ちょっと…うらやましいよ〜……。

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