小説「あすりか」(46)

【焼き銀杏】

「ただいまぁ…」
「お帰り。遅かったわね」
「うん…ちょっと友だちに食事に誘われちゃったから……」
「そう。夜は気を付けなさいよ」
「はぁい」

 そんなやりとりをしてから、階段を上って……。
 ♪〜〜 ♪〜〜……。
 部屋の前で携帯電話が鳴った。

 部屋に入りながら携帯電話を取り出して、急いで通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『あ…明日香さん……後藤です…』
 ごっちんの声は、明るいような緊張してるような……。

「どうしたの?」
『あの…アドバイスの通りに、よっすぃ〜に電話したら…呼び出されちゃって……』
 ん? ちょっと待てよ……。
 今、吉澤はあのホテルにいるはずで……呼び出しってことは……。
 ま…まさか……いきなりそんなことは……ハハハ…まさかねぇ……。

「会って話が出来るんだね…良かったじゃん」
『は…はい……あの…それで…私…どうしたら良いと思います?』
 え?…どうしたら…って。
「…会って、ちゃんと自分の思ってることを、伝えれば……」
『そ…そうなんですけど……だって…あの……ホ…ホテルに来てほしいって……言われたから……』
 いや、ごっちん自意識過剰なんじゃ……。
 吉澤は、今いるところに来てって言っただけじゃないかなぁ……たぶん……。
 …いやでも吉澤だからなぁ……。

 とにかく…うかつにそういうことは言えないんだよね。
 だって…そうしたら、何で私が吉澤のいるところを知ってるか…ってことになるじゃない?
 余計にごっちんを不安にさせちゃうもんね。

「……ごっちん、落ち着いて。場所はこの際気にしないでさぁ。キチンと自分の思いを伝えることに集中した方が良いよ」
『そう…ですよね。アハハ…私、ちょっと焦っちゃって……』
 気持ちは分かるけどさ。
 私だって、梨華ちゃんにホテルに呼び出されたら……同じように焦っちゃうだろうし。
 いつも土壇場にならないと、そういう気になれないんだよねぇ。

「ま、とにかく頑張ってきなよ…チャンスだと思うし」
『はい!…頑張れば…もしかしたら…アハハ♪……』
 え?……ごっちん……もしかして…そういう展開を期待してる?
『ありがとうございます、明日香さん。勇気出ました。じゃあ、これで』
 ツ〜…ツ〜…ツ〜……。

 いや、『じゃあ、これで』って……。
「もしも〜し?……」
 ……速攻で切られちゃったよ。
 良いんだけどさぁ……。
 ごっちん、焦ってじゃなくて…期待に興奮して電話かけてきたのかな?
 ……やっぱ…私とは違うなぁ……。

【チャーミー石川】

 自宅に帰り着いて、いつものように「あのピアス」を外して、ベッド脇に大切に置く。
 明日香ちゃんと片方ずつ交換し合った、星形のピアス。
 これを傍に置いておくと、安心して寝られる。
 きっと、これが無かったら、よっすぃ〜に襲われたあの日から、寝られない日が続いたと思う。

 私の傍には、いつも明日香ちゃんがいる。
 これがあると、そう思える。
 もちろん、私の心の中には、ずっと明日香ちゃんがいるよ。
 でもこれがあると、そのことをもっと深く感じられるの。

 ♪〜〜 ♪〜〜……。
 プッチモニの着メロ。
 保田さんかな?って電話を見たら…よっすぃ〜からだった。
 何で?……。

 瞬間的に身が震える。
 怖いよ……明日香ちゃん。
 どうしよう……。

 恐る恐る電話に出る。
「…もしもし?……」
『梨華ちゃん? 私』
「うん……」
 よっすぃ〜、何だか明るい感じ。

『あのさ〜…明日も明日香さんに会うでしょ?』
 明日香ちゃん?
 よっすぃ〜が何考えてるか分からないから、すごい不安だよ。
「……会いたい…会うつもりだけど……」
『じゃあさ〜、言っといてよ』
「何を?」
『…”お節介!”…って』
 え〜? どういうことなの?
「…それって……」
『じゃあね〜。よろしく』
 ツ〜…ツ〜…ツ〜……。

 あの、よっすぃ〜? 『じゃあね〜。よろしく』って言われても……。
「もしもし〜??」
 ……もう切れちゃってる……。
 よっすぃ〜、何のために電話してきたんだろう?
 お節介って…どういうこと?
 やっぱり……よっすぃ〜って分かんない。

【焼き銀杏】

 ごっちんからの電話に、ちょっとペースを崩されたけど、おやすみメールを梨華ちゃんに送って後はもう寝るだけ。
「おやすみ、梨華ちゃん。今日はもう遅いからメールで」
 そしたら、梨華ちゃんからの返事に、
「おやすみなさ〜い。明日の朝、電話するね。伝えることもあるし」
って書いてあった。

 伝えたいことって何だろう?
 まぁ、明日話せばいいや。
 ここんところ寝不足気味だったから、ゴソゴソとベッドに潜り込んだら、すぐに眠気がやってきた。
 逆らう必要もなく、誘われるままに眠りに落ちて……とにかく、夢の中でも梨華ちゃんの笑顔は可愛かった。

【チャーミー石川】

「もしもし〜? おはよう、明日香ちゃん。起きてた?」
『おはよう。今、着替えたところ』
 朝起きて、仕事に行く前の明日香ちゃんを電話で捕まえる。
 電話の向こうから、欠伸してるのが聞こえてくる。
 ふふふ…可愛い♪

『あ、そう言えば、伝えたいことがあるって…』
「うん…あのね…昨日、あの後よっすぃ〜から電話があって……」
『吉澤から?! 何か言われた?』
 よっすぃ〜からの電話って聞いて、急に明日香ちゃんの声が真剣になる。

「大丈夫。別に何にも言われたりしなかったよ。けど……」
『けど?』
「よっすぃ〜から明日香ちゃんに、”お節介”って……」
『……あいつ……』
 明日香ちゃん、ちょっと戸惑いながら、でもちょっと嬉しそう。
 何か…嫌な感じ……。

 あれ?…もしかして……。
「…明日香ちゃん……昨日…よっすぃ〜と……」
『え?…あ…ごめん……昨日…会いに行った……』
 もう!
「また私に相談しないで、そんな危ないことして!!」
 ちゃんと私にも言ってよ!

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