【焼き銀杏】

「梨華ちゃん……」
 いつに無くワガママな梨華ちゃん。
 でも……可愛いなぁ……可愛いよ……。

 私のウソを、こんなワガママで許してくれるつもりなんだね。
 ここは頑張るしかないでしょう!
 …とは言っても、この間も無理言って休ませてもらったばかりだし、仕事は休めないよ。

「…分かった。仕事が終わったら、すぐに飛んで行くから。どこに行けばいい?」
『スタジオに来て。絶対だよ?』
 えっ!…仕事してる最中に…ちょっと抵抗はあったけど、えぇい! 行っちゃうよ!!
「うん。絶対!」

 名残惜しい感じだけど、思い切るように電話を終えて、部屋を出る……と思ったけど、おっと、忘れちゃ駄目じゃん!
 慌てて、梨華ちゃんとおソロのピアスを取りに戻る。
 大事にしすぎて、あんまり付けて外に出たことがないピアス。
 久しぶりに、梨華ちゃんの持ってる双子の姉妹に会わせてあげないとね。
 付け替えるまもなく、バッグに大切にしまって仕事場へと急いだ。

【チャーミー石川】

「…ふぅ〜……」
 切れた電話をゆっくり下ろして、思わずため息ついちゃう。
 緊張と安堵。
 ホントは、ちゃんと私の思いが明日香ちゃんに伝わるか不安だったの。
 でも、明日香ちゃんはキチンと受け止めてくれて……。
 私たち、やっぱりベスト・パートナーだよね?

 さて、夜になるとは言っても明日香ちゃんが来てくれるんだから、私服もおしゃれして行かないと。
 服を取っ替え引っ替え選んで、時間ギリギリでやっと納得して出掛ける。
 もちろんピアスは、今日も、あれ。
 何だかデートの時みたいにウキウキしながら、スタジオに向かった。

「おっはよ〜ございま〜す♪」
「おはよう」
 控え室に入ると、もう私以外の全員がそろってた。

 ツ〜ジ〜と遊んでたあいぼんが、テコテコッて寄ってきて、
「梨華ちゃん…『昨日、ありがとうございました』……」
 まぁ! いつになく丁寧な言葉遣いね。
「って、福田さんに伝えてな」
 ……私に対してじゃないのね……。

「…分かった」
「あ…梨華ちゃんもサンキューな」
 明らかについでだね。
 もう……悲しい……。

 その時、何だか視線を感じて振り返ったら、よっすぃ〜が慌てて目をそらしてた。
 昨日の夜の”お節介!”って言葉が、また聞こえてきたみたいな気がした。
 よっすぃ〜と明日香ちゃんに、何があったんだろう?

 明日香ちゃんは、半分は上手くいったって……。
 でも、よっすぃ〜には危ないことされちゃって……。
 気になるよ〜!
 よっすぃ〜、明日香ちゃんに何したのか、隠さず言いなさい!
 ……って、心の中でだけ問いつめてた。

【焼き銀杏】

 今日は、いつも以上にテキパキ度を上げて仕事する。
 終わったらすぐに出られるようにしないとね。
 そのためには印象が良くないと。
 テキパキ、テキパキ。

「おっ! 明日香ちゃん、何だか張り切ってるじゃないか」
 すぐに主任さんの目にとまっちゃった。
「そうですかぁ? いつも通りでしょう」
 あんまりあからさまじゃ、マズイよね。

「いや…やっぱり張り切った感じだな……彼氏でも出来たかな?」
 ゲッ……。
「な…何でですか。そんなわけないじゃないですか!」
 出来る限り慌てた様子を見せないようにしたつもりだけど……。

「そっかぁ…年ごろの女の子なんだから、彼氏くらい、出来てもいいのになぁ……」
 主任さん、優しい目で私のこと見てた。
 元芸能人ってことで、周りの目を気にしてるって思ったみたい。
「まっ、いろいろあるだろうけど、頑張ってな」
 主任さんに頭をポンポンッてされたら、何だか申し訳ないような気になっちゃったよ。
「…はい」

 自分じゃ気がつかないところで、大人の人に気を遣わせちゃってるんだね。
 元々私って、雇う側からしたら厄介な存在だよね。
 今じゃ一般市民のくせに、雑誌のカメラマンとか、いろいろ訪ねてくることも多いし。

 あらためて、この仕事場に感謝しなくちゃね。
 特に主任さん、ありがとう!
 ……でも、今日は早く帰らせてね。
 ごめんなさい!

【チャーミー石川】

 番組収録のリハーサルなどなど、次々に仕事が進んでいく。
 娘。全体…タンポポ…プッチモニ…ミニモニ。…また娘。全体……。
 二、三週録り溜めの分の衣装を選んだり……同じ様にならないように選ぶのが、これがまた大変なんだよね〜。
「あ、それダメ。一週目の加護と同じ」
「え〜、ウッソ〜…じゃ、オイラはどれ着れば良いの?」
「じゃ〜ね…これは?」
「…いまいちだけど…しょうがないか」

 バタバタしてるうちにお昼になって、出番待ちの間にお弁当を食べる。
 え〜と、空いてる席は……ん…よっすぃ〜の隣……。
 実は私…襲われてから、番組中以外で隣同士になったことない。
 っていうか、私が避けてるんだけど……。
 なのに、今空いてるのは、よっすぃ〜の隣だけ。

 躊躇ってる私に、よっすぃ〜が気がついて……。
「…隣、空いてるよ?」
 矢口さんたちもチラッて私の方を見てる。
「う…うん。ありがとう……」
 これは…座らざるを得ないよね。
 みんなもいるのに、何故だかオズオズ座っちゃう。

 よっすぃ〜の反対側は、ごっちん。
 今朝から二人は良い感じだから、仲直りしたのは間違いないみたい。
 ずっとおしゃべりしながら楽しそうな二人を横目に、お弁当を黙々と食べる私。

 ごっちんがそんな私にニコニコ話しかけてくれた。
「梨華ちゃん、昨日、ありがとうね」
「ううん。別にあれくらい…メンバー同士じゃない。気にしないで良いよ」
「ありがとう」
 チラッとよっすぃ〜の方を見たら、ちょっと眉をしかめてた。
 昨日のこと、気に入らなかったのかな〜……「お節介!」とか言ってたし……。

 その後すぐに、私以外は食べ終わって、一人で取り残されちゃった。
 急いで食べちゃって…追いつこうと廊下に出たら、よっすぃ〜が一人で壁にもたれてた。
 待ち伏せされた?!
 もう焦っちゃったけど、私を見てるだけで、別に何もしてこない。

「よっすぃ〜…な…何?」
「……ちゃんと伝えてくれた?」
 え?……あぁ、「お節介!」ってやつ?
「伝えたよ……明日香ちゃん、複雑な表情だった」
「そう……」

 それで終わりかと思ったんだけど……。
「あんたの明日香さん……胸、結構大きいんだね…」
 な…何ですって〜!!!!
「ちょっと、よっすぃ〜、それって……」
 詰め寄ろうとする私をかわして、
「……あぁそうだ。もう一コ、伝えといてよ……”柔らかくって、よく眠れた”ってね」
 それだけ言うと、ニヤッと笑って、さっさといなくなっちゃった。

 ど…どういうこと〜!
 明日香ちゃ〜ん!!!

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