【焼き銀杏】

 大きな控え室に、ポツンと一人。
 テーブルの上には、フルーツとかお菓子が盛られてる。
 いや、盛られてた形跡というべきか。
 ほとんど無くなってるから。
 それをちょっとつまんでみたり……。

 見渡すと、イスの上とか部屋の隅とか、あっちこっちにメンバーのバッグが置かれてて……雑然としてるよね。
 さっきから何だかソワソワしてしまう。
 自分がメンバーだったときには、控え室に一人で残ったりしなかったから分からなかったけど……何か…この雑然、ガラ〜ンとした感じの中にいると……寂しいもんだね。虚しいって言うかさぁ……。

 仕事が終わって速攻で駆けつけたのは良いけど、案の定、メンバーたちは収録の最中。
 流石に収録現場へ立ち入るのは勘弁って思って、数少なくなった顔見知りのマネージャーさんに頼んで、控え室で待たせてもらってるんだけど……。
 妙に寂しい……。

 ちょっと、ここまで来ちゃったことを後悔。
 それ以上に、梨華ちゃんにウソついちゃったことを大後悔。
 ごめんね、梨華ちゃん……ホント、悪気があってウソついたんじゃないんだよ。
 許してほしい。
 …ここに一人だと…何だかたまらなく梨華ちゃんに会いたくなっちゃったよ。
 だから……早く戻ってきてね。

 相変わらず落ち着かない静寂の控え室。
 でもドアの向こう、廊下をにぎやかさが近づいて来てた。
 収録が終わって、皆が戻って来てる…そうであってほしい。
 当然、梨華ちゃんも戻ってきて……。
 こんなにドキドキして待ってることなんて、今まで無かったなぁ。

【チャーミー石川】

 控え室のドアを開けると、明日香ちゃんがいた。
 思わず、ほっぺが緩んじゃう。
 明日香ちゃんも、何だか照れくさそうに笑ってる。
 傍に駆け寄ろうとして……。

「あぁっ! 明日香ぁ〜!!…元気だったかい?」
 …安倍さんに先を越されちゃった……。
「元気だよぉ…この間、なっちん家に行ってから、そんなに経ってないじゃん」
 安倍さんは、そんな明日香ちゃんの言葉にもニコニコしてた。
 何か、いい感じ…だけどイヤな感じ……。

 でも、安倍さんはすぐに私に気がついて、
「お目当ては梨華ちゃんだもんね…なっちは寂しいよ…」
って言いながら、変わらずニコニコして、明日香ちゃんの隣の席を譲ってくれた。
 やっぱり安倍さんて大人〜♪

 明日香ちゃんの隣に座って、お互いに見つめ合っちゃったりして……。
 ホントに駆けつけてくれて、嬉しい。
 これから、いっぱいおしゃべりできると思ったのに……。

「福田さ〜ん! 昨日はごちそうさんでした」
「加護ちゃんかぁ。いえいえ、どういたしまして」
 今度はあいぼん。
 明日香ちゃんも、何だか嬉しそうにあいぼんのこと見てるし……。

「福田さん、福田さん、加護、モノマネが得意なんですよぉ。見てください」
 あ〜もう! そんなの、どうでもいいでしょ!
 私の明日香ちゃんなのに〜!!

【焼き銀杏】

 加護ちゃん、可愛いなぁ……。
 思えば、私がメンバーだったのとほとんど同じ年齢なんだよね。
「似てます? 似てますよね?」
「うん。似てる、似てる!」
 さっきから、モノマネのオンパレード。

 芸達者っていうか……。
 無邪気な子どもって感じだよね。
 私の場合は、全然、子どもっぽくないって言われてたけど……。
 ……加護ちゃんも、違う意味で年齢不相応な気がするけどね。
 見てると、何だか表情が緩んじゃうよ。

 ん?…何だか視線を二つ感じる。
 近い方は…うっ…梨華ちゃん、何でそんなにオドロオドロした視線で見つめてるのさ?
 その目は、「寂しいよ〜」って訴えてた。

 今は加護ちゃんの相手してるけどさ…後でいっぱいお話しようよ。ね?
 目でそんなことを伝えたら、真剣な顔でコクッて肯いてる。
 ものすごくマジな顔で……ちょっと…怖い……。

 その向こうからは、ちょっとたれ目な辻ちゃんが、ジ〜ッと私のこと見てるし……。
 と思ったら、急にトコトコトコッて近寄って来た。
「あのぉ〜…福田さん…」
「ん? なぁにぃ? どうしたのかなぁ?」
 この子達と話してると、自然とこんな言葉遣いになっちゃう。

「えぇとぉ……ひざに座っていいれすかぁ?」
 ……はぁ?!

【チャーミー石川】

 ちょっとツ〜ジ〜!
 明日香ちゃんに何てことをお願いしてるのよ!!
 いくらお人好しな明日香ちゃんだって、そんなこと突然頼まれて、「いいよ」なんて言うわけが……。

「…いいよ。おいで」
 ウッソォ〜……。
 明日香ちゃんの膝の上で、嬉しそうに笑ってるツ〜ジ〜。
 その後ろから、
「辻ちゃんは甘えん坊さんなんだねぇ」
って、覗き込むみたいに話しかけてる明日香ちゃん。
 ……二人まとめて、可愛い……。

「福田さん、優しいからスキれす」
 イヤ〜ン!
 ツ〜ジ〜、そんなこと言っちゃダメ〜!!
 うらやましいよ〜!!!
 私も明日香ちゃんの膝の上に座りた〜い!!!!

 そしたら、そしたら〜…私だって、いっぱい
「明日香ちゃん、スキ!」
って言っちゃうのに〜……。
 そしたら明日香ちゃんも、
「私も…梨華ちゃんのこと、好きだよ」
な〜んて…キャッ。
 ポワワ〜ン。

 ハッ!
 空想に浸ってる場合じゃない。
「明日香ちゃ〜ん、晩ご飯、一緒に食べに行こうよ」
 とにかく、ここを離れないと二人の時間はやってこないわ。

「ご飯! 辻もいっしょに行くれす」
 明日香ちゃんの顔を見ながら、エヘヘッて笑ってる。
 それを見る明日香ちゃんの目が優しくて……。
 ダメ〜!
 このままじゃ、明日香ちゃんが
「じゃ、一緒に行こっか」
なんて言っちゃうよ〜。
 どうしよう……。

「のの。うちと一緒に食べに行こう。な?」
 あいぼん、偉い!
「あいぼんは、福田さんたちと、いっしょに行かないんれすか?」
「この後、福田さんと梨華ちゃんは、大切なお話があるねん。やからダメやねん」
 あいぼんが私の顔を見てウインク。
 ……何か、あいぼんに心を見透かされてるみたいで複雑な心境。
 でも、折角の協力をムダにはしない。
 ありがとう、あいぼん!

「そ…そうなの〜。ごめんね、ツ〜ジ〜。今度また食べに行こうね?」
「そうなんれすかぁ……こんど、絶対れすよ?」
 私が肯いたら、明日香ちゃん、
「私も約束するよ」
って、小指を出してる。

「ゆ〜びき〜りげんまん、ウソついたら、針千本飲〜ます。指切った!」
 ……明日香ちゃん、絶対、いいお母さんになりそう。
 意外に、って言ったら失礼だけど、明日香ちゃん、子ども好きだったんだね。
 そんな明日香ちゃんも、スキ♪

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