【焼き銀杏】

 加護ちゃんと辻ちゃんにバイバイして、廊下に出たら圭織と圭ちゃん、矢口が何か話し合ってた。
「明日香、加護辻に懐かれちゃってたじゃん」
 苦笑いしながらそんなことを言う矢口に続いて、圭ちゃんも、
「大変だったでしょ?」
って。

「??別に。あの二人、可愛いじゃん」
 そう言ったら、梨華ちゃんも含めて四人ともが、ため息ついてる。
「…たまに会うから、そう思うんだよ…」
「そうかなぁ……」
「そうだよ」
 何だか、私には分からない苦労があるみたいだ。

 おっと、話し込んでる場合じゃなかった。
「梨華ちゃん借りてくよ。今日、あんまり時間ないんだ。また今度ゆっくりね」
「二人で食事?」
「そう。じゃ、またね」
「うん。じゃ〜ね〜」

 梨華ちゃんと二人で出口の方に向かおうとすると、後ろの方から三人の話し声が聞こえてきた。
「…未だに、明日香が梨華ちゃんのどこを好きになったのか…信じられないんだよね……」
「…うん……」
「そうなんだよねぇ……」
 まだ、あんなこと言ってる。
 そんなに、私が梨華ちゃんのこと好きになったらおかしいかなぁ?

 考えながら出口の近くまで来て、バッタリ出会っちゃった。
 吉澤と。
 そしたら吉澤、私と梨華ちゃんを見比べてから近づいて来て、私にコソッと、
「今夜は盛り上がるかもよ」
だって。
 何のこと?

「借りをつくったまんまなんて許せないから、これでチャラね」
 はぁ?
 益々訳分かんないよ。
「いったい何の……」
 問い詰めようとしたら、スルッと身をかわされた。
「梨華ちゃん、頑張ってね〜」
 手を振ったりして、そんなこと言いながら行っちゃった。
 ……何だったんだろう?

【チャーミー石川】

 イヤなこと思い出しちゃった……。
――「あんたの明日香さん……胸、結構大きいんだね…」
――「……”柔らかくって、よく眠れた”」
 そんな言葉がグルグル、グルグル……。

 よっすぃ〜…明日香ちゃんの胸…見たの?
 ”柔らかい”って…触ったの?
 ”よく眠れた”って……どうなったの?
 でも…怖くって明日香ちゃんには聞けないよ。

 明日香ちゃんの胸……そうだよ。大きくて、柔らかくて、安心させてくれる胸だよ。
 でもっ!
 でも、それは私のものなんだからっ!!

 何だか胸の奥が、キュ〜ッて締め付けられるみたいだよ。
 それなのに、カッて熱いの。
 明日香ちゃん……私のものだよね?
 私だけのものだよね?

【焼き銀杏】

 食事の間、梨華ちゃんは何だか元気がない。
「どうしたの?」
って聞いても、
「…何でもない」
って答えばっかり。
 さっきの吉澤といい、何か変だよ。

「…あのね…明日香ちゃん……」
「ん? なぁに?」
 やっと梨華ちゃんの方から話しかけてくれた。
 見ると、うつむいた感じで、ちょっと上目遣い。
 何だか…いつも以上にセクシー。

「……今日…私ん家に…泊まっていって……」
 急に心臓がドキドキし始めた。
「梨華ちゃん……」
 潤んだ瞳を前にして断るなんてこと、私に出来るはずないじゃん……。
 でも…梨華ちゃん、何でそんなに必死な感じなの?

「今夜は盛り上がるかもよ」
 さっきの吉澤の予言は当たりそう。
 それにしても…吉澤、梨華ちゃんに何したの?!

【チャーミー石川】

 店を出て、タクシーを拾って……明日香ちゃんの手に、そっと私の手を乗せてみた。
 明日香ちゃん、私の方を見てニコッて笑って……どちらからともなく指を絡ませてた。
 それから…部屋に戻ってすぐ、思い切って明日香ちゃんにお願いしてみたの。
「…膝の上に座っても…いい?」
って。
 さっきのツ〜ジ〜と明日香ちゃんの姿が目に焼き付いてたから……。

 明日香ちゃん、ビックリした顔してたけど、クスッて笑った。
「いいよ。おいで」
って、両手を伸ばして私を引き寄せてくれた。
 フラフラッて夢見心地で、明日香ちゃんの膝の上に……。

 明日香ちゃんの膝……柔らかい…温かい……。
「ふふふ…今日の梨華ちゃん、何か大きな赤ちゃんみたい」
 私の髪にほおずりするように笑いながら、明日香ちゃんはそんなことを言って……。
 髪の隙間からもれた吐息が、私の耳を撫でる。
 もう…ゾクゾクッて身が震えて……。

「あ、ご…ごめん……」
 私が震えてるのに気がついて、慌てて顔を背けてる。
「ううん…大丈夫」
 それ以上に、よっすぃ〜の言葉で胸の中がモヤモヤしてるから……。
 首だけ振り返って、すごい間近で明日香ちゃんを見つめる。

 柔らかいほっぺから、スッと通った鼻筋……キュッと締まった唇……。
 全部が超アップで私の目の前にある。
「…ねぇ……キス…していい?」
 唇が迷うようにパクパクッて動いて……でも、それからはっきりと動いた。
「…いいよ」
って。

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