【焼き銀杏】

 抱き合ったままの状態で話し続けるのは、何だか恥ずかしいから、梨華ちゃんの手を引っ張って二人でバスルームへ行った。
 お互いに洗いっこして、二人並んで湯船に浸かりながら話の続き。
「大切な二人の時間…でしょ?」
「……うん」
 だからぁ、どっちかがどっちを気持ちよくするだけじゃ嫌じゃない?
 私はそう思うんだけどなぁ。

 梨華ちゃんに、そう言ったら、
「…私は、明日香ちゃんが良かったら、それで良いって思ってたから……」
って首を傾げてる。

「あのね」
 私の方を見てる梨華ちゃんの前髪が、パラッて落ちてきて顔にかかったのを、ちょいって指で分けてあげる。
「梨華ちゃんは、私のことを思ってくれてるでしょ?」
「うん」
「私だって、梨華ちゃんのこと思ってるんだから。梨華ちゃんのために、やっぱり…してあげたいなぁとか」

 何か梨華ちゃん、眩しそうに私を見てる。
「ありがとう♪」
「え?!…あ、うん」
 考えてみれば「梨華ちゃんを攻めたい」って宣言してるのと同じことで……恥ずかしいよ。

 梨華ちゃん、ちょっと期待したような目で私を見てる。
「じゃ、お風呂あがったら…ね?」
 え?!
 ……いや…あの…改めてそう言われると、自信がないよ……。
 梨華ちゃんにやり方を「教えて」って言うのも変だし。
「あ…うん…えぇっと……」
 どうしよぉ……。

【チャーミー石川】

 明日香ちゃん、急にしどろもどろになっちゃった。
 そりゃそっか。
 今までで明日香ちゃんにしてもらったのって、ちゃんとしたのは一回くらいだったもんね。
「やっぱり、今度にしよっか。今日は明日香ちゃん、疲れちゃったでしょ?」
「……ごめん」

 良いんだよ、明日香ちゃん。
 ホントに私は気にしないから。
 こんなことは、慣れてる方がやったら良いんじゃないかな?
 私はそう思うんだけどな〜。

 でも明日香ちゃん、いつも通り真剣に悩んでるみたいだから、今度は上手くリードして、分からないように明日香ちゃんのしたいようにさせてあげようかな。
 照れくさそうにしてた明日香ちゃん、視線をそらして湯船に口元まで浸かってブクブクッてしてる。
 う〜〜やっぱり可愛いよ〜!

「明日香ちゃ〜ん!」
「うわわっ!!」
 思わず抱きつこうとしたら、明日香ちゃんがバランスを崩して湯船の中にブクブクブク〜ッて……。
 大変!
 明日香ちゃんが溺れちゃう!!

 慌てて助け起こしたら、
「ケホッ、ケホッ!…あぁ、死ぬかと思った」
だって。
 その言い方と、髪が濡れてペタッとしちゃった明日香ちゃんが幼く見えて、笑っちゃった。

「もう! 何で笑うの?!」
 プ〜ッてほっぺたを膨らませてたけど、すぐに明日香ちゃんも笑った。
 バスルームに響く二人の笑い声が、とても幸せに響いてた。

【焼き銀杏】

 その日はそのまま梨華ちゃん家に泊まって、次の日、朝早くから仕事の梨華ちゃんと一緒に駅まで歩いて、一旦、自宅に戻る。
 着替えて仕事に出ようとしたら、母さんに捕まった。
「ここのところ、外泊しすぎでしょ。今日は真っ直ぐ家に帰ってきなさい!」
だって。

 確かに続いちゃってるもんねぇ。
 仕様がないか…梨華ちゃんにはメール送っとこう。
 そしたらすぐに返信が来た。
『え〜! 寂しいよ〜!!…でも、仕方ないね。その代わり、いっぱいメールと電話ください。絶対だよ!☆☆梨華☆☆』
 私もすぐに返事を送った。
『ごめんね。メールと電話、必ずするよ。でも、心にはいつでも梨華ちゃんがいるさ。なんちゃってね。from 明日香』

 それからずっと、暇があったらメールのやりとりをしてた。
 内容は、他愛もないことばっかり。
『また保田さんに怒られちゃったよ〜』とか、
『明日香ちゃん、お昼何食べた?』とか。
 そんな一つ一つが嬉しくて、返事を書けることが幸せだった。

 一日、仕事を終えて言いつけ通りに真っ直ぐ帰宅。
 たまには親を安心させてあげなきゃね。
 夕食を食べてから、部屋に戻る。
 一人になってベッドに横になると、梨華ちゃんのことが頭に浮かんでくるよ。
 チラッて、胸についてるだろう梨華ちゃんのキスマークのことを思い出したり。

 当面の問題は……やっぱり、このまま受け身で良いのかってことで、でも、そんなことが一人で考えて解決するはずもなくて……。
 と言って、誰かに相談するって言ってもねぇ。
 なっちにこんなこと話したら大騒ぎになるだけだし、圭ちゃんは顎を指で掻いて困った顔で考え込んじゃうだろうし、圭織は……やっぱ駄目だよねぇ。
 まぁ、裕ちゃんしかいないかって思って、電話してみたけど……。
『お〜、明日香かぁ? 裕ちゃん、今えぇ気持ちなんよぉ。明日香も飲みに…』
 何も言わずに速攻で切ってやった。
 ん〜〜…酔った裕ちゃんに相談なんて出来やしない……。

 後、私たちのこと知ってて、かつ、こういうことに詳しそうなのって……。
 もう思い浮かぶのは一人だけ。
 吉澤かぁ。
 確かに詳しそうなんだけど…昨日も何か意味深なこと言ってたし…どうしたもんかなぁ。

【チャーミー石川】

 夜中に近くなって、やっと収録が終わった。
 急いで明日香ちゃんに電話。

「もしもし、明日香ちゃん? 今、仕事が終わったの〜。メール、返事送れなくてごめんね〜」
『ううん。仕事、お疲れさまだね。帰り、気を付けてね』
 声を聞いたら切なくなってきちゃった。
「明日香ちゃん家に行きたいよ〜」
『……ごめん』
 私のバカ!
 寂しいのは明日香ちゃんも同じなのに……。

「ウソ、ウソ。行ってみただけだから。でも、今後また行きたいな〜」
『タイミング見て、絶対ね』
 焦って言ったら、こんな明日香ちゃんの返事が返ってきて、一転して舞い上がりそうになっちゃった。
 やっぱり私、明日香ちゃんから元気をもらって生きてるね。
「ホントだよ?…じゃ、帰り支度しなくちゃいけないから。家に着いたら電話しても良い?」
『待ってるよ。じゃ、ホントに気を付けて帰ってね』
「うん。それじゃ」

 電話を切って、急いで着替え始める。
「梨華ちゃん、何ニヤニヤしてんの?」
 振り返ったら、よっすぃ〜が私を見て笑ってる。
 ムカッ!
 明日香ちゃんの胸のキスマークを思い出して、よっすぃ〜を睨んじゃう。

「別に。よっすぃ〜こそニヤニヤしてるじゃん」
 私の不機嫌なんか気にする様子もなく、一歩、二歩近づいて来た。
「見つけたんだね。キスマーク」
 何か見透かされてるみたいで、すっごいイヤな感じ。

「何であんなことするの?…ひどいよ」
 私も小声で、それでも突っ掛かるように言ったら、よっすぃ〜はさも心外だって感じ。
「ひどい? お二人の刺激になればって、良かれと思ったんだけど」
 刺激?
 「冗談も休み休みにしろ!」って言いたかったけど、よっすぃ〜の表情からは本気で言ってるとしか思えなかった。
「…本気でそんなこと言ってるの?」
「何で? 本気だよ? ドキドキしなかった?」
 ……開いた口がふさがらないって、こういうこと。

 ため息つくしかないよね。
「もし明日香ちゃんが気づいてたら、きっとショック受けてたんだから! 絶対にナイショだからね?」
「へぇ、気づいてなかったんだ。ま、場所が場所だったからね」
 呑気なこと言ってる。

「絶対にナイショだからね!」
 もう一回、釘を刺したら、
「はいはい」
って、ちょっと首をすくめて私から離れて、そのままドアのところで待ってたごっちんと手をつないで出て行っちゃった。
 手をつないでねぇ……あの二人の仲が進展したのは、まぁ、良いことで、それも明日香ちゃんのお手柄だけど……。
「はぁ〜……」
 何か、またため息が出て来ちゃった。

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