【焼き銀杏】

 はっきり言って、吉澤に相談するなんて気乗りしない。
 今まで、あれだけ振り回されてきたんだから。
 何考えてるか未だによく分からないし。
 でも…そういうのを横に置いて考えれば、条件はピッタリなんだよねぇ。

 まず、今回の相談内容…セックス…については、その気になればかなり詳しいみたいだし。
 皮肉なことに、振り回されてきた分だけ、お互いの状況もよく分かってるし。
 私たちに対してはともかく、相手を大切にしたいって思いは、まぁ、共有できそうだし。
 取りあえず、現状では関係修復してるわけだし。

 でも…でもなんだよぉ。
 吉澤に弱みを見せるの、何だかしゃくでたまらない。
 大体、何て聞けばいいのさ?
 そんな風に電話を手にしながら迷ってたら、急に着メロが鳴り出してビクッてしちゃった。
 しかも、その当の本人からかかってきてたから。

『もしもし?』
 吉澤の声を聞くと、今でもちょっと圧迫感を感じる。
 それもあって、相談するの躊躇っちゃうんだよ。
「…どうしたの。今更あんたから電話かけてくるとは思わなかったけど」
『アハハ…昨日、盛り上がったのかなぁ?って気になったからさ』

 そうだった!
 こいつ、梨華ちゃんに何したんだ?
「一体、何したの?!」
 勢い込んで聞いても、吉澤の方はいたって平静なもの。
『今日、梨華ちゃんにすごい勢いで口止めされたから、ナ・イ・ショ』
 こ…こいつ。

『でもまぁホントのところ、梨華ちゃんに何したって訳じゃないからさ。心配めされるな』
「本当だろうね」
『ホント、ホント。今はごっちんとラブラブで、それどころじゃないからさ』
「…それは、ようございましたね……」
 ごっちんと上手くいってるのはいいけどささぁ……やっぱりこいつが何考えてんだか、さっぱり分からない。

『でも今日の梨華ちゃんの様子だと、盛り上がったみたいで、大変結構』
 電話の向こうで肯いてるらしい。
 昨日のことを思い出して、胸の奥がシクッて痛む。
「…あ…あのさぁ…そのことなんだけど……」
 反射的に言葉が口をつく。
『??? 何か?』
 やっぱり…でも……えぇい! 聞いちゃえ!!

「昨日…私だけ、その…イ…イッちゃってさ、それで……」
 電話を握りしめて、これ以上ないくらい赤面しちゃってる。
『私に梨華ちゃんのイカせ方を教えてほしいわけ?』
 サラッと言えちゃうところに期待を持ってしまう私は…かなり追い込まれてるなぁ。
「ま…まぁ…そういうこと」
『ふ〜ん…じゃ、手取り足取り?』
 え?!
 て…手取…足取り?
「やややや、そうじゃなくって」
 もう焦りまくりで、毛穴が一気に開いたみたいに汗が噴き出す。

『何だ、残念。また可愛いとこが見られるかと思ったのに』
 アッケラカンと笑ってる。
 何てことを言うんだ、こいつは!
 やっぱり相談なんてするんじゃなかった。

「もういい! 用事がないんだったら、もう電話切るよ」
『何怒ってんだよ。ったく…そもそも悩むようなことでもないし。梨華ちゃんの場合、耳とか攻めればすぐじゃん』
 それは……そうなんだけど。
 でも、それも何か違うような気がするんだよ。
 ただイカせちゃえば良いって訳じゃなくて……。
 大体、こいつが梨華ちゃんの弱いところを知ってるっていうことに腹が立つ。

「もういいって! 自分で何とかするから」
 イライラしながら、ぶっきらぼうにそう言う。
『おぉ怖っ。ま、焦んなきゃいいんだよ。慌てず、ゆっくり、ソフトタッチ』
 やっとアドバイスらしきものをしてくれたけど。
「…でも…その間に私の方が……」
『いいじゃん。別に競争って訳じゃないんだし。ま、せいぜい頑張ってみてよ。じゃ』
「あ! もしもし?」

 言うだけ言って、さっさと切っちゃった。
 一体何の用だったんだろう?
 いいように遊ばれたような……。
 でも…ちょっとは気休めになったかも。
 一応、感謝しておこうかなぁ。

【チャーミー石川】

 自宅に帰り着いて、何をさておいても、とにかく明日香ちゃんに電話。
 携帯電話を持って、ベッドの上にペタンと座りながらコール。

『もしもしぃ?』
「わ〜い! 明日香ちゃん、私、今お家に帰ったところ〜!!」
 押さえようとしてもテンションが上がっちゃう。
『…元気に帰宅できたみたいで良かったね』
「うん! ねぇ明日香ちゃん、今何してるの?」
 こんな時間に「何してるの?」っていうのも変だけど、やっぱり気になるよね。

『別に。あ、さっき吉澤から電話があったよ』
 よっすぃ〜から?!
 も…もしかして、キスマークのことばらしちゃったんじゃ。
「そ…それでどんなこと話したの?!」
『…別に何にも。何の用事だったのかも分からなかったし。相変わらず変なやつだよねぇ』
 ホッ。良かった〜。
 取りあえず約束は守ってくれたみたい。

「そっか〜。ね〜明日香ちゃん、明日は…会える?」
 電話やメールも嬉しいけど、やっぱり会いたいよ。
『私も…会いたい。会いたいよ……』
 明日香ちゃんも同じ気持ち。
『でも……』
 そう。「でも」なんだね。
『親が心配しちゃってさぁ、当分の間、仕事が終わったら真っ直ぐ家に帰らなきゃいけなくなっちゃって……』

 やっぱり。
 そんな気がしてた。
 最近、無理ばっかりさせちゃったから……。
 なのに先に謝ったのは明日香ちゃん。
『ごめん……』
「ううん。明日香ちゃんが悪いんじゃないもん。謝らないで…ね?」
 元気な明日香ちゃんが好きだから、謝ったりしないで。
 それに、ホントは無理ばかり言う私が悪いんだもん。

『でも…』
「大丈夫。ず〜っとって訳じゃないでしょ? それに、明日香ちゃん家でのお泊まり、楽しみにしてるから。私が行く分には大丈夫でしょ?」
 明日香ちゃんだけじゃなくて、自分も納得させようとする言葉。
 ――私のネガティブ、出てこないで。
『ごめ…』
「前に明日香ちゃん、私に言ったじゃない。『ごめん』は禁止って。ね?」
 ――これ以上謝られたら、私、泣いちゃいそうだから。

『うん』
「私は平気! メールや電話で元気をもらえるから」
 ――でもホントは会ってお話ししたい。
「そんなことより、今日ね、あいぼんがね……」
 ――会いたい…会いたいよ〜、明日香ちゃん。
 くだらない話をいっぱいして、自分を騙して、いっぱい笑った。
 笑ってないと悲しすぎるから……。

【焼き銀杏】

 その後、ずっと梨華ちゃんと話してた。
 梨華ちゃんは、今日あったいろんなことを教えてくれて、たくさん笑わせてくれた。
 梨華ちゃんも笑ってた。
 なのに…どこか寂しい。
 寂しいから、たくさん話して、話せば話すほど、余計に寂しかった。

 ――会いたいよ。
 ――会いたいね。

 関係ない話ばかりしてても、伝えたい思いは互いに同じ。
 でも、最後まで言葉にすることはなかった。
 言葉にしてしまうと、会えないっていう現実が目の前に現れてしまうから。

 時計はもうとっくに真夜中を過ぎてる。
 さっきから気づいてたくせに、後もうちょっとって伸ばし続けて。
 でも、もう限界だね。
「……あ、もうこんな時間。梨華ちゃん、もう遅いから寝た方が良いよ」
 さも今気づいたように言った。
 ため息が聞こえないように、注意しながら。
『…そうだね。明日香ちゃんも朝、早いもんね』
「うん……」

 それから…互いに無言の時間が流れて。
 吸い寄せられるように唇を通話口に近づける。
 チュッ。
『チュッ』
 ほとんど同時に、電話のこっちと向こうでキスの音がする。
 まるでそれが必然のように。

「……じゃ。おやすみ、梨華ちゃん」
『うん。おやすみ、明日香ちゃん』
 言い終わると同時に電話を切る。
 一瞬でも躊躇うと、もう切れそうもないから。

 何だか鼻の奥がツ〜ンとして、胸がモヤモヤしてる。
「は〜ぁ」
 大きなため息一つ、電話を机の上に置いて、着替えようと服を脱いでいく。
 ブラを外したところで、案の定、彼女たちが自己主張してた。
 前はこんなこと無かったのになぁ。

 ――だって寂しいんだもん。構ってよ。あんたも寂しいんでしょ?
 そうだよ。寂しいさ。だけどねぇ……。
 ――理屈で誤魔化すのは、やめなよ。私たちには分かってるんだから。
 …………。

 説得されたことにして、ふらっと歩いてベッドの上に横たわる。
 ――早く♪ 早く♪
 鼓動と同期して小さく震えながら、乳首ちゃんたちが合唱してる。
 おずおずと両手を伸ばして……彼女たちを包むと同時に、私も、梨華ちゃんのイメージに抱かれていった。

【チャーミー石川】

 電話を切った後、ベッドの上にタオルを敷いて、さっさと全裸になってまるで当然のように胸元に指を這わせる。
 だって明日香ちゃん欠乏症で、どうにかして不足分を補わなきゃいけないから。
「ふぅ……」
 やわやわと乳首ちゃん達と戯れ遊ぶ指先。

 この指は私。
 この指は明日香ちゃん。
 可愛かった昨日の明日香ちゃんを思い出しながら、自分の身体に明日香ちゃんをダブらせてた。

 私の指が明日香ちゃんを愛撫する。
 親指の柔らかい部分で、乳首ちゃんを軽く弾くように撫でられる。
 ピョコンッて小さく震えてる乳首ちゃん。
「ぁ…ん…」
 明日香ちゃんの喘ぎ。耳から頭の中に響いてゾクゾクしちゃう。
 ねぇ、明日香ちゃん。気持ちいい?

 明日香ちゃんの指が私の乳首ちゃんを撫でる。
 軽く弾かれるようにされて、身もだえしちゃう私。
「ぁ…ん…」
 乳首ちゃんから腰の裏側を電流が走り抜けて、堪えきれずに声がもれる。
 私も、その気持ちよさに熔けていった。

 一つの指の動きから、二通りの性感が身体を伝っていく。
 イメージと感覚が交錯し、快感が二乗になって襲ってくる。
 明日香ちゃんを気持ちよくすると、私も気持ちよくなれるの。
 だから、もっと……。

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