【焼き銀杏】

 梨華ちゃんを気持ちよくしてあげたい。
 だからレッスンのつもりで、客観的に見ると笑っちゃうくらい真剣に、自分の身体を梨華ちゃんだと思って触ってた。
 自分でも動きがぎこちなく感じてしまう指に、ちょっとイライラしながら、すぐに梨華ちゃんのようには出来ないって自分に言い聞かせる。

「焦んなきゃいいんだよ。慌てず、ゆっくり、ソフトタッチ」
 吉澤のアドバイスを思い出して、指先に集中して触れるか触れないかでゆっくりと動かす。
「ぁ…」
 今までのぎこちなさが嘘みたいに、梨華ちゃんに触れられた時と同じ快感が走る。

 前に一度、梨華ちゃんと触れ合ってるうちに、無意識にマネしてたことがある。
 あの時、梨華ちゃんは本当に感じてくれてた。
 今もあの時と同じ感じ…だと思う。
 自信はないけど……。

 そのうちに、だんだん息が荒くなってきた。
 梨華ちゃん…もう、良いかなぁ?
 躊躇いがちに、ゆっくり手を下の方に伸ばす。
「……ぅぁ……」
 すっかり準備万端。
 湿り気を帯びてて、指を滑らかに受け止めてくれる。

 り…梨華ちゃん、入れるよ?
 もう精神的に余裕が無くなってる。
 のどはカラカラ、唇はカサカサ。
 ドキドキしながら、改まった気持ちで指を進める。
 やっぱり上手に愛してあげたいから……。

 でも、いくら梨華ちゃんだと思っても、実は私自身なわけで……一生懸命にやればやるほど、あっと言う間に、ふわふわって気が遠くなってきた。
 今度は梨華ちゃんを悦ばせてあげられるかなぁ……。
 目の前がチカチカ光る中で、ただそれだけを考えてた。

【チャーミー石川】

 イメージの中で明日香ちゃんは昨日と同じようにイッちゃって……ついでに私も……。
 二人だけの喜びの時間を味わってる。
 何とか明日香ちゃん欠乏症も治まってくれそう。

 しばらくそのままボ〜ッてしてたら、昨日の明日香ちゃんの言葉を思い出した。
「どっちかがどっちかを気持ちよくするだけじゃ嫌じゃない?」
 明日香ちゃんは真剣な顔で言ってたけど……どうだろう。
 私は無理しなくてもって思うんだけど、明日香ちゃんに言わせると、
「二人で幸せになるため」
ってことらしいし……。

 別に私はイヤじゃないし、明日香ちゃんが一生懸命に考えてくれるのは嬉しいけど、あんまりにも明日香ちゃんが真面目だから心配になっちゃうよ。
 自分を追い込んじゃってるように見えなくもないし。
 私はホントに、明日香ちゃんが良かったら、それで満足なのに。
 それじゃダメなのかな〜?

 ちょっと寒くなってきたし、お風呂に入った。
 身体を洗いながら、まだ引っかかる。
 明日香ちゃん、何でそんなことが気になっちゃうんだろう?
 自然な流れに任せてれば良いんじゃないかなって思うんだけど。

 私は、恥ずかしそうにモジモジしてる明日香ちゃんもスキ。
 いつもキリッとしてて、他の誰にも見せない姿、私だけの明日香ちゃんだから。
 今のままの明日香ちゃんで、私は十分スキなのに。
 って言うか…ホントは、明日香ちゃんが離れていっちゃいそうで心配で……。

 一つくらいは私に頼りっきりなこと、残しておいてほしいの。
 いつまでも、私に抱かれて身もだえしてる明日香ちゃんでいてほしいよ。
 でも、明日香ちゃんは根っからのしっかり屋さんだから……。
「は〜ぁ」
 ため息出ちゃうね。
 お風呂から上がってパジャマに着替えて、バサッてベッドに倒れ込む。
 降りたブラインドの隙間から、チカチカッて街明かりがこぼれてた。

【焼き銀杏】

 翌日も、お母さんに
「早く帰ってきなさいよ」
って言われながら仕事に送り出される。
 ……ずいぶん信用なくしちゃってるなぁ。

 でも、それも仕方ないかな。
 連続で外泊したり、夜に雨に打たれながら歩いて帰って来たり……。
 心配しない方がおかしい位。
 私のことを思ってくれてるわけだから、親には感謝しないと。

 ……それでも梨華ちゃんには会いたいよ…。
 だから、今は我慢して信頼を取り戻さないとね。
 まずは、家に梨華ちゃんを呼んでお泊り会が出来るまでには回復させなきゃ。
 仕事をしながら、そんなことをあれこれ考えてた。

 昼休みにメールを送ったら、梨華ちゃん、
「メールありがとう! これで明日香ちゃん欠乏症が治っちゃったよ♪」
だって。
 思わずクスッて笑いながら返信する。
「私も梨華ちゃん不足が解消されたよ」
って。

 何だか急に周りがポカポカしてきた。
 会えないことは切なくて、寂しくて……。
 でも、会えなくたって梨華ちゃんと私は繋がってるよね。

 メールとか電話とか、手段は何だって良い。
 おしゃべりだって文字だって、少しでも触れ合うことさえ出来れば、互いに元気になれるから。
 切なさなんて忘れられる。
 梨華ちゃんも頑張ってる。
 私も頑張らないとって。

 メールをもう一度読み返して、
「よしっ!」
って気合いを入れ直す。
 梨華ちゃんのお陰で午後の仕事もはかどって、帰りには両親にケーキまで買っちゃった。
 これでご機嫌をとって、お泊まり会を許してもらおうって魂胆。

 ワクワクしながら家路を急ぐと、寂しげな黄昏時の人影さえ、何だかユーモラスに感じてくる。
 梨華ちゃんと抱き合ったあの公園の横を通って、笑顔で帰宅。
 さぁて、お泊まり会開催を認めさせなくちゃ。
 梨華ちゃんと私の未来は、交渉手腕にかかってくる。
 気を引き締めていかないとね。
 ドアを開けた瞬間から、私は名外交官に成ってるはず。
「ただいまぁ!」

【チャーミー石川】

 明日香ちゃんからのメールを何度も読み返す。
 私だけが寂しいんじゃない。
 明日香ちゃんだって、ジッと耐えてる。
 たった一回のメールのやり取りで、
「私も梨華ちゃん不足が解消されたよ」
って、喜んでくれる。

 私だって頑張るゾ!
 やる気満々で、午後からの雑誌の取材に臨む。
 新曲への思いとか、最近はまってることとか、ワイワイにぎやかに受け答えする。
「…え〜と……これはインターネットで見かけた情報なんで、本当かどうか分からないんですが」
 そろそろ取材時間も終わりってところで、記者の人がそう前置きして質問してきた。
「石川さんが、脱退した福田明日香さんと一緒にいたのを見たっていう情報なんですが…これ、本当ですか?」

 瞬間、ヒヤッとしたものが背筋を走った。
 別に一緒にいたって問題ないよねって思いながら、でも、もしそれ以上のことがバレたらっていう心配がのどを塞いでた。
 私が黙っちゃったことで、イヤな空白が広がる。
 ど…どうしよう。
 何かに圧迫されてるみたいに息が苦しくなって、もうパニックだった。

「そうなんですよぉ」
 声がした方に、一斉に視線が集まる。
 飯田さん……。
「前に明日香がコンサートに来てくれて、その時に、仲良くなったみたいでぇ。私も二人のこと、応援してるんです」
 突然のことで、私は話についていけずに、どう話を合わせたらいいのかも分からなかった。
「それは…どういう……」
 でも、それは記者の人も同じだったみたいで、怪訝な顔で飯田さんを見つめてた。

「明日香と石川は、同い年なんですよぉ。だからぁ、『一緒に遊んであげてね』って。ね?」
 平然とそんなことを言う飯田さん。
 私はただ肯くのが精いっぱいで……。
 リーダーの横顔が、何時にも増して頼もしかった。
 ……何となく、だったけど。

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