; 小説「あすりか」(57)

【焼き銀杏】

 ダイニングに入ったら、お父さんがテレビを見てた。
「よぉ、お帰り。今日は早いんだな」
「うん。まぁね…」
 いきなり釘を刺された感じ。

「それよりさぁ、ケーキ、買ってきたよ」
「へぇ、どうしたんだ? 何か、ねだろうって言うんじゃ…」
 ……バレバレだったかな?
 でも、ここはとぼけるしかないよね。
「そんなんじゃないよ。ここのケーキ、友だちに好評だったからさ。家にも買って帰ろうかなって」
「ふ〜ん…そっか。じゃ、晩飯の後にみんなで食べよう」
「そだね」
 言いつつケーキを持ってキッチンの方へ歩いて行く。

「お母さん?」
「あら、お帰り」
 チラッて壁時計を見る。
「ちゃんと早く帰ってきたのね」
 …そんなに信用無くなってんのか、今の私……。

「うん。ねぇ、ケーキ買ってきたから、食後に食べよ?」
「あら、珍しい。高いケーキにならなきゃ良いけど」
 中を覗きながら、極太の釘を刺してくる。
 まぁ、そのつもりでいてくれた方が、話が早いって考え方も…ある…かな?
 ちょっと、先行き心配だなぁ。

【チャーミー石川】

「石川はぁ、ネガティブなんですよ。コンサートのことでいっぱいいっぱいになってたみたいだから、元メンバーの明日香だったらそういう気持ちも分かるだろうしぃ、だから『・ホ川と仲良くしてあげてね。お願い』って感じで」
「…はぁ、そうですか」
 飯田さんから私の方へ視線を戻しながら、記者の人は曖昧に肯いてる。
 今度こそ、私がお話ししなきゃ。
 お…落ち着いて……。

「話してみたら、あす…福田さんは、本当に私のことを分かってくれて…すごい励ましてくれたんです。だから…今、一番元気をもらえる人です」
 自分でもビックリするくらい、スラスラ話せた。
 だって、全部本当のことだから。
 私のこと、一番分かってくれるのは、明日香ちゃんだから。
「へぇ、そうですか。じゃ、今でも会ったりしてるんですね」
「梨華ちゃんだけじゃないですよ」
 安倍さんが、とても嬉しそうに言った。
「電話で話したり、メール送ったり。明日香は、なっちの妹ですから」

「え〜! 明日香は矢口の妹だい!」
 矢口さんが口を尖らせる。
「それじゃ、なっちはその上のお姉さんってことで」
 安倍さんは、隣に座ってる矢口さんの頭をポンポンッてしながら、そう言った。
「何だよそれ!」
 ツッコミながら、矢口さんは笑ってる。
 みんなも笑ってた。

「皆さん、仲が良さそうで…じゃ、そろそろ時間なんで。今日はありがとうございました」
 記者の人が立ち上がりながら頭を下げてる。
『ありがとうございました!』
 声をそろえて言いながら、心の中でホッと胸をなで下ろしてた。

【焼き銀杏】

 両親と弟と一緒に夕食を食べる。
 お祖母ちゃんはもう店に降りちゃってるから、一家全員ってわけじゃないけど、四人そろっての夕食は、本当に久しぶりだ。
 和やかな団らんのひととき……にはならなくて、弟は「友だちと約束があるから」とか言って、バクバク食べ散らかして、さっさと出掛けちゃった。
 それでも家族って良いなって思っちゃうのは、吉澤のこととか、いろいろあったからかな。

「…それで?」
 私が買ってきたケーキとコーヒーを目の前にして、お父さんが私を見つめてた。
「何が?」
「何か話があるんだろう?」
 先刻お見通しって訳で……。
 キッチンから手を拭きながら戻ってきたお母さんが、お父さんの隣に座る。
 向かい合ってた私も、思わず座り直しちゃう。

 いや…何か、深刻な場面になってきてない?
 重大な告白に相応しい場面って言うか……。
 ともかく私としては、機嫌の良さそうな時に、ほんの軽い感じで、
「ねぇ、今度、家でお泊まり会してもいいでしょ?」
って言おうかって思ってたのに。
 そんな雰囲気じゃなくなっちゃったじゃん。

「で? どこの誰なんだ?」
 誰…って?
 梨華ちゃんのことを聞いてるのかな?
「石川さん…」
「石川…その子のところに泊まってたのか?」
 間髪入れずに尋ねてくる。
「そう…だけど」
「そうか……」
 何かやっぱり、空気が違う。

 しばらくは無言。
 必要以上に深刻な雰囲気がジワジワと広がっていく。
 一体、この重さは何?
「あのぉ…お父さん?」
 耐えきれずに声を掛けた私をジッと見て、一つ咳払い。
「それで…明日香は…好きなんだな?…その男の子のこと」
 ……ハァッ?!

「ちょ…ちょっと、お父さん! 何の話?!」
 驚いてる私の顔を見て、お父さんもお母さんも、怪訝な表情。
「何の話って……外泊するほど明日香が好きな男なら、父さん達も真剣に考えなきゃならんと……」
 うっそ…何だかものすごくショックだった。
 お父さん達には私、そういう風に見られてた訳?

【チャーミー石川】

 次のお仕事への移動で車に乗り込んだ時に、さり気なく飯田さんの隣の席をキープする。
「飯田さん、さっきはありがとうございました」
「? 何がぁ?」
 不思議そうな顔。

「明日香ちゃんの質問…必要以上に焦っちゃって……」
「あぁ、さっきのあれね。別に気にしないでいいよ」
「ありがとうございます」
「いいって」
 笑ってる飯田さんは、また一段と美形で…。
 でも大丈夫だよ、明日香ちゃん。
 惚れちゃったりしないから。

「石川…明日香とは上手くいってるんだね?」
 突然、そんな風に確認してきた。
「はい♪」
「ふ〜ん……」
 ちょっと首を傾げて私の目を、ジ〜ッと見つめる飯田さん。

 ……そんなに見つめられたら、ドキドキしちゃうじゃないですか。
 普通、絶対に誤解されますよ?
 でも、私は大丈夫だからね、明日香ちゃん。
 私には明日香ちゃんがいるから、明日香ちゃんだけで満たされてるから♪

「……やっぱり、明日香の気持ち、分かんない」
 飯田さ〜ん! 大真面目に考えた結論が、それですか?!
「石川…あんた自分で、何で明日香に気に入られたか分かる?」
 そんなの私に聞かないでくださいよ…悲しくなっちゃうじゃないですか。
 なのに飯田さん、私のこと、まだ見つめてる。
 明日香ちゃ〜ん、助けて〜!!

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