; 小説「あすりか」(58)

【焼き銀杏】

 けど、梨華ちゃんとのことは、お父さん達が言うような意味合いもあるかも知れない訳で……。
 ある意味、鋭いのかもしれない。
 でもそんなことは、今言うようなことじゃない。
「…石川さんって、モーニング娘。の石川梨華さんだよ?」
「……そうなのか? 父さん達に嘘ついてるんじゃないのか?」
「本当だって!」
 あんまりにも私のこと信用してないから、ちょっと腹が立ってきた。

「自分達の娘を信じなさいって」
 やっと不信を拭えたのか、二人とも、あからさまに安堵の様子が表情に現れてる。
「そうか…そうだな」
 ホッしながら、カップを口に運んでる。
 一気に空気が弛んだ。
 今がチャンス!

「…それであのぉ…信用ついでにお願いするんだけど……」
「何だ?」
 明らかにさっきとは違って気安い調子の返事。
「その石川さんがさぁ…また家に遊びに来たいって言ってて…お泊まり会、してもいいでしょ?」
「家で? そうだなぁ…母さんが良いって言うなら、父さんは別に……」
 やった! 第一段階クリア。

「石川さんって、この間も来てた子でしょ? 母さんだって、別に構わないけど…良さそうな子だったし」
 おぉっ! 梨華ちゃん、お母さんに好印象じゃん!!
「…ちょっと声がキンキン響くのが、あれだけど」
 一言余計だよ、お母さん…。
「でも大丈夫なの? 忙しいのに、家なんかに来てもらっても、大したことできないけど」
「良いんだって。しゃべってるだけでも楽しいって言ってくれてるし。気分転換になるってさ」
「それなら良いけど……」
 よしっ! すべてクリア!!

「じゃ、石川さんの予定聞いて、それで日程決めるからね?」
「はいはい…でも、あんまり急には困るわよ」
 う…やっぱり明日って訳にはいかないか…そりゃそうだよね。
 まぁ、それは仕方がない。
 お泊まり会が実現できるんだから、無理ばっかり言うわけにはいかないよね。

 浮き浮きしながら部屋に戻ろうとして、ダイニングのドアのところで振り返る。
「お父さん、お母さん…」
「ん?」
「…ありがと…ね」
 お父さんはカップ片手に、お母さんはキッチンに向かいながら、同じように笑ってた。

【チャーミー石川】

「ウッソ〜?!」
 思わず叫んじゃった。
 だって、明日香ちゃんからのメールに、
「お泊まり会、OKだよ。いつが良い?」
って書いてあったから。

 会える。明日香ちゃんに。
 息が止まりそうなほどに胸が高鳴って、見つめすぎて視界が曇っちゃってた。
「石川?……交信中?」
 飯田さんに言われちゃうほど、携帯電話を両手で顔の前に持って、穴が開くほど見つめてた。

「石川? ホントにどうしちゃったの?」
 今度こそ、本気で心配になったみたい。
「お泊まり会……」
「は?」
 キョトンとした飯田さんの方に向き直る。

「明日香ちゃん家でお泊まり会するんです!」
 二回、三回と瞬き。
「…ふ〜ん…あっそう…良かったね…」
 あ。飯田さん、何でそんなに冷たい反応なんですか〜?
 一緒に喜んでくださいよ。
「何でかなぁ?…石川がはしゃいでると、何か、素直に喜べないって言うかぁ」
 ひ…ひどい……。

「まぁ、でも良かったっしょ。明日香も喜んでるなら、それで良し!」
 明日香ちゃん…今でも皆さんに愛されてるね。
 私は……まぁいいや。
 明日香ちゃんの愛だけあれば……寂しくなんて……シクシク。

【焼き銀杏】

 初めてでもあるまいし、何でこんなにドキドキしてるんだろう。
 梨華ちゃんに会える。
 そのことが、こんなに心をときめかせるなんて……。
 折角、梨華ちゃんを家に迎えるんだから、何かでおもてなししないとね。
 何にしよう?

 ♪〜。
 浮き浮きしながら、あれこれと考えてたら、梨華ちゃんから返信メール。
「やった〜! 今日の夜からでも行きたいよ。でも、それじゃご両親に迷惑かけちゃうからガマンだね。私、四日後がオフなの。その前の夜からお泊まりしたいな。大丈夫かどうか、 ご返事待ってるね。☆☆梨華☆☆」

 明々後日かぁ。
 ため息出そうなほど先のことにも思える。
 でも、会える日が決まれば、腹も決まるよね。

 お母さんに確認したら、
「その日、お母さん、地区の寄り合いで出ちゃうわよ」
って。
「いいよ別に。私が待ってれば、それで十分」
 自分で、自信満々の自分に驚くくらい、キッパリ言い切る。
「それなら、その日でもいいけど……」
 お母さんは、「ホントに大丈夫?」って感じだったけど、全く問題なしだよね。

 梨華ちゃんと私が直接会う。
 その一大イベントだけで、もう十分。
 後のことは、ほんの些細なこと。
 私自身がどうやって梨華ちゃんを迎えるか、それだけを考えれば良かった。
 部屋に戻って、ああでもない、こうでもないってワクワクしながら企画を練り続けてた。

【チャーミー石川】

 明日香ちゃんから、「OK」のメールをもらって、心はもう三日後。
 お仕事から明日香ちゃん家に駆けつけて、ドアを開いたら明日香ちゃんが待っててくれて……。
 後はもうアツアツのラブラブ♪
「キャ〜ッ!」
 両手をほっぺに当ててジタバタしたり。

「……梨華ちゃん? 何してんの?」
 見上げたら、ごっちんが不思議そうな顔で私を見てた。
「エヘヘ〜。知りたい?」
 顔が弛んじゃってるのが自分でも分かる。
「…ううん。別に」
 何故だか一、二歩後ずさりながら、ごっちんはそんなつれないことを言う。

「ウッソ。知りたいくせに〜」
「いや、ホント。別に知りたく…」
 皆まで言わなくても教えてあげちゃう。
「あのね〜今度、明日香ちゃん家にお泊まりに行くんだよ」
「へぇ…良かったね」
 口の中で「あ〜ぁ」って感じの呟きを飲み込んだのは、聞こえなかったことにしよう。

「うん! もう楽しみで仕方なくて〜」
「あ…うん。そうだろうねぇ」
「でしょでしょ? ごっちんもそう思うよね〜?」
 もう浮かれちゃって、その後も一方的にしゃべり続けてた。

 ペシッ!
 後頭部に軽い衝撃。
「あ痛っ!」
「梨華ちゃん、しゃべりすぎ。うるさい」
 振り返ったら、怖い笑顔を浮かべたよっすぃ〜が仁王立ちしてた。

「痛〜い。ひどいよ、よっすぃ〜」
「梨華ちゃんがうるさいからいけないんだよ。ごっちん、困ってるじゃん」
「そんなことないよね〜?」
 楽しくおしゃべりしてただけなんだからって、ごっちんに同意を求めた。
「えぇと…」
 ごっちん、何で困った顔してるの〜?

「そんなことあるの!」
 よっすぃ〜決め付ける。
 睨み付けられてタジタジッてなったところを、よっすぃ〜はごっちんの手を引いて行っちゃった。
 よっすぃ〜の怒りんぼう!

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