; 小説「あすりか」(59)

【焼き銀杏】

 結局、別にパーティーって訳じゃないから、部屋の飾り付けをする必要もなく、かと言って、大したプレゼントを買えるわけでもなく、取り敢えず手作りのデザートでもてなそ・、って考えた。
 メニューは「お茶のムース」に決定。
 何でかって言うと……レシピも見ずにちゃんと作れるのは、これしかなかったんだよね。
 我ながら、ちょっと情けない。

 「それでもね」って、気を取り直す。
 梨華ちゃんと一緒にデザートをつつきながら、たくさんおしゃべり出来たら、それだけで幸せだから。
 大体の材料は、普通に手に入る。
 味の決め手はお茶な訳だけど……これだけは普通のお茶じゃ芸がない。
 これくらいは凝らないとね。

 都内でも美味しいお茶は手に入らないことないけど、前にお祖母ちゃんがお土産に買ってきたお茶で作ったムースが、これまでで一番の出来だったから、何とかそのお茶を使い・スい。
 でも…どうしたら手に入るんだろう?
 !!
 うんうん唸りながら考えてたら、パッ!と閃いた。
 確かアイツの実家、あのお茶の産地のすぐ近くじゃなかったっけ?
 取り敢えず確かめてみる価値はある。
 アイツに、また貸しをつくるのは癪に障るけど、まぁ、そんなことは大事の前の小事。
 躊躇わず電話を掛けた。

【チャーミー石川】

 同じ楽屋の中にいるのに、よっすぃ〜から「あっちいけビーム」が放射されてる。
 …もしかして、妬いてるのかな?
 まさかね。
 ごっちんとは、おしゃべりしてただけだし。
 ……でも。

 ごっちんと楽しそうにおしゃべりしながら、時々私と目が合うと、あの怖〜い目で睨まれる。
 よっすぃ〜もやきもち焼きだね。
 素直じゃないし。

 そんなこと考えてたら、ドアから安倍さんが入ってきた。
 ゾクッ。
 何か殺気が……。

「梨華ちゃん」
 気がついたら、目の前で安倍さんが微笑んでた。
 満面の笑み。
 なのに怖い……。

「圭織から聞いたべさ…お泊まり会だって?」
 あ…安倍さ〜ん……。
「なっちは梨華ちゃんを、そんな風に育てた覚えはないよ?」
 いや…あの…育てられた覚えもありません。
 でも、そんなことは怖すぎて言葉に出来ない。

「明日香…と梨華ちゃんを、不良の道から更正させないと」
 不良の道って…更正って……。
「あの…安倍さん?」
 天井の一点を見つめて、拳を振りかざしてる。
「お泊まり会、断固阻止!」
「えぇ〜!!」

「『えぇ〜!!』って何だべか」
 ギロッて睨まれた。
「いえ…だって、別にお泊まり会なんて、みんな普通にやってるじゃないですか」
「みんなは良いの。でも、明日香と梨華ちゃんはダメ!」
 そんな理不尽な〜。
 遠くで、よっすぃ〜の携帯が鳴ってたみたいだけど、私の耳にはただ安倍さんの「ダメ!」って言葉だけが聞こえてた。
 泣いちゃいそうだよ〜。

【焼き銀杏】

 電話を掛けたら、すぐにつかまった。
「もしもしぃ?」
『…あぁ、明日香…さんですか。面白い時に掛けてくるね』
 面白い時?
 って言うか、名前と「さん」の間が、わざとらしいっての。
『今ちょうど、梨華ちゃんと安倍さんがバトルの最中だよ』
 梨華ちゃんとなっちが?!
 何やってんだ、あの二人?

『今度、お泊まり会するんだってね』
 何でこいつが知ってるの?
 相変わらずタメ口だし。
『安倍さんがそのこと聞いて、ダメ〜!って騒いでるよ』
 あっちゃ〜…。
 思わず天を見上げた。

「…だいぶ激しそう?」
『そうだねぇ。かなり揉めてるよ』
 吉澤は何だか楽しそうだ。
 まったく、トラブルが好きなヤツだなぁ。

「何とか治められない?」
『私が? 何でそんなことしなきゃいけないんだよ。大体、梨華ちゃんはともかく、安倍さんは私じゃ無理。自分で何とかすれば?』
 そう言うと思ってたよ。
「…この電話、なっちに替わってくれる?」

 電話の向こうで、
『安倍さ〜ん』
って吉澤が呼ぶ声。
『何、今取り込み中』
なっちの不機嫌そうな声が聞こえる。
『いいですから、ちょっと』
『もう!』

『もしもし?』
「…あ、なっち?」
『明日香ぁ!?』
 いや、なっち…そんなに叫んだら耳痛いっす。
『何、何? どうして明日香が?』
 まぁ、そんなことは良いじゃないすか。
「なっちにお願いがあるんだけど…」
 ちょっと声で可愛子ぶっちゃったり。

『言ってご覧。なっち、明日香のお願いだったら、何でも聞いてあげる』
 …なっち、単純すぎ。
 あの笑顔が目に見えるようだよ。
「もう聞いたと思うけど…お泊まり会するの許してほしい」
『え……そ、それはダ……』
「お願い!」

 無言のなっち。
 たぶん、眉を寄せて可愛く困った顔してるんだろうなぁ。
「ね? なっち、お願い」
『ん〜…明日香の意地悪…』
 しかし、この人の可愛さは、こういう時に実感するよね。
 拗ねても、取り乱しても、とにかく可愛い。
 生まれつき可愛いんだろうね。
 まぁ、それはそれ。
 今はとにかく説得あるのみだね。

【チャーミー石川】

「明日香ぁ!?」
 よっすぃ〜の携帯に向かって、安倍さんが叫んでる。
 え、何で?!
 明日香ちゃんが?
 よっすぃ〜の携帯に?
 しかも安倍さんとお話ししてる。
 何で私じゃないの…?

 眉が寄って、目尻がつり上がり気味に。
 自分でも、みるみるうちに機嫌が悪くなっていくのを感じた。
 イヤだな。やきもち焼くなんて。
 でも…でもね、やっぱり気になっちゃうよ。

 何で、よっすぃ〜に電話してきたの?
 何で、私じゃなくて安倍さんとお話しするの?
 そんな他愛もない疑問。
 でも、私にとっては重要なことなの!

 明日香ちゃん。
 他の人なんて気にしないでほしい。
 私だけを見ててほしいよ。
 明日香ちゃん…明日香ちゃん……電話なんかつながってなくても、いつでも返事をしてほしい。
 無茶苦茶なお願いしてるね。
 自分でも分かってる。
 でもね、明日香ちゃん。
 私、明日香ちゃんだけには、無理なお願いがしたいの。
 きっとそれは…明日香ちゃんが、他の人じゃ替えられない私の特別だから……。

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