; 小説「あすりか」(69)

【焼き銀杏】

 こみ上げてくるものが、ようやく落ち着いてきたら、無性に恥ずかしくなってきた。
 泣きじゃくるなんて、まるでお子ちゃま丸出しじゃん。
 梨華ちゃんの視線から逃れるように顔を背けた。

「どうしたの?」
「やだ…恥ずかしい…見ないで……」
 だって…もう涙でグシャグシャになってるのが、自分でも分かるもん。
 こんな顔、梨華ちゃんに見られたくないよ。
 なのに梨華ちゃん、追いかけるように覗き込んできて、
「そんなことないよ。泣き顔・明日香ちゃんも、とっても可愛いよ?」
なんて言う。

 そんなの嘘だよぉ。
「今までより、もっとも〜っと、明日香ちゃんがスキになっちゃった♪」
 …ホントに?
「本当だよ〜……じゃあねぇ…証明してあげる」
 言った梨華ちゃんの顔が、急に近づいてきて……。

「あ…」
 反射的に閉じた両方の瞼に、柔らかくて温かい感触。
 私の中で何かが融けて消えた。
 同時に膝の力が抜けちゃって、ヒシッて梨華ちゃんに抱きついてなきゃ、立ってられないよ。
 梨華ちゃん、私に何したの?

【チャーミー石川】

 明日香ちゃん、膝がカクッて落ちてギュッて抱きついてきた。
 ごめんね、明日香ちゃん。
 ちょっとワザを使っちゃったよ。
 瞼って、意外に感じるの、知ってた?
 特に泣きはらした後は敏感になるみたいだよ。

 私も抱き返して、そのまま机とは反対側にあるベッドへ真っ直ぐ。
「り…梨華ちゃん」
 明日香ちゃん、ちょっと焦ってるみたいだけど、気にしない。
 哀しいときには、それを忘れるくらい愛を感じなきゃ。
 だから、私の愛をいっぱい、あ・げ・る♪

【焼き銀杏】

 駄目だよ。
 このままじゃ、いつもと同じ。
 受け身の私を、優しく愛してくれる梨華ちゃんって形。
 私ばっかり気持ちよくなって……いつまでもそれじゃ、嫌なんだから。
 でも…どうしたらいいか分からない。

 ここ最近、考えてたけど答えなんて見つからなかった。
 それでも、今の状況は「待った」が効かない。
 ベッドにゆっくり下ろされて……。
 私に覆い被さってる梨華ちゃんの目が優しかった。

「梨華ちゃん……」
「ん?」
「今日は…私が……」
 思い切って言ってみた。
 梨華ちゃんは首を傾げて見つめてる。

「…良いよ」
 ニコッて笑って、私の隣に横たわった梨華ちゃん。
 ……えぇと。
 まず、どうしたら良いんだっけ?
 いつも梨華ちゃんにされてることを思いだそうとするんだけど、こんなときに限って焦っちゃって混乱しまくり。

 えぇ〜い!
 と…とにかく、キス、だよね?
 いつもと違ったドキドキ感が、焦ってる自分を表してる。
 おっかなびっくり顔を近づけると、梨華ちゃんはスッて目を閉じて。
 焦るな、明日香!
 これまでだって何度か私からキスしたことあるじゃん!
 ……でも、今回は全然勝手が違うよ。

 目の前の無防備な梨華ちゃんの姿が、あらためて責任の重大さを感じさせる。
 すべてを任せてくれた梨華ちゃんの期待に、何とか応えなきゃ!
 何とか呼吸を整えて、えいや!って唇をつける。
 ぅぁ……やっぱり梨華ちゃんの唇、柔らかいよぉ…。
 思わずいつも通りに、自分の方が熔けちゃいそうになる。

 慌ててもう一回気合いを入れ直して……一生懸命についばんでた。
 ……能動的に愛してあげるのって…大変だなぁ。
 私、最後まで保つのかなぁ?
 不安いっぱいに、ぎこちなく梨華ちゃんを愛し始めた。

【チャーミー石川】

 そう言えば前の時、
「どっちかがどっちかを気持ちよくするだけじゃ嫌じゃない?」
って、明日香ちゃん、言ってたっけ。
 ピンと来ないところもあるけど、明日香ちゃんが真剣だってことはよく分かる。
 よ〜し!
 それじゃ、私も一肌脱いじゃいましょう。

 明日香ちゃん、必要以上に緊張してる。
 それじゃ、なかなか相手を気持ちよくさせることは出来ないんだよ。
 だから……明日香ちゃんの腰の辺りに手を伸ばす。
 服の上からス〜ッス〜ッて撫でてあげると…。
「ん!…ぅふ…」
 明日香ちゃん、突然走った快感に狼狽えちゃってる。

 でも、これで余計な力は抜けたはず。
 その証拠に、キスがこんなに気持ちいい。
 あれ?
 でも、明日香ちゃんの瞳、ウルウルしちゃってる……。
 予想以上に感じちゃった?
 ま…まぁ、大丈夫だよね?
 明日香ちゃん、ファイト〜!
 だけど優しく愛してね、明日香ちゃん?

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