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誰かを好きになったことありますか?
その想いを伝えたこと、ありますか?
伝えてごらんよ、
想いは叶わないかもしれないけど
気持ちは伝えられるから・・・
好きになってはいけない人を好きになったこと、ありますか?
その想いは伝えましたか?
教えてください・・・。
出口の無い迷宮に迷い込んだ、この私に
その「想い」の進むべき道を。
「こーらぁ!辻!加護!!走り回るんじゃない!!」
カオリが叫んでいる。無理ないか、疲れてるんだもん。
ただいま、レギュラー番組の収録が終わって、控え室は「娘。」たちが帰り支度の真っ最中。
今日はこれが最後の仕事だから、はしゃぎまわりたくなる気持ちもわからなくはないけども。
私たち、芸能人の仕事はテレビで見ると華やかだけど、実際はとってもきつい。
1時間の番組なら一日かけて収録するのが当たり前で、内容によっては2日も3日もかかる。
しかもその合間に、雑誌の取材やら、なんだ、かんだ・・・・・、
で、休んでいる時間なんて全然ない。
そんな、体ぐったり、気力ぐったりの間を走り回られちゃ、まあ、きついよね。
「はーい」
しぶしぶ返事をした辻と加護はいすに座ると、テーブルの上のお菓子に手を伸ばしていた。
・・・・・。
懲りてないなぁ。
ま、そこがあの子達のいいところかも。
さてと、私も荷物をまとめなきゃー。
お化粧道具でしょー、タオルに、アクセサリー、
あードラマの台本、携帯に、ミントガム。
・・・・・。
よっし!おわったー!!
ふと、横を見ると後藤が片付けもそっちのけで居眠りにいそしんでいる。
まったく、この子は・・・。
「ほれほれ、まきちゃーん、おきなさーい」
まるでお母さんのような口調で優しく体をゆすってみた。
「・・・んぁ?なにぃ〜なっちぃ・・・」
目をこすりながらあたりをきょろきょろしている。
写真やTVでみると大人っぽく見えるけれど、こうしてみると
まだまだ子供っていうか、かわいいんだよねぇ。
「帰り支度しなよ。おいてかれちゃうぞ」
「ふぁーい」
寝ぼけまなこで準備を始めたみたい。大丈夫かな・・・?
「こらー、ごとー、人のものまで自分のバッグに詰めないのー!!」
圭ちゃんがかいがいしく後藤の面倒をみている。
うーん、さすが圭ちゃん。ここは・・・
任せておこう。
ほっ、
一息ついて向こうを見ると、
あ、辻と加護め〜。まだお菓子をたべてる。
「こらぁ〜!!辻!加護!!
だめでしょ〜?食べすぎ〜!!」
お菓子を取り上げると悲しそうな目で私をみた。
そんな目されても・・・ねえ。
「かえしてくらさい」
「もうちょっとー」
「だめです。君達も準備しなさい」
「えー、おなかすいたおなかすいたー!」
二人で叫ばないの!!耳が痛い〜。
「駄目ったら駄目!いいかげんにしないとなっち本気で怒るからね」
どういうわけだろう・・・その一言で辻と加護はぴたっと止まると
せっせとかたずけはじめた。
・・あのー、私って本気で怒るとそんなにこわいんですか?
こんこん
その時ドアをノックする音が聞こえた。
「はーいどうぞー」
余裕のあるメンバーが返事をすると
ぱっ、とドアがひらいてスタッフさんが顔をだした。
「おつかれさまでーす、えーとお客様がみえてます」
お客さん・・・。
みんなが検討もつかないといった不思議そうな顔をして、いっせいにドアのほうを向く。
私は誰が来たのか知っている。
名前が浮かぶよりも先に心臓が早鐘をうつ。
そうだ、今日は約束の日。
「どうぞ、こちらです」
スタッフさんが丁寧に案内すると、そこには・・・。
「おっす!みんな!」
明日香・・・。
すべての思考が停止して、彼女に釘付けになる。
待ってたよ・・・。
「うわー、明日香―久しぶりー!!」
「明日香―!いらっしゃーい!」
「おー明日香ー!!」
矢口、圭ちゃん、カオリはうれしそうな顔をして明日香を出迎えた。
後藤はというとあいかわらず寝ぼけてて
石川、吉澤は「おっ」という表情でみている。
辻と加護は明日香に駆け寄りごろごろとなついてる。
(何度か顔を合わせる機会があり、二人は明日香のことを気に入ってるみたいだ)
高橋、新垣、小川、紺野はだれだかわかっていない様子だ。
無理ないか・・・初期の「娘。」テレビで見たことないかもねー、4人は。
「おつかれさん、みんなー差し入れもって来たよ」
手にした紙袋を高々と持ち上げて明日香がにこっと笑う。
「やったー!!」
辻が大喜びで明日香の紙袋を受け取るとさっそく中身をひらく。
あれだけ食べたのに・・・まだ、食べるの?
「こらぁー、辻のためだけに持ってきてくれたんじゃないのー!!」
矢口がたしなめると辻はぶーたれた。
「まぁまぁ、真理っぺ」
もう娘。ではない自分を、まるで友達か姉妹のように接してくれる辻を
明日香がかばう。
「でもねー明日香、こいつら、ほんっっっとよく食べるんだからー!」
「カオがなんっかい注意しても食べちゃうんだからぁー!」
「そうなんだよ、この子達ぜんぜん言うこと聞かないんだよ、あたしのことは
おばちゃん、おばちゃん、って言うし。」
「おばちゃーん」
二人が声をそろえていった。
「っるさいっ!!」
「・・・・・」
「どしたの、なっち?」
さっきから一言も発していない私をみんなが不思議そうに見ている。
当然、明日香も・・・。
「え?な、なにが・・・?」
平静を装ってみるんだけど何故かそわそわしてしまう。
だって〜、今日は・・・。
「さっきから静かだよ?」
「へんだなぁ〜、いつもだったら、イの一番に飛びつくくせに〜」
や、やめてよ〜。
やり場のない視線を矢口に向けると、ふふーんといった感じで私を見てる。
な、なによ・・・。
何気なく近寄って、やおら私の耳元に顔を寄せると、誰にも聞こえないように囁く。
「なっちは今でも、昔と同じような思いを明日香に持ってるんでしょ?」
「へ!?」
ぼうっ、と顔が真っ赤になってしまう。
な、なに?矢口、なにいってんの?昔って・・・
って、昔私が明日香をどう思ってたか知ってるってこと!?
っていうか、今もそういう風に見えるの!?ばればれってこと?
頭の中で言葉たちが錯綜する。
「こらー、なに二人でこそこそいってんの〜?」
カオリが不機嫌そうに腕をくんでこっちをにらむ。
矢口はにやにやと笑いながら私を見る。
「あー、なっちはねー明日香が苦手なんだよー」
ちがーう!!誤解されるようなこというなー!
まるで私が明日香を嫌ってるみたいじゃないかー。
いや、好きってばらされても困るけどさ・・・。
その発言に、意外そうに紺野が反応した。
「安倍さんは福田さんが苦手・・・?なんですか?」
矢口の言葉で、私の態度を誤解してくれた圭ちゃんが応じる。
「あー、あのね、明日香が「娘。」に在籍してたとき、
なっちにガンガン突っ込みいれてたんだよ、この子は」
そういって、明日香の肩に右腕を回すと左のこぶしで頭をぐりぐりとこねくり回す。
カオリは腕を組んだまま、頭を少しかしげて、苦笑いの表情で明日香を見る。
「そうだったよねー、なっちのほうが年上なんだけど、明日香のほうが強かったよね」
違うよー、みんな、もー。
ああー、矢口のばかー。
高橋、小川、新垣が目を輝かせて話しに聞き入っている。
今の私からは想像もつかないのかな・・・?
知りたくってしょうがないっていうかんじだ。
「なんだよー」
明日香はくすぐったそうに圭ちゃんから身を逃れた。
そのとき、
今までぼーっとしていた後藤がむくっとおきあがると
いきなり私にがばっと抱きついてきた。
なんだー!!いきなり!なんなんだー!!
一瞬パニックになったが、あ、っときづいて明日香を見る。
普通・・・だった。
ほっとしたけど・・・
明日香の前で抱きつくのはやーめーろーよー。
後藤は私の顔を、とろん、とした目で見つめながら
「なっち」
と、にやりと笑った。
な、なにこの笑い・・・。なんかいやな予感がする・・・。
「なっちわー、明日香さんのことがす・・・」
ばしっ!
咄嗟に手で後藤の口を塞いだ。
お前もか!おまえもかぁ〜!!
これだから、天然娘は怖いんだ〜!
たぶん・・・、野生の勘、あたりで気がついたなおまえは!
いっちゃだめ、いっちゃだめ!
目に言葉をのせて後藤に送ると、天然娘はへらへらとわらって、
私に抱きついたまま片足をぶらぶらとさせた。
「どしたの、後藤?」
やれやれといった口調の圭ちゃん。
後藤は半眼で私を見ながら小さな声でつぶやく。
「なっち、今度ご飯つくってね」
うう・・・。後藤、あんたは策士だ。
「・・・わかったよぅ」
泣きそうな顔でそう答えると後藤は、にへらっ、とわらって圭ちゃんにひらひらと手を振る。
「んぁ?なっちに抱きついただけぇ」
「ずるーい!」
そういって今の今まで明日香のお土産に舌鼓を打っていた加護が後藤に抱きつき
辻が私に抱きついてきた・・・。
もー、両手に花だよー。
そうじゃなくって、わたしなにやってんだろー。
泣きたくなる気持ちを抑えて、ふっと明日香に視線をむける。
明日香は・・・
あ・・・
寂しそうな顔をしていた。
それはたぶん・・・、
自分がかつて経験した、娘という仲間たちとの思い出がオーバーラップしたのかもしれない。
自分にはもう、失われてしまった関係を思い出したのかもしれない。
自分と私たちとの距離を感じたのかもしれない。
そんな目をしていた。
「はなれろー!もぉ〜!!」
体を振ってみんなを振り払うと、私はなんだかわけのわからない罪悪感に
言葉を失った。
そんな気持ちをしってかしらずか、カオリが明日香に問いかける。
「それにしても、明日香が自分から来るなんてめずらしいね」
明日香は、ぱっと表情を戻すと
「あ、今日はなっちに用があってね」
そういって私を見た。
なんか、どきん、とした。
いや、といってもこれはイレギュラーなことじゃなくって
前もってメールで約束してたことなんだけど。
『明日の仕事は速く終わりそうだから、たまには二人だけで
遊ばないかい?』。
二人だけっていうのは私にとっても明日香にとっても気まずいかなぁ・・・
とおもったけど、そう書いてみた。
みんなで会うのも楽しいけど、明日香とふたりだけで話とかしたい。
明日香が脱退してから何度か楽屋やコンサートに遊びに来てくれたけど
じっくり話したこともなかったからなぁ
断られたらどうしよう・・・、いや、そんな弱気じゃだめだよ。
えーい、書くだけタダだ!断られたら・・・、いんや、一度も書かなかったら
永久にふたりで会うなんてことないかもしれないぞ!
無理やり自分を励まして、葛藤すること2時間。
やっと、メールを送った・・・。
そしたら・・・。
『OK。わかったよ。時間のめどがついたらメールくれるかな?』
と返事が来た。
ああ・・・私、生きててよかった・・・
「なんだよ〜ずるいなぁ〜」
圭ちゃんが口を尖らせる。
「えー、そーなのぉー?」
カオリは今にも噛み付きそうな顔だ。
なんか申し訳ない気分になってきた・・・。
ごめんねみんな。今日だけ私に明日香をください。
これ以上は文句を言ってもどうしようもない雰囲気があたりにただよっていて
(明日香も「じゃあ、みんなで遊ぼうか?」なんてことを言ったりしなかった・・・。)
リーダーカオリが宣言した。
「じゃー、またね、明日香。今度はみんなでご飯でも食べようね。
というわけで・・・、解散!みんな明日も仕事あるからちゃんと寝るんだよ〜」
その一言で娘たちはわやわやと散らばっていった・・・。
さて・・・。
気持ちを入れ替えて明日香と行こうとすると・・・。
「なっちちょっと」
そういって矢口が私の腕をひっぱる。
「あ、明日香、ちょっとごめん、なっち借りるね」
う〜出鼻をくじかれたぁ・・・。
部屋から引っ張り出されると矢口が不敵な笑みで言った。
「なっち」
「な、なに?」
「明日香にへんなことしちゃ、だめだよ」
「な!?なに言ってんのさ」
動揺でなまりがでてしまう。
私がそんなこと・・・いや、したいような・・・、いや、しないよ!!
「そ、そんなことするわけないっしょ!」
「どーだか」
「なっちと明日香は女の子同士だよ!何もできないじゃん!」
そうだよ、どうしようもないんだよ・・・。
あらあら・・・という顔をして矢口が言葉を返す。
「なにいってるんですかねぇ〜この人は。じゃ、そういうことにしておきますか。
ま、とにかく。なっちは芸能人、明日香は辞めたといっても元芸能人なんだから
気をつけるんだよ」
「・・・うん、りょーかい」
うーん、変な心配も、普通の心配もしてくれるんだ・・・
それにしても・・・
小さな疑問が頭をもたげる。
「あのさぁ・・・」
「ん?」
「矢口はさぁ、変だとおもわないの?」
「なにが?」
「いや・・・あの、なっちが明日香のことをす、好きだってこと・・・」
自分の中では認めてしまっている感情でも、人には言いにくい。
「あー。」
矢口はなんでもないってな感じでクールな顔つきをした。
「べつに。好きなもんはしょーがないじゃん」
そういって遠い目をした。
「矢口?」
「ん?あー、ま、好きに男も女もないってことさ!
恋愛は自由じゃよ、なつみくん!」
おどけたけれど、矢口はいったい誰のことを思ったんだろう・・・今。
「じゃね!あんまし遅くまで遊ぶなよ。明日も仕事あるんだから」
手をひらひらと振ると、矢口は私に背を向けて去っていく。
小さな背中がなんだか頼もしく見える。
矢口、大人だなぁ・・・。
「矢口、さんきゅ!」
そういうと、いきなり矢口が振り返った。
「ちゃんと報告しなよ!」
にやにやしてる。
面白がってるな・・・人のこと。
後藤も・・・
私のことどう思ったのかな・・・。
あの子の場合はなんも考えてないかもしれないけど・・・
今度聞いてみようかな、機会があったら・・・。
「なっち」
「わぁ!」
いきなり話しかけられてびっくりした私を見て、明日香もびっくりする。
「な、なんだよ」
「あー、ゴメンゴメン。んと、じゃあ・・・」
「うん。いこっか」
長い、入り組んだ廊下を二人、肩を並べて歩き出す。
この廊下はまるで私の心の中みたいだ・・・なんとなく、そう思った。
この廊下の先には出口があるけれど、私の想いには答えが見つかるだろうか・・・?
期待と不安がごちゃまぜになった靴音があたりに木霊する。
考えるのはヤメヤメ!今は明日香との、二人だけの時間を大切にしよう!
こうして私と明日香の長い夜がはじまった。
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