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「歌好きだよね?」
一瞬明日香は懐疑的な表情を浮かべたけど、
「・・・・・好きだよ」
と、静かに、でも情熱を秘めて答えた。
あ・・・勘違いされただろうか・・・。明日香のこれからのこと、聞こうとしてるとおもった?
私は重くなりそうな雰囲気を笑顔で振り払うと
「えへへ・・・。じゃあ、次、いってみよーかぁ」
明日香を引っ張ってぐんぐん歩き出した。
「な、なんかいやな予感がする・・・」
明日香はされるがままひっぱられていった。
・・・10分後、私たちはカラオケ屋さんにいた。
「こう来たか、やっぱり・・・」
明日香は額に手を当てて、いやいやとかぶりを振る。
「なんだよー、さっき『歌好き』っていったっしょ?」
「好きだけど、今歌いたいっていってないでしょーが」
「なにいってんのー、私ずいぶん明日香の歌きいてないんだからぁ。
口答えはゆるしませんよ!」
腕を組んで軽く明日香をにらむが
「やだ」
くーっ、この頑固もの・・・。
「明日香さーん、お願い!その代わりなっちもお願い聞いてあげるから」
「なんだよそれー」
明日香はぶつぶつと不服そうにしている。
んー。
「明日香は私の歌、聞きたくなぁい?」
「いつもCDで聞いてるよ」
「CDじゃなくって、生で聞きたくなぁい?しかも娘。以外の歌、歌うんだぞ?」
これには明日香も興味を引いたみたい。しばらく考えあぐねていたけど
しょうがなさそうに口を開いた。
「仕方ない。現役の歌手に歌を聞きたいといわれるのは名誉だとおもうべきか」
無理やり自分を納得させた、そんな答えだった。
素直じゃないなぁー。
あんまり時間も無いので1時間だけということで、部屋へ入るとさっそく本を開いて曲を選ぶ。
「あ、娘の曲いっぱいはいってるなぁ」
シングルの曲、アルバムの曲、ほぼ網羅されている。
「なっち、言っとくけど」
「んー?」
「私娘の曲歌わないからね」
「えぇ〜!」
「歌わないったら歌わないの」
「はいはい、わかりました。ま、明日香の歌が聞ければそれでよいよ」
・・・。
わかってるよ、歌いたくないこと。
その気持ちはなんとなくだけど私にはわかるんだ・・・。
「じゃ、明日香から、どーぞ」
「へーい」
本をぱらぱらとめくっていた明日香は目をとめると、おもむろにリモコンを操作した。
どきどき・・・。
うあー、ものすごい期待と緊張。こんなのは、昔好きなアーティストの
コンサートを見に行ったとき以来かもしれないなぁ。
ほんの少し時間を置いてイントロが流れ始める。
それは最近良く聞く女性ヴォーカリストの曲だった。
そのとたん、マイク片手に所在無さげにうろうろとしていた明日香も
ぴたっと位置を決め、「歌うたい」の顔になる。
おお!なんか、素敵・・・。
もう私は、「モーニング娘。の安倍なつみ」ではない。福田明日香という少女の
1ファンと化していた。
久しぶりに明日香の歌声が聞けるんだ。
あのころ私を魅了した歌声が・・・。
マイクを構えた明日香は、とたんに凛とした表情を見せる。
それは歌への情熱の証。
イントロが終わって、Aメロが始まる・・・同時に私のどきどきは頂点へ。
そして・・・
明日香が歌いだした瞬間、それまでの部屋の空気が一変した。
「----------!」
鮮烈・・・だった。
そして、圧倒。
ゾクゾクゾク!!
一瞬にして全身に鳥肌がたった!
耳を捉えて離さない、艶やかで、伸びのある、深みのある声。
ビブラートが私の脳天を突き抜けて揺るがす!
なに、これ・・・。
すご、い・・・。
明日香の歌声は昔よりも、ものすごい力を秘めて私の心を掴む!
意識も、思考も、がっちりと掴まれて、ただ、ただ明日香に釘付けになる。
そのまま私の目は、二度と本に向けられることは無かった。
「っはぁ」
歌い終えた明日香が天を仰いで瞳を閉じる。
そして、ゆっくりと顔を戻すと、私を見て・・・怪訝な顔をした。
へ?なんで?
「・・・何で泣いてるの?」
「はい?」
泣いてるって?
「え・・・誰が泣いてるの?」
「なっち以外誰もいないでしょうが」
「はいい??私??」
咄嗟に指を目元にやると、確かに濡れている・・・。
自分でも知らない間に目から涙がこぼれ落ちていた・・・らしい。
「あり?」
「謎だなぁ、なっちは・・・」
明日香はぽりぽりと頭をかくと、改まって
「わたくしめの歌はいかがでございました?」
と、おどけて見せた。
言葉なんかでは言い表せないよ・・・。
「・・・私の涙が明日香の歌への答えだよ」
「涙が出るほど下手だった・・・???」
「ちがーう!涙が出るほどすごかったの!!感動したの!!」
明日香はものすごく驚いて、頬を赤く染めた。
「そ、そうなの?そっか、そっか・・・」
まったくぅ・・・この子は・・・。
私がいったい、どれだけ明日香の歌を聞きたいと思ったことか。
どれだけの人が明日香の歌をまた聞きたいと思っているか、考えたことある?
「じゃあ、次はなっちね」
私の気持ちも知らないで、明日香はうれしそうにマイクを差し出した。
・・・えーとですね。
私は一応れっきとした歌手で、何千人の前で歌ったこともあるし、歌に対する情熱も
誰にも負けない自信があるんですが・・・。
んー、だけどなんか今、明日香の前だと歌いにくいなぁ・・・。
ちょっぴりもじもじしてしまう。
いや、まてまて。
明日香の歌を聞きたいと思うのと同じくらい、自分の歌も聞いてほしかったよね?
私は今でも歌が好きだということ、がんばってること、聞いてほしかったんじゃないかい?
なっち、やるぞー!!
心の中で自分を盛り上げて、私も、最近お気に入りの曲を選曲する。
歌って心の中に響くんだよね・・・。
今の私を見てください。伝えたい気持ちを乗せて、歌いだした。
そのあいだ明日香は本を見ることはなく、私の歌う姿をじっとみつめていた・・・。
な、なんかTVで歌うよりも緊張するんですけど・・・。
もう、こうなったら本気の本気で歌っちゃうぞ!明日香のためだけに!!
「んー、いかがでしたでしょうか?」
歌い終えた私に、言い知れぬ緊張感が押し寄せる。
こんなに緊張したのはいつ以来だろう・・・?
明日香の口から言葉が発せられるのを待つ。
「・・・・・」
な、なに?その表情。いいの?悪いの?
なんかいってー!早く言ってー!!
「なっちは・・・」
ごくり。
「なっちは確実に進化しているんだね。すっごくよかったよ・・・」
明日香の顔には「満足」、が満ち溢れていた。
う、はぁ・・・。
私、誰にほめられるより、明日香にほめられるのが一番うれしいよ・・・。
そうして私たちは交互に歌を歌った。
明日香の歌をうっとりと聞きながら考える。
娘をやめてずいぶんたつのに、なんだろう、このものすごい歌のパワーは・・・。
久しぶりに聞いたから?大好きな人が歌ってるからそう感じるだけ?いや違うなぁ・・・
明日香もきっと歌を歌い続けていたんだろうな・・・。
そして、歌への情熱は今も変わって無いんじゃないかしら?
あれからきっといろんな経験をしたんだろうな。経験が明日香の歌をより豊かにしたんだ・・・。
明日香の歌声は、今でも歌を愛している証、だからこそ私の胸を揺さぶるんだろう・・・。
歌に心酔していると、ポケットの携帯が突然ぶるぶると震えだした。
もー、誰よーこんないいときにー!
電話を取り出して画面を見ると・・・
『真理ちゃん』
矢口・・・。なんだろ?明日の仕事の件だったら困るし・・・。
仕方が無い、出ますか。
歌っている明日香にゴメンネのポーズをとると、後ろ髪を引かれる思いで
携帯を手に廊下へと抜け出した。
ぴっ
「もしもし?」
『あ、なっちぃ〜?やっほー!』
あいかわらず能天気な声・・・。ま、だから今では娘の中での、私の憩いの人なんだけどね。
「どしたの?」
『はっはっはー。うまくいってるー?』
まったく〜人のことだと思って面白がって・・・。
「うまくいってるって・・・デートじゃないんだから」
『え?でーとじゃないの!?』
「へ!?これってデートなの!?」
電話の向こうからため息が漏れる
『はあ・・・。あのねぇ、なっち、好きな人といっしょにいるのになにもしないわけぇ?』
なに言ってるんだ、こいつは!
「しません!!」
『いいのぉ?そういうことで?後悔しちゃうよ〜?』
したほうが後悔するっつーの!!
「用件はそれだけ?もー、切るからね!」
『あー、なっち待って!』
なによ・・・。
『ちゃんと報告してね』
「ばか矢口!」
そう言って携帯を切った。
そしてそのまま携帯を握り締め、壁にもたれかかる。
・・・。
・・・ふぅ。
・・・馬鹿は私だよ・・・。
今日、明日香と会ったことで「好き」だっていう気持ちを再確認しちゃったんだから。
「自分」を持っている明日香。
ちょっぴり照れ屋な明日香。
歌を誰よりも愛している明日香。
今日だけで、いろんな明日香を見て、思い出して、確認しちゃった。
やっぱり、好きだよ・・・。
想いがあふれ出しそうで、そっと瞳を閉じると、うつむいて息を吐き出した。
「ふぅ・・・」
脳裏には矢口の言葉が浮かぶ。
『はあ・・・。あのねぇ、なっち、好きな人といっしょにいるのになにもしないわけぇ?』
そりゃあ、私だって言葉で表しつくせない気持ちを、行動で表現したいよ。
だけど、それでどうなるの?
私が明日香を好きだという気持ちと、明日香が私を好いてくれている気持ちは
まったく別のものなんだ。
なのに、私が行動に移しちゃったら・・・。
壊れてしまうよ、私たちの関係が・・・。
やるせない想いが胸を支配して、私は「ぎりっ」と奥歯をかみ締めた。
どうしようもないんだよ・・・。
・・・考えてもしょうがない、部屋へ戻ろう。
壁から身を起こすと、ちょうどカップルが部屋の前を通り過ぎた。
部屋からはちいさくだけど、明日香の歌声が漏れていた。
「・・・!あ、なんかこの部屋の人、すごいよ!歌、うまーい」
「ん?ほんとだ、マジすげーな」
ほら、ほんの少し聞いただけでみんなが虜になっちゃう。
明日香、だからさ、戻っておいでよ・・・。
そんな願望を胸に無理やりしまいこんで、私はそっとドアを開けた
明日香は私に気づくと
「ほらほらー、時間なくなっちゃうよー」
と、なんだかうれしそうにしている。
さっきはあんなに歌うの嫌がってたくせに・・・。
大人なんだか子供なんだか、よくわかんないなぁー。ま、そういうところも・・・。
『好き・・・。』
一度認識してしまった気持ちは、もう誤魔化すことも、消すこともできなくなっていた。
「後、一曲くらい歌えるけど」
明日香は時計を見ながら言った。
んー、だったら最後に明日香の歌を聞きたいよ、そう言おうとしたんだけど
「ね、さっき『お願い聞いてあげる』っていったよね?」
先を越されてしまった。
お願い・・・?
「うん、言ったけど・・・」
「じゃあ、さ」
そういって明日香はちょこっと頭をかしげて上目使いで私を見た。
ひゃー、なんだよー、その危険な目は・・・。
「NEVER FORGET、歌って」
・・・はい?
えーっと、晴天の霹靂っていう言葉は、こういうときに使うんだったっけ?
まったく関係の無いことが頭に浮かんだけど、何とか意識をつなぎとめる。
「あの、私が?」
「うん」
頷いてリモコンに手を伸ばす。
「なんで?」
「歌ってほしいから」
すばやい手つきで番号を打ち込んでいく。
「いや、あの、なっちとしてはこの歌、明日香に歌って欲しいんですけど・・・」
「だーめ。さっき約束したでしょ?」
う・・・そうだよね・・・。
今日、ふたりっきりの約束を守ってくれた明日香。
さっきお願いを聞くと約束した私。
・・・じゃあ、逆らえないじゃない。
私の決心と同じタイミングでイントロが流れ出す-----。
それをぼんやりと聞きながら想いを募らせる・・・
明日香が娘からいなくなったころ、この曲を聞くだけで涙がでたなぁ・・・。
すぐに顔が浮かんでね、それからいろんなことを思い出すの。
オーディションのときのこと
TVで始めて歌ったときのこと
レッスンのこと
初めて一緒に遊びに行ったときのこと
いっぱい話したこと
笑ったこと、泣いたこと
いっぱいいっぱいね。
でも、いつのころからかな・・・
この歌を聴いても泣いてしまうことは無くなった
だから私は、明日香への気持ちが薄れていってるって思ってた・・・・・。
だけどね、それは違ってたみたい。
今日、わかっちゃったんだ・・・。
明日香をじっと見つめると、視線がまっすぐに帰ってくる。
うん。
そういえばね、この歌、私の気持ちも沢山詰まってるんだよ。
言いたいことが沢山あるんだ。
聴いてほしい思いが沢山あるんだ。
でもね、いえないの。だからこの歌に私の想いを託すね。
行き場の無い、こみ上げる思いを歌に乗せて・・・
I'LL NEVER FORGET YOU
忘れないわ あなたの事
ずっとそばにいたいけど ねぇ仕方ないのね
ああ 泣き出しそう・・・
今までいっぱい歌を歌ったけど、今日のこのときの感覚は初めてだった。
歌詞を歌ってるんじゃない。
自分の言葉で歌ってる、自分の気持ちを曲にのせてる、そんな感覚がした。
あ、まただ・・・。
自然と目から涙がこぼれる。
明日香は私を相変わらず、真剣な表情で見ている。
だけど、私の目には・・・明日香が泣いているように見えた。
・・・・・なんでだろう?
私が歌い終わるとちょうど時間が来てしまい、感傷に浸る間も無く、ぱたぱたと部屋をでる。
その間中、明日香は黙ったままだった。
二人無言のまま、外へ出ると行き先も決めずに足の赴くままゆっくりと歩きつづけた。
そんな私たちとは対照的に、通りには人々が大勢行きかい賑わっている。
もう十分遅い時間だというのに、みんないったい何処へいくのかしら・・・。
それにしても・・・
ううーん、沈黙が痛い。
えっと、何とかしよう。
「明日香、どしたの?無言だよ」
うつむき加減にてくてくと歩いていた明日香は「はっ」となって私を見た。
考え込んでたんだ・・・。
「ん、いや、なんでもないよ」
「私の歌、お気に召さなかった?」
明日香は、ぶんぶんと、おもいっきりかぶりを振る。
「すごくよかったよ。はじめは歌うのいやだったけど、なっちの歌聴けたし
今日は歌いに行ってよかった。」
いろいろと正直に言わないの・・・。
そういって明日香は微笑んだけど、また表情が陰る。
なんで・・・?思い当たる節は・・・、あ。
「あー、私また泣いちゃったから、引いちゃった?」
いきなり人が泣き出すと、誰でも動揺せずにはいられないだろう。
悪いことしちゃったかなぁ。
「ん?うーん」
やっぱそうなのね・・・、ごめんねー
「泣かれたのは正直びっくりしたけど、それは別にそんなでもなくって・・・
あの・・・、あのさ、なんで泣き出したのかなぁ・・・とおもって・・・」
聞きたいような、聞いてはいけないような、そんな複雑さを抱えているというのが
口調から見て取れた。
あ・・・しまった。
「泣くこと」には普通、意味がある。しかもさっきの状況からすると理由なんていわなくても
ばれてしまっているんじゃないだろうか?
困らせてしまっただろうか?
・・・。
言う、べきかな?
「あ、あのね・・・」
がっし!
いきなりで、いったい何がおきたのか、自分でもわからなかった。
誰かが私の腕を掴んでる?
二人だけの世界に、いきなり知らない人が入り込んで私を無理やり外の世界に引きずりだした
そんな感覚がした。
へ!?
いきなりだったのと、話し出そうとした瞬間だったので、びっくりして声が出ない。
「!」
とにかく何者なのか確認しよう・・・。
深くかぶったニットの帽子から探るように掴んだ手をたどって顔を見ると、
見たことのない男の人がいた。となりにも一人・・・。
状況を冷静に把握するために、私はできる範囲でその人たちを観察してみる。
一人は金髪とも、白髪ともいえない色合いに染めた髪をしていて、もう一人は茶髪であごにちょっぴりひげがある。
二人とも外気温を無視したストリートファッション。20歳前後の(いや、実際20前後かどうかもあやしい)
背の大きな人たちだった。がっちりとした体格は、かっこいいというよりなんだか怖い・・・。見た感じも怖い。
うん、どう見ても知らない人・・・。
二人組はそのまま、まるで友達と話すようなかんじで初対面の私たちに話しかける。
「2人とも、暇?だったら俺らとあそぼーよ!」
東京に暮らして何年か経つけど、こういう感覚ってやっぱり理解できないなぁ。
いきなり知らない人の腕を掴むなんて、何でそんなことできるんだろう?
「あ・・・」
とにかく、断りをいれようと、開きかけた口を明日香がさえぎる
「わるいけど、うちら行くところあるんだ」
物怖じのない、「きっ」とした口調。私にしゃべらせなかったのはそういうのがないから・・・
じゃ、なくて、関わらせまいという配慮なのかもしれない。
それと、声でばれるのを防ぐためかな?
「行くところったって、どっか遊びにいくんでしょ?だったら俺らも混ぜてよー」
「ふたりともかわいーし、恵まれない俺たちに愛の手を〜」
二人は外見とは裏腹にへらへらとした口調でお願いしてくる。
いやです。キミタチに愛の手を差し伸べてる場合じゃないんです。心の中で毒づいてみた。
「はいはい、急いでるから」
明日香は、まるでセールスや勧誘を断るような口調で、怖じけることなく
そう簡単にあしらって、私の手を取って歩き出そうとした。
あ・・・。
私って単純馬鹿?
こんな状況だというのに、その・・・うれしいなぁ、手繋いでる・・・。
我ながら、のんきだよ・・・はぁ。
しかし若い男は、その明日香の腕をまたむんずと掴む。
あー、しつっこい!!
「かわいい顔してキツイなぁ・・・。あれ?あんた、どっかで見たことあるような・・・」
やばい!だから顔隠しなさいっていったでしょー!
明日香は私のマフラーで口を覆っているけれど、目が印象的だからばれちゃうって。
もう一人のほうも、私をまじまじと見つめると
「あれ・・・?あんた・・・」
今にも名前を言ってしまいそうな状態になっている。
やばいやばい!!ばれちゃうー!!
騒ぎになっちゃうよ・・・、それよりも、この人たちになんかされたらどうしよう・・・。
あー、そのせいで明日香との時間が終わったらどうしてくれるんだー!
あれやこれやと悪い考えがいっぱい浮かんでくる。
どうしよう!どうしよう!!
だけど、パニック寸前の私の心を、落ち着かせるぬくもりが手にあることに、ふと気がついた。
あ・・・明日香の手・・・。
強くもなく、弱くもなく、だけどしっかりと私の手を握るその感覚が、私の心を落ち着かせる。
緊張している風でもなく、冷静・・・。なんかいいな・・・安心できる・・・。
危険な状況だというのに、私は頼もしいその顔を視線を上げないようにそっと見てみると
「すぅ」
息を吸い込んでる。
何する気だろ・・・?
そのとたん、明日香の手にぐっと力が入った。
なに?なに?
そしていきなり!
「ドロボーーーーーーーーーー!!!!!」
もんのすごい声量で叫んだ!
その言葉に、その声量に、辺りの人たちはいっせいにこちらを見る。
若者二人はいきなりのことで、ぼーぜんとその場に立ち尽くすのみ。
瞬間、つないだ手を明日香におもいっきり引っ張られて、私たちは通りを駆け出した。
「んな!?」
やっと気がついた二人は私たちを追いかけようとするけど
「あの人たちドロボーです!!」
駆け抜けていく間も、明日香が二人を指差して叫んだため
あたりの人たちに二人は取り囲まれて動けなくなっていた。
後ろはなんだかすごい騒ぎになりかけてたけど、私たちは振り向くことなく
走り抜けた。
走る、走る、走る!
誰も追いかけては来ないけれどとにかく走る!
冷たい空気が頬をかすめて、痛いくらい。けれども、なんだかすがすがしい。
乾いた空気が喉を通ると痛いけど、楽しくて楽しくてしょうがない。
繋いだ手からは明日香の温もりと、気持ちが伝わってきて、心があったかい。
「あははは!!」
自然と笑い声が出た。
「あははは!!」
明日香も一緒に笑い出した。
私たちはそのまま、手をつなぎあって、何処までも駆けつづけた。
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