第1話:「私がパイロット?!(前編)」





 イギリスの人気バンド、『デザート』のライブからの帰り道。女子大生らしき二人連れが歩いている。二人ともハッとするような美女である。「由香里、誘ってくれてありがと。超良かったね!」ショートカットの日焼けした美女が興奮さめやらぬ表情で言う。「でしょ?リサもテニスばっかりしてないでたまには息抜きしなきゃ。」ロングヘアのモデル風美女が応えた。「ちょっとよってかない?」二人はオープンカフェに入った。

 「由香里、バイト見つかったの?」
 「それがさー、最近なかなかないのよ。最近景気悪くてどの会社もコンパニオン使いたがらないんだって。英語学校の授業料の納付期限は来月だし、カードのローンもあるし困っちゃうわ。」
 「あんたは無駄遣いしすぎなのよ。今はルックスとナイスバディだけで渡っていける時代じゃないのよ。」
 「ハイハイ。ところでリサは次のツアーはいつ?」
 「ウィンブルドンの前に調整がてら来月1つ小さい大会に出ようと思ってるの。」
 「いーなーリサは。『天才テニスプレーヤー』様だもんね。」
 「なに言ってんのよ。自分だって2年前は『オリンピック候補の期待のスイマー』だったじゃないの。急に止めちゃうからビックリしたわよ。」
 「昔の話だね…。そんなことより今は新しいバイト見つけなきゃ。私これから1件面接なの。じゃ頑張ってね。」
 「うん、そっちもね。」

 立川市郊外。山羊のような長い髭を生やした老人がとぼとぼと歩いている。
 「おい、『偏屈白山羊じいさん』だぜ。」
 「相変わらず気持ち悪いな。あっち行けよ!」
 老人を発見した、いかにも悪ガキといった感じの子供たちは彼に向かって石を投げた。老人は気にする風でもなく、とぼとぼと歩いていった。
 「あれでも有名な大科学者だったんだろ?」
 「昔はね。うちの親は、『10年くらい前から急に変わった』って言ってたよ。そのころ息子が行方不明にななっちゃったんだって。」
 「ふーん。」

 「グレイトショウマ研究所…あっ、ここね。なんだか小汚い建物ね。」
 由香里はアルバイト誌にもう一度目を落とした。
 「時給3,000円か…仕事内容がハッキリしないのが不安だけどヤバそうだったら逃げちゃえばいいし。ゼイタク言ってる場合じゃないし。モノは試しね。こんにちわー!」
 ブザーを押したその瞬間、何者かが背後から由香里の肩をたたいた。
 「キャーッ!!」
 振り向くと、目の前に『偏屈白山羊じいさん』がいた。
 「怪しすぎる…」
 一瞬にしてそう判断した彼女は逃げようとしたが、腕をつかまれてしまった。老人とは思えないものすごい力だった。
 「バイトの面接に来たんじゃろ?逃げるのは話を聞いてからでも遅くないぞ。」
 「別に、逃げるつもりなんて…」
 「そうか。まあ入んなさい。ワシはこの研究所の所長、ホンダラ・チロチャンだ。」
 (怪しすぎる…)そう思いながらも由香里は中に入っていった。極度の貧乏は人の正常な感覚を麻痺させてしまうものらしい。

 「ふむふむ。宮本由香里・19才。高校時代に水泳自由形でインターハイ優勝、今は四谷大学英語学科2年生で夢はイギリス留学か…体力には自信あるのか?」
 履歴書に目を通しながらチロチャン博士が尋ねる。
 「もちろんです!天才テニスプレーヤー・霧野リサとスノボに行っても先にバテるのは彼女なんですよ。」
 ちょっと自慢げである。
 「ほー。じゃ決まりじゃな。採用決定じゃ。」
 「ホントですか?やったー!じゃない…まだ仕事内容を聞いてないわ。何をすればいいの?」
 採用が決まった途端タメ口になってしまうあたりがイマドキである。

 博士は机の下からなにやらごそごそと取り出すと由香里にポンと投げた。
 「とりあえずこの服に着替えるのじゃ。」
 包みを開けるとピンク色のミニのワンピースと同色のヘルメット、そして白いロングブーツと手袋があった。70年代ロボットアニメのヒロインを思わせるレトロなセットである。
 「ちょっと、風俗関係はお断りよ!バカにしないでよ。帰る!」
 「コラコラ、早とちりするでない。それは戦闘服じゃ。」
 「戦闘服?」
 「そうじゃ。何はともあれ着替えてこちらに来なさい。」
 博士が机のボタンを押すと本棚がスライドしてエレベーターが現れた。
 「先に行っとるぞ。」
 博士は下っていった。アッ気にとられる由香里。

 「まいったなー。サンダーバードか忍者屋敷ってとこね…」
 ため息をつきながらもなぜか楽しそうである。
 「でも面白そうじゃない。ちょっとだけ付き合ってあげるか。」
 由香里は実は少しマニアが入っていた。SF・ホラー関係には目がないのだ。
 「それにしてもすごい色ね。あのじいさんがつくったのかしら…」
 とかなんとか言いながら着替える。
 「なかなかいいじゃない。」
 『戦闘服』に身を包んだだ彼女はまんざらでもない様子である。よく考えればイベントコンパニオンやモデルの衣装とあまり違いはない。
 「じゃ行ってみるか。」
 彼女はエレベーターに乗って下っていった。何が待っているかも知らずに…
(つづく)


(98.04.27)



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