第2話:「私がパイロット?!(後編)」





 エレベーターはどんどん下っていった。かなり長い時間が経過した後ストップ。扉が開いた。
 「な、なんなの?これがあのボロっちい建物の中なの?」
 辺り一面がわけのわからない機械やモニターで埋め尽くされていた。
 「まるでロボットアニメの秘密基地ね・・・」
 「その通りじゃ。」
 突然チロチャン博士の声が響いた。着替えたのは由香里だけではなかった。椅子に深々と腰掛けた博士は白衣に身を包んでいた。
 「その通りってどういう意味よ?ここでSF映画でも作るの?それに何よ、その格好は?いい歳して恥ずかしくないの?」
 「まあそう急ぐでない。今すぐ説明してやるからな。どうじゃ、この服はいかにも『博士』という感じでなかなかいいじゃろ?形からはいるタイプなものでな。とりあえずこれを耳に付けるのじゃ。ホレッ。」
 博士はヘッドホン状の装置を由香里に投げた。ソファーに腰掛け装着する由香里。

 と同時に彼女は今まで経験したことのない不思議な感覚にみまわれた。体全体の自由が奪われていいくが、それが妙に心地よい。まるで選手時代に『スイマーズ・ハイ』を体験したときのようだった。また、頭脳が活性化していくのが自分自身でわかるのだ!しばらくすると突然大量の情報がまさに『ダイレクトに』彼女の中に流れ込んできた。それは以下ようなの内容であった。

 1)地球は正体不明の宇宙人に狙われている。最初にこれを予見した天文学者(博士の息子)は10年ほど前に行方不明となってしまった。
 2)機械工学の権威・本鱈 知路博士はこの事実を訴えたが、無論誰からも相手にされなかった。学会では『狂人』というレッテルを貼られてしまった。
 3)他人のサポートが得られないと悟った博士は、地球を守るため巨大ロボットを単独で開発することを決意。一切の表舞台から姿を消し(世間からは失踪したと思われている)、ホンダラ・チロチャンと改名。自らの莫大なパテント収入を資金源に「グレレイトショウマ研究所」を設立。人目を避けるため地下式とし、地上部分にはカモフラージュのための事務所を設置した。
 4)そして今、地球防衛のための戦闘用女性型巨大ロボット、「High Potential Queen (ハイポテンシャル・クイーン)」が完成した!!

 ・・・パシッ、パシッ・・・ハッ!?
 頬に刺激を感じ、目覚める由香里。チロチャン博士が尋ねる。
 「どうじゃな、仕事内容はわかったかな?やりがいのある仕事だとは思わんか?」
 こんな機械を作れるぐらいだから多分博士の言葉に嘘はないだろう。また、本鱈博士の失踪の件は当時結構大きく取り上げられていたので当時9才だった由香里もよく覚えていた。決断が早いのが由香里の取り柄である。
 「そうね。普通の仕事よりスリルがあっていいかもね。体力には自信あるし。ただし・・・」
 「何じゃ?」
 「危険手当を1回あたり1万円追加してね。保険もかけてね。受取人はお母さんで。」
 「わかった。これで決まりじゃな。」
 うなずく由香里。需要と供給が一致したようである。しかし客観的に見ればどう考えても安請け合いであると思うが・・・
 「それではもう一度その機械を耳に付けるのじゃ。ただし右側のつまみを”2”にしてな。」
 「今度は何なの?」
 「操縦方法の学習じゃ。」
 「へー、何でもこれだけでできるのね。楽でいいわね。試験前に貸してくれない?」
 とか何とかいいながら彼女はまた不思議な感覚に陥っていった・・・

 「さて、いよいよロボットとのご対面じゃ。」
 博士は目覚めた由香里を従え、格納庫に向かって歩き出した。
 「ねーねー、どんなロボット?私が乗るんだからオシャレじゃなきゃだからね。」
 「地球を守るのにおしゃれかどうかは関係ないじゃろ?」
 だんだん漫才コンビ化してくる2人であった。そうこうしているうちに格納庫に到着。
 「これがハイポテンシャル・クイーンの頭部に合体し、コクピットになる『パイルドライバー』じゃ。」
 博士は丸みを帯びた小型機を指差した。どことなくヨーロッパの小型乗用車を思わせるデザインである。
 「へー、なかなかいいんじゃない?カラーリングもかわいいし。まあ合格ってとこね。」
 「偉そうに・・・乗ってみるか?操作方法はわかってるじゃろ?後はこちらからスクリーンで指示すればいいし。」
 「そうね、ものは試し。やってみるか。由香里、いっきまーす!」
 パイルドライバーにむかって駆け出し、飛び乗った。
 「パイルドライバー、ゴーッ!!」
 格納庫天井が開き、地上へ飛び出すパイルドライバー。
 「ヒャー、気持ちいい!」
 
 「どうじゃな?」
 スクリーンに博士が映った。
 「空は青いし、雲一つないし、最高ね。ところでポテQはどこ?」
 「ポテQって何じゃ?」
 「やーねー、私が操縦するロボットよ。長ったらしくて言いにくいから愛称をつけてあげたのよ。」
 「・・・頼むからもっとましな名前にしてくれんかの。左前方の池がハイポテンシャル・クイーンの発進口じゃ。昔からロボットは水の中から現れるものと相場が決まっておるからな。」
 「・・・」
 「さあ、合体するのじゃ。」
 「わかったわ。ハイポテンシャル・クイーン、ゴーッ!!」
 水面が二つに割れ、ハイポテンシャル・クイーンが水面下からせり出すように現れた。均整の取れたボディーラインがあらわになる。メタリックな光沢を放つ深紅のボディーの上で水滴が光っている。
 「パイルドライバー、オーン!!」
 両翼が折りたたまれ、頭部にドッキング。あたかも生命が吹き込まれたかのように瞳が点滅。地球を守る女神の誕生である。
 「なかなかいいじゃない。気に入ったわ。」
 「よし、では実地訓練じゃ。」
 「OK!」
 由香里とポテQの戦いの歴史が今始まった。
 
 
(つづく)


(98.05.14)



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