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001 始まり
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「はぁっ、はぁっ、はぁっ…!」

 全力で地面を駆ける。息が切れる。足が痛い。転びそう。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ…っ!」

 後ろを振り返る。居る。逆光が差してシルエットしか分からないけど、それは確かにそこに居る。

 だから、私は全力で走る。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ…!!」

 路地を右へ。闖入者に驚いた子猫が逃げる。空き瓶に躓いて転びそうになる。
 此処を右に曲がれば大通り。人ごみにまぎれてしまえば多分逃げ切れる。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!!」

 何でこんなことになったんだろう。ついさっきまで友達と楽しく下校途中だったのに。
 お気に入りのアクセサリーを買って上機嫌だったのに。それなのに。
 ちょっと近道しようと、路地裏を通っただけなのに。

 そこで、殺人現場に遭遇してしまうなんて。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ…」

 男は真っ赤な包丁を持っていた。包丁が真っ赤なのは元々ではなく、血に濡れたからだ。
 そしてその血は、倒れてる女の人から。こちらを見たとたん、物凄い形相で走ってきた。だから逃げた。今は逃げている途中。

「はぁっ、はぁっ、っ…!?」

 行き止まり。

「な、なん、で……?!」

 途中で道を間違えたのか。この路地裏はよく通り抜けているから、道は分かってる。
 じゃあ何故。多分慌てていたから間違えてしまったのだろう。後ろから足音。
 逃げなきゃ。でも道はない。どうしよう。どうしようどうしようどうしよう――

「い、嫌ッ…」

 男は近づいてくる。息が上がっている。相当走ったからか。包丁を出す。
 近づいてくる。殺される。このままだと絶対殺される。

「来ないでっ!」

 聞いてくれるわけもない。打開出来る道具は。
 携帯、助けを呼ぶ暇なんてない。
 鞄、教科書が入ってるから結構厚い。
 背中の木箱の上に転がる、空き瓶――


 そう、全ては偶然だった。たまたま、道具が揃っていただけ。


 男が走ってくる。
 包丁を突き出す。
 それを鞄で受ける。
 鞄に穴が開く。
 貫通して、腕に刺さる。
 開いた手で空き瓶をつかむ。


 振り下ろす――


「……あ」

 先ほどとは違って緩慢な動作で倒れこむ男。頭から赤い血が流れ出る。赤い血が広がる。痙攣している。

「あ…ああ…?」

 追われていたときとは違う震えが体を走る。どうしよう。まだ気絶しているだけかもしれない。
 救急車を呼べば助かるかもしれない。でも。そんなことをしたらまた殺されかけるかもしれない。
 でも助けないと死んでしまう。でも、でも、でも?

「嫌」

 震える手で、鞄に突き刺さった包丁を強引に抜いて捨てる。空き瓶を放り投げる。
 そのまま離れていく。スニーカーの血を男の上着に引っ掛けて拭く。あとは走る。走る。走る。

 後はもうどこを歩いたのか覚えていない。腕が痛い。鞄どうしよう。
 スニーカー汚れちゃったな。そんなことを考えていたら家に着いた。

 お母さんは丁度居なかった。私は風呂でスニーカーを洗い、包帯を巻き、鞄は捨てた。見つからないように。

 何が何でも見つかってはいけない。私は何も見ていない。ただ学校から帰ってきただけ。


 そうして、私の逃亡者生活は幕を開けた。

作者あとがき。
なんつーか非常に暗い「始まり」となりました、A'sです。
「普通の始まりじゃ面白くねぇ!」ってことで
とことんまで自分の妄想を信じて見たらこのざまだ!(何
皆もこんな作品を書いちゃダメだぞ!と悪い意味で模範生。
それでは、他の皆様方頑張ってくださいな。 ここらへんにて。