002:夜明け


フィルスト編 −プロローグ−


 光が見えた。やっと、外が見えた。

「……キレイ……」

 ヒトとも、モノとも、思えない、半分解けた姿をした一人の子供は洞窟の中から出てくる。
 ボロボロと、己の体に纏わり付いている半固体半液体のものは落ちていく。
 その子供は、体全体を妙にぬるぬるした液体に包まれていて、けれども体が半分解けているような気味の悪い子供。
 終わらないプログラムの枠の中に入れられる筈だったその子供は、初めて光を見た。
 夜明けの光、夜が終わって朝となる光、それは子供が外に出れた事を現しているのだろうか?
 子供はキョロキョロと周りを見渡しながら、液体によって聞こえにくい言葉を呟く。

「……オネエチャン、ドコニイルノ?」

 その子供は知らない。己がどういう存在だったのかを。
 その子供は知らない。己の世界が変わってしまっていることを。
 その子供は知らない。無知ゆえに、酷い事を出来てしまうことを。

「サガサナキャ。オネエチャンヲ、サガサナキャ」
「あなたのお姉ちゃんの場所、知ってますよ」

 子供はそう呟きながら歩こうとしたら、後ろから話しかけられた。
 話しかけてきたのは銀色のブサイクな初期型ロボット。けれど発音は子供よりもハッキリと聞こえやすい。
 子供はその言葉を聞いて首をかしげながらロボットに尋ねる。

「ドコ?」
「大丈夫です。向こうからこっちにやってきますから、だから待っていましょう」

 ロボットには表情が無いのに、まるで笑っているかのような声色で答えた。




『……特別プログラムを開始する』




 どこかで、誰かが呟いた。





 そして翌日の早朝、何でも屋の住んでいる館に眉毛が無駄に濃い鳩「コンジョー君」が鳴きながら飛んでくる。

「ポッポッポーーー!!」

 ……無駄に可愛らしい声なので、何となくギャップを感じてしまう。
 だが、ロボットなのか一番の早起きであるセイナはそんなの気にせず、窓を開けてコンジョー君を己の部屋に迎え入れる。
 セイナの部屋は二階にある赤ちゃん用の部屋、唯単に充電に部屋が必要なのでいらないものはほとんど捨てていて赤ちゃん部屋だった名残は一つも無い。
 あるのは資料を纏める机と小さなベッドぐらいなその部屋にて、セイナはコンジョー君の足にくくりつけられた手紙をとる。

「……72日16時間11分23秒ぶりですね、手紙の依頼は」

 高確率でやばい依頼であろうと思いながら、手紙を開いてその内容を目で読んでいく。
 読み終わると手紙を掌サイズにたたみ、コンジョー君に顔を向けて彼女(クラウド以外知らないがコンジョー君はメス)を呼ぶ。

「コンジョー君、行きましょう。この依頼内容は私一人で判断出来ません」
「ポッポー」

 コンジョー君は返事らしき鳴き声を発すると、セイナの肩の上に乗る。
 セイナは手紙を持ったまま、コンジョー君が肩の上に乗ったまま部屋の外に出る。



――――それが長い長い一日の始まりだと知らずに。