010 間に合わない


 某大国の某軍事基地。
 その基地の最奥、コントロールセンター室。そこに、男はいた。
 黒いコートを身に纏った男は、パソコンのキーボードを叩き続けている。
 大きく広がるセンター室の正面上部にある巨大スクリーンには「0:08:55」と表示されている。何かの、時間?

「急げ……取り返しのつかなくなる、その前に」

 パソコンのディスプレイにパスワード入力画面が表示されたと同時に、男はつぶやく。
 パスワード解析ツールを用いて、パスワードを解除する。その手並みは、計り知れない。

『残り時間、5分――』

 無機質な声―おそらく、センター室にあるマザーコンピュータの声―が室内に木霊する。
 それに弾かれるように男はスクリーンを見上げる。
 0:04:45。あと、4分45秒しかない……?
 変だ。さっき確認したときは、8分10秒はあった。なら……。

「……謀られた! パスワードを解除すると同時に時間が3分短縮されるのか!」

 男は舌打ちをしつつも、キーボードを打つその手は止まらない。スクリーンの時間も止まらない。
 パソコンに表示されるフォルダを1つ1つ開けていき、目的のツールを探す。
 そのツールを起動、特定の作業さえすれば時間は止まる。

「あった!」

 思わず歓喜の声を上げてしまい、口を塞ぐ。
 もし誰かに見つかりでもすれば、全てが水の泡になりかねない。
 それだけは避けなければ。

 すぐさまツールを実行した男に、更なる不運が待っていた。
 またパスワード。パスワードだけなら問題はなかった。
 基地の最高司令官の肉声が必要だった。

「聞いてねぇぞ馬鹿野郎! パスワードを声に出していうだと!?」

『ピーッ! パスワードが違います。ピーッ! 最高司令官殿ではありません』

 あまり大きな声で叫んでしまったため、マイクに声が入ってしまったようだ。
 すぐさまスクリーンに目を向ける。
 1分を切っている!? また、時間を短くされた。もしかしたら間に合わない……。

「……パスワードの解析は完了した。後はマイクに司令官の声でしゃべるだけ、か」

 どちらにしろ時間がない。だめもとで、パスワードを口にした。

『パスワード承認。最高司令官殿と確認。ファイル開きます』

 まさか、1度だけ会ったここの司令官の声まねで開くとは思わなかった。
 すぐさまツールのセットを始める。
 セットを終え、マザーと接触を図る。

 なぜ、男はこんな回りくどいことをしているのか。
 マザーコンピュータ本体でこれを行えば接触する必要などないのに。
 マザーは司令官の肉声、指紋、網膜が無いと起動不能だった。
 そのため、それらを必要としない不正経路でマザーへ接触しなければならなかった。

 接触成功。早速そのツールを使って作業を始める。

「急げ……急げ……」

 作業完了。時間は僅かに10秒もない。
 9、8、7……。
 作業内容をマザー内で実行させる。終了予定時間10秒。間に合わない……。
 5、4、3、2、1……。基地全体が、ゆれ始める。
 それと同時に、マザーの全システムがダウンした。
 先ほどのツールは、マザーのシステムをダウンさせるものだった。

「……間に合わなかった」





 その後。某大国と敵対する国へ核搭載ミサイルが発射され、その国は壊滅したという。


あとがき

いまいち煮え切らない終わり方になってしまいました。
なんか、いい加減なこじ付けとか目立っていると思います。
そしてまたなんか暗い感じになってしまい申し訳ない。
ではでは、また次の作品で会いましょう。