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033:拒絶


 その少女は、成功作なのか失敗作なのかは、誰も知らない。


「ダレがこんなミスをした! チップを間違えるな!!」
「す、すみません!」
「どうするんですか。このロボットにはチップは取り出せないようプログラムされているんですよ!?」
「こいつを作るのに相当な金と時間がかかったんだ。今更同じのを創れるか!!」
「んじゃ、騙すしか……」

 聞こえてくる発明家達の声。私を開発した金目当ての彼らの声。
 私は「クルミ」、あるヒトの自己満足のために作られたロボット。
 だが発明家達が慌てている。それはそうだ、私の中に埋め込めるチップを間違えてしまったのだ。
 それは「モノの心」であるチップ、だが私に入れられたのは「クルミの心」ではなく「別の心」だった。

「……私はクルミ、メリシアという女性の娘というプログラムを受けています」
「だ、大丈夫なのか……?」
「やるしかないんだよ! 良いか、クルミ。メリシアさんの娘にちゃんとなれよ?」
「善処します」

 大丈夫なのかと彼らが焦る中、私は何故こうなったのかをメモリーデータから解析して整理していく。
 メリシアという♀タイプのヒト、この時代では珍しい金持ちのヒト。未亡人、一人娘にクルミがいた。
 しかしそのクルミは……死んだ。あの奇病アムズンに犯されていき、誰かが殺した。
 だけどメリシア――私が「母さん」と呼ばなければならないヒトは相当な金を注ぎ込んで私を製造する事を依頼、クルミを忘れられないらしい。
 だから私は作られた。しかし私に入れられたチップは「XXX」というもの、それが何かは……分からない。いつの間にか混ざっていた謎のチップ。

「私は、クルミ」

 何故か私は私の中に何かがいるような感覚だった。



 その後私はある屋敷へと連れてこられた。母さんに私を見せる為らしい。
 プログラムにはパターンが用意されているから大丈夫だろうと考えて、扉を開くとそこには見るも無残にやつれた貴婦人の姿があった。

「クルミ? クルミなのね!!」

 私を見た途端、貴婦人――母さんはすぐに私に神経を集中させて走ってきた。私がそう思うほど彼女は病的だった。
 金持ちだというのに、顔はまるで骸骨に皮膚をそのままひっつけたかのような顔つき。ムスメがいなかっただけで、人はこうなるのだろうか。
 私がそんな事を思考していたら母さんは私をいきなり強く抱きしめてきた。ぬいぐるみを、抱きしめるかのように。

「あぁ、クルミ。クルミ……、クルミ……、私の大切な大切なクルミ。そうよね? あなたは私の大切な娘のクルミよね?」

 私を強く抱きしめながら、そう訪ねてきた。私は……その問いに対してプログラムの情報を引き出しながら母さんに答えた。。

「はい。私はクルミです」

 私が、ヒトでいう無表情でそう答えると共に彼女の表情は見る見るうちに変わっていった。それは、モノの私でも醜いと思うほど。

「……っ!」

 直後、私の頬にダメージが出た。それは、彼女の平手によるもの。何故、私を叩いたのだろう? 私はちゃんと質問に答えたのに、何故?
 私が疑問に思いながら彼女の顔を覗き込む。だが、それは怒りに満ちた醜い顔。喜んでいるとは無縁だった。
 発明家達がこれを見て、動揺を隠せないまま母さんに尋ねていく。

「め、メリシアさん? ど、どうしたんですか?」
「実の娘さんに対してそんな思い切りぶたなくても……」
「ムスメ!? これのどこが!? こんなのただの人形よ!! クルミは笑う! 泣く! 怒る! なのに、これは何!?」

 母さん、あなたは何を言っているのですか。私は…………クルミ。
 あなたの娘のクルミ、そうプログラムされています。けれどあなたは拒絶する。
 どうして、拒絶するのか分からない。どうして、どうして、どうして、どうして、どうして。
 私の中で分からない痛みを感じながら、私は母さんに向かって私が誰なのかを口にする。

「母さん、私はあなたの娘のクルミです」
「クルミは私を母さんと呼ばない!! ママって呼ぶわ!! それに私と言わない、クルミの一人称はクルミよ!!」
「母さん、私はあなたの娘のクルミです」

 母さんの言葉の意味が分からない。私は母さんの娘とプログラムされているのに拒絶されているのが分からない。
 私の中の何かが痛く感じながら、言葉を繰り返しても彼女はただ拒絶するだけ。

「あなたはクルミじゃない!! あなたはクルミに似ているだけのロボットよ!!」

 彼女がワタシを全力で拒絶すると共に私の中の何かが強くその言葉を拒絶した。

「……クルミは、クルミだよ。ママ、クルミだよ?」

 何かが叫んでいる。でも聞こえない、私の中にいる何かが誰にも伝わらない言葉を叫んでいる。
 そのせいでか、ワタシの言葉はワタシじゃないダレかが言った。あなたは、ダレですか? ワタシは、ダレですか?
 ワタシは、クルミ……?

「いい加減、喋るのをやめなさい。この偽者が!! 今更クルミの真似事をしても無駄よ!!」

 母さんの言葉と共に私の思考が、思考が、思考が、しこうが、しこうが、しこうが、しこうが、くらく、くらく、くらく、くらく、くらく――――。



『どうして、ママは、クルミを、きらっちゃったの?』



 ワタシの思考が暗くなる直前、やっと何かの声が聞こえた。