035:意味


「もう少し良心的な値段でも良いと思いますがねぇ……?」
「いえいえ、そんな危険な仕事を女の子にさせるんだから奮発してくださってもいいと思いますがねぇ……」

 唯今、依頼人のおじさんとハルカさんが依頼の値段について交渉と言う名の知能戦を行っています。
 行く場所がかなり危険で依頼内容も結果が目に見えているものなんですけど、ハルカさん、それを言わずにしぼりとる気満々ですね……。

「セイナ、何分経った?」
「大よそ38分です」
「……1時間越すか?」
「はい、高確率でそうなります」

 セイナさんの分析を聞くカリヤさんとユウトさん。
 僕の隣にいるクラウドは理解してなく、退屈そうにしてます。実際僕自身退屈です、うーん……ちょっと探検しにいってみようかな……?

「カリヤさん、ちょっとトイレ行ってきます」
「あっ、ほいほい」
「ヒカル、あなたはトイレに行けないのでは?」

 ギクッ! カリヤさん、ごまかせたと思ったけどセイナさんに気付かれた?!
 止められる前に僕は急いで壁の中に潜り込んで、部屋の外に出ます。それにしてもびっくりした……。
 幽霊である僕にしか出来ない特技ですけど、中々便利なんですよね。これって。
 相当長い間幽霊になっていたみたいで霊感無い人にも見えるよう調整出来ますし……。
 そんな事を考えていたら、背後から声が聞こえてきました。

「あなた、何をしているの?」
「え?」

 僕は反射的に振り返り、話しかけてきた人を視界に入れます。
 ……うわっ、何百年前の服着てるんだ!? えと、うろ覚えだけどあれって着物!?
 おかっぱ頭の女の子で白の刺繍が入った赤い着物を着た6歳ぐらいの少女がいるんですけど、裸足+若干宙に浮いているんですが。
 ま、まさか幽霊じゃないですかね? まぁ、僕もそうなんですけど……。
 とりあえず質問されているので僕はそれに答えます。

「僕はちょっと歩こうと思ったんですけど……。というか、あなたは?」
「あたし? あたしはね、座敷童子っていうんだよ」

 ………………………………………………………は?
 ざ・し・き・わ・ら・し……って、ちょっと待て。
 確かにこの時代、意味不明なアムズンっていう病気や言ったら悪いですけどどこをどうやって生まれたのか分からないアメーバンもいます。ですが、ですが…………!!

「な、何を言ってるんですか? こんなご時世に妖怪だなんて」
「あら、あなたがいるように妖怪もまだいるのよ」

 認めちゃったよ、この子! マジで座敷童子なんですかぁ!?
 た、確かに僕は幽霊で本来ならありえねぇーって言える存在です。でも、それでも! 妖怪がいるなんて認められますかぁ!!
 妖怪って言ったら悪いですけど和風モンスターですし。いるなんて考えにくいですよ!!

「何を百面相してるの?」

 ……顔に出ていたみたいで……。

「だって妖怪だなんて信じられませんよ」
「そりゃそうよ」

 あっ、本人でも納得してる。って、何で納得しているんやねん。
 僕の言葉に自称座敷童子は小さく笑いながらこう答えた。

「だって、あたし達妖怪はあなた達から生まれたのだから」

 ……え?
 座敷童子の言った言葉は、あまりにも予想外。
 そりゃ人間から妖怪になる話は聞いたけど、それって凄く昔の話なんじゃ……?
 彼女は僕の表情から僕の疑問を感じ取ったのか、彼女はこう答えた。

「妖怪は何時の世にもいる。ただ、あなた達が知らないだけ。あなた達が見ていないだけ。
 この汚れた世界にも私達はいる。あなた達の言うアムズンも、妖怪」

 って、アムズンも妖怪!? 何で!?

「アムズンは病気ですよ! どうして妖怪なんて……」
「付喪神って、知ってる?」

 へ? えーと、確かそれって何百年間もの間、保管もしくは放置されたモノに魂が宿って妖怪化した存在の事ですよね?
 まぁ、最低限の知識ならば知ってますけどそれとアムズンが一体何の関係があるのでしょうか?
 僕は知っている事に頷き、彼女に話を進める事を目でお願いする。彼女はそれを感じ取ったのか答えてくれました。

「私達は、アムズン……いいえ、アムズン感染者の事をこう呼んでいるの。逆付喪神って」

 逆付喪神!? 何ですか、それは!?
 確かにあれは不可解な病気ですけど、だからって妖怪に結びつけるのはおかしくありませんか!?
 彼女は僕が驚いているのを無視して、話を続ける。

「あなた達は勘違いしているみたいだけど、元々完成されたモノには魂があるの。
 でもね、あなた達が作り出したせいか、魂の力はそれほど強くないの。だから付喪神は存在する。
 それ故に、アムズンは生まれた」

 意味が分からなかった。
 魂とか、付喪神とか、妖怪とか、そういう意味じゃない。
 彼女の伝えたい意味を感じ取るには、僕はあまりにも今の常識に囚われすぎていたから、出来なかった。

「 全て は ヒト が 切欠 なのを 忘れない で 」

 座敷童子は僕に向かって、そう言った。
 僕はその言葉に、ただ彼女を見ることしか出来なかった。

「だああああああああああああああ!!!!
 さっさとしないとあんたの娘さん死にますけどこのまま話していて良いんですね!?
 良いのならばその値段でいきますよ!
 ですが助け出すには私の言った値段じゃないと駄目なの!!
 なぜならそれがあなたの気持ち、なぜならそれがあなたの救いたいという気持ち!!
 ですが、あなたの言った値段では絶対娘さんは死にます!!」

 うわわわわっ!?
 突然ハルカさん達のいる部屋から聞こえた叫び声に、僕は部屋の方を振り向いてしまいます。
 ……ハルカさん、わけの分からない言葉を早口で言いまくってさっさと自分の言った値段にさせる気満々ですね。
 相変わらずだなと思いながら僕は座敷童子に顔を向けると、もうそこに彼女はいなかった。

「……え?」

 言葉が出なかったっていうのもあるけど、ただ僕が気になるのは……気になるのは……。

「……僕も妖怪、なんて言いませんよね……」

 個人的に何か嬉しくないんです。



 ヒトは認めない、ヒトは見ない、ヒトはそれ故に無知、ヒトはそれ故に知



 だから、全てはヒトから始まった。