046 視線

パソコンをしていると、ふと携帯のランプが点滅した。どうやらマナーのままだったみたいだ。
急ぎの電話だったらまずいので俺は早々に携帯を開く。メールだったので少しホッとした。
マナーを解除して、メールボックスを開く。どうやら今まで気付かなかったらしい、メールがたまっていた。
今度から気をつけようと思う。なんて考えてメールを開くと、ゾッとした。


件名:私メリーさん
私メリーさん、今あなたの街に着いたの


これは単なる悪戯か。というか悪戯だろう。こんな都市伝説を真に受けるほど俺は純粋でも、天然ボケでもない。
ボタンを一つ押してその次のメール。


件名:私メリーさん
私メリーさん、今電車に乗ったの


退屈な奴だ、現状報告などいちいちせんでもよかろうに。律儀な奴だと思いながら笑った。
しかし反面、怖い。この手の話しを100%信じているなんて個人的にはありえない。
だが100%信じていないなんて方もありえないと思う。少なくとも俺がそうだ。
誰もいないのに、空笑いで怖さを隠しながら次のメールへ。


件名:私メリーさん
私メリーさん、今あなたのいるマンションの前にいるの


焦る。俺は送信時刻を見た。
21時32分だった。現在時刻は21時40分、ということは今から約十分前に送信されている。
冷や汗が出た。10分もあればガキの足でも、5階に位置する俺の部屋へも余裕で到着だ。
生唾を飲み込み。次のメールへ。


件名:私メリーさん
私メリーさん、今あなたの居る階に着いたの


マジかよ。こいつはかなりゆっくりペースで来たらしい。それが一層、恐怖を増進させやがる。
苦し紛れにメールを鼻で笑ってやった。そして次のメールへ。


件名:私メリーさん
私メリーさん、今503号室の前に居るの


503号室、それは俺の部屋。嫌に現実味のある悪戯だ、と考えても笑えなくなってきた。
自分がここまで小心者だとは思わなかった。手が若干震えてきている。
腕を軽く殴りつけて強制的に振るえを止めた。まるで割れ物でも扱うように、ゆっくりとボタンを押す。


件名:私メリーさん
私メリーさん、今あなたの後ろにいるの


いよいよ心臓の鼓動が加速した。真に受けるのも馬鹿馬鹿しい、なんて言っていられる心境じゃない。
心なしか、後ろから視線を感じる。ジーッと見つめられている。
気の所為だと言い聞かせて、最後のメールを開く。


件名:私メリーさん
どうして気付かないの、後ろを見てよ


絶対振り向けない。見たら、何かが終わりそうな気がする。震えが止まらない
と、着信音が鳴る。恐怖がありありと表れている指先でメールを見る。


件名:私メリーさん
もしもーし、メリーさんですよー?

……あれ?なんか、文章の感じが変わってませんかね?
送信時間を見てみる。前のメールから10分くらい経っていた。待ちきれなかったか?
また携帯がなった。恐怖の抜けた指先でそれを開く。


件名:無題
ちょっと気付いてるなら早くこっち向きなさい!


最早タイトル入れるのも面倒になったか。完全に恐怖が楽しさと入れ替わった。
あえてそれを放置して、後ろを見ないようにしながらパソコンを続行。
5分くらいして着信音。間隔が短くなってきたな。


件名:無題
こっち向きなさいよー!


やなこった。こんな面白いこと、早々お目にかかれるもんじゃない。というわけで放置。
今度は5分も経たずにメールが来た。開く。なにやら棒で突っつかれるような視線を感じるが気にしない。


件名:無題
泣くよ!?


泣け。それはそれで面白そうだ。