083 漂着



先日から三年を除いた学年は修学旅行。今日は二日目だ。
一年生は京都と奈良、沙希は今頃八橋でも頬張っているだろう。
そして俺達二年生は沖縄だ。今日二日目は自由時間だった。俺の班はベタにビーチで海水浴を堪能していたんだ。
その筈だったのだが、

「なんでサヴァイバルせにゃいかんのだ」

モーターボートなんぞ借りたのが間違いだった。舵がいきなり操作不能になり、そこで高波。
気がついたらこの無人島っぽい所で皆倒れていたという事だ。早い話が漂着か遭難だ。
漂うという表現はあまりにも当てはまらないが、この際どうでもいい。
三泊四日という意外にも贅沢な修学旅行が、いきなり自給自足のサヴァイバル。
幸い、湧き水がある場所があるだけマシだった。一日飲まず食わずでも死にはせんが、あった方がいいのは事実だ。

「運があるだけマシだよな」

小屋の中にあった、木の枝で作られた足跡の釣竿の糸を垂らしながら俺は呟いた。
どうやらここは昔、何かの休憩所だったらしい。小屋の中には様々な道具があり、釣には困らない。
傍らのバケツその1には岩場で見つけた餌用の蟹を入れてある。釣り針にはその一匹をぶっ刺してある。

「……おっ」

物思いにふける間もなく得物がかかった。俺は素早く糸を引いて魚を海から引っ張り出した。素早く釣り針を外して、バケツその2に入れる。

「蟹の犠牲は無駄ではなかったな」

これ自体も焙れば食えなくないと思うが、それを犠牲に魚を狙う。
なにせ俺達はまだ食べ盛りだろう。ノルマとして一人一匹分、合計6匹は欲しい。大きければなおよしだ。

「残り5匹……いや、7匹」

一種の保険だ、あと二時間粘ろうと思う。時間がわかるのは、アンテナが一本も立ってくれない携帯が奇跡的に無事だったからだ。

「……ん?」
「あ、ごめん。邪魔しちゃったかしら?」
「ああ、東谷さんか」

班員で女子の一人だ。どうやら役割分担で、俺と同じく吊りを押し付けられたようだ。

「って、もう釣れたんだ。山城君て、こういうの上手なのね」
「姉さんがこの手の本を何故か持ってて、何故か俺も読まされた」

未央姉さんはとにかく多芸多趣味というか、色んな方面に興味を持つ。王道から少数派までもう幅広いの何の。
一番最近ではソムリエ、その前はギリシャ神話、その前は昆虫学に嵌ってたな。どれも一ヶ月足らずでブーム去ったが。
その姉さんに今は感謝しておかなければならない、巻き込まれてなけりゃ今日の飯は恐らくお預けだったからな。

「とりあえずそこに入ってる蟹なり貝なり、釣り針にぶっ刺して」
「え、ちょちょっとこれは……」
「……了解」

うちの姉さんと一般女性を一緒にしてはいけなかったか。いきなり出来るわけもない。

「こう、足の付け根辺りからやると甲羅で針が欠けなくていい。コツは躊躇わないこと」
「……なんか、山城君ってこういう時頼りになるわよね」
「そいつはどうも。ほい、適当に釣ってくれ」

餌をつけた竿を東谷さんに手渡し、俺も新たに餌を刺して再開。あー、なんだか平和な一時。

「なんだか、とんでもない修学旅行になっちゃったわよね」
「流石にこれは予測不可能だぁな」
「多分、助けくらい来てくれるとは思うけど……あ!」

東谷さんの竿が大きくしなる。どうやらさっきより大物のようだ。

「こ、これ……結構、力が……!」
「しっかり持って!」

俺は横から、自分の竿をほったらかしにして一緒に竿を掴んだ。
密着するに近い状態で、ちょっと東谷さんが驚いたようだが、気にしてられない。

「せーのでいくぞ!」
「わかった!」
「せーのっ!!」

一気に引く。これは、でかいぞ!

「っしゃあ!」
「……へ?」

東谷さんが呆けたような声をあげると、黒い物体が俺達の目の前に打ち上げられた。




――今起こった事をありのままに話すぜ。




「竿を引いたら、ダイバースーツ姿の担任が釣れた」
「やあC班の諸君!サヴァイバル体験を楽しんでいるぐわっ!」

とりあえず俺は課に入りのバケツを担任にぶちまけた。

「のわー!か、蟹が!鋏が!足が!引っかかって!いぃたぁいぃぞぉおおおおお!!」

じたばたじたばた、のた打ち回る担任。あ、海に落ちた。

「……いいの、あれ」
「とりあえず罰則、気にしてはいけない」

つまりウチの馬鹿担任がどう仕組んだか知らないが、ウチの班をこの島に意図的に置き去りにした。
そして自分はその様子をこっそり窺っていた、と。

「なんつー学校だよ、ウチのとこは」
「まあ、校長先生が校長先生だし……」

我が校長の掲げる我が高校のスローガン。それは、


―精進し、生き残るべし―


以上、人間兵器の異名を持つ戦部 厳臓のありがた〜いお言葉でした。

「とりあえず、どうするね」
「先生なら、無線くらい持ってるんじゃないかしら」

しかしその担任が沖へ流されたので結局迎えを待つ羽目になったのだった。
後輩やこの学校を目指す奴らにこっそり教えてやろう。ウチの修学旅行はサヴァイバルだと。
とりあえず、ウチの班の修学旅行のレポートは異色なモノになりそうだ。



――と、思いきや

「俺のとこは夕方まで穴倉に居たぞ」
「私達のところは、山奥のコテージに今までずーっと閉じ込められた」

なんやねん、ウチの学校。