099「タブー」


 残り、4人だ…。
 首にまとわりつく冷やりとした感覚には、未だに慣れない。
 しかし、この感覚とも、あと3人の死で別れる事が出来るのだ。
 残りは4人。生き残るのは…誰だ?

 こんな馬鹿げた事は、いったい誰が考え付いたのか。
 21世紀の終わり頃、突然生まれた新たな死刑執行方法。
 正式名称は知らないが、巷では俗にこう呼ばれている。

「タブー」

 タブー…すなわち、禁句。
 死刑囚は死刑執行日になると、10人程度のグループで密室に案内される。
 そこには白いテーブルと10脚の椅子が用意されており、テーブルの上には豪勢な食事も用意されている。
 俺たち死刑囚10人は、そこで延々と雑談を繰り広げるのだ。
 しかし、その際に言ってはいけない言葉がいくつか用意されている。その言葉こそ、「タブー」なのだ。
 そのタブーを言った者は、30秒後に、首に取り付けられた首輪が爆発する。つまり、死ぬ。
 もちろん、俺たちにはそのタブーがなんなのか、知らされない。
 巷の噂で、アレがタブーだ、コレがタブーだ、と聞いた事はあるが、それが本当とは思えないし、
 仮に本当でも、とっくに変更させられているだろう。毎回変わっている可能性もある。
 タブーを言った、その30秒後に爆発すると言うのも、曲者だ。
 即座に爆発すれば、タブーがなんなのか、他の者にはわかる。
 だが、爆発は30秒後なのだ。いったい何がタブーなのか、ちょっとわかりにくい。
 それでも、俺にはわかる。俺は、記憶力だけは誰にも負けない自信がある。
 爆発した瞬間…30秒前に何を言ったのか、即座に俺は思い出す事が出来る。

 俺たちは、10人でこの部屋に通された。そして既に、6人が死亡している。
 1人目は、若いチンピラだった。
 部屋に通されて着席すると、すぐに料理を食べ始めた。
 そして叫んだ。「美味ぇ!」
 どうやらこれが、タブーだったようだ。30秒後、彼は死んだ。
 タブーを言わなければ言いのだから、喋らなければ…という考えは通用しない。
 10分程度喋らなかっただけで、首が吹っ飛ぶのだ。
 あらかじめ、死刑執行人がそう説明していたにも関わらず、開始から10分間、一切喋らない奴がいた。
 始終震え続けたその男は、2人目の死者になった。

 3人目は、意外なタブーだった。
 頭の禿げ切った爺さんが、何を思ったのか、「笑い話でもしようか」と切り出した。
 その話の途中で、爺さんは消えた。「笑い話」がタブーだったようだ。
 死刑執行室で、「笑い話」なんて言葉を言う奴がいるとは…。そして、それをタブーに設定するとは…。
 死刑執行人の思考が読めない。何がタブーなのか、全く掴めない。

 4人目は、「トイレに行ってくる」と言って、30秒後にトイレの中で死んだ。
 トイレに行く時は、「失礼」と言って席を立つものだ。マナーを守らないと、こう言う事になる。

 5人目は、少しキレた奴だった。4人死んで、怖くなったのだろうか。
 「お前ら全員死ね!」と言った30秒後に、そいつが死んだ。
「『死ね』なんて言うから、死ぬんだ」と言った男が、30秒後に6人目の被害者になった。
 タブーは「死ね」のようだった。

 こうして、残りは4人。俺と、片目に眼帯をつけた男、ヘビースモーカーの男、ロン毛の男。
 この中の3人が死ぬまで、死刑執行は終わらない。そして、残った1人は、外へ出られる。
 俺たちは何食わぬ顔で話しながら、相手がタブーを言うのを、今か今かと待ち続けている。
 対して、自分もタブーを言わないようにと、慎重に話しているのだ。
 今出たタブーは4つ。「美味ぇ」「笑い話」「トイレ」「死ね」
 これ以外に、いくつのタブーが設定されているのか…俺たちは、それすら知らない。

「みんな、もう食わないのか?」
 俺が料理を取り皿に盛りながら、聞いた。
「食べる気がしねぇよ」
 ヘビースモーカーの男が、タバコをふかして言った。
「あんた、よく食う気になれるな?」
「地獄の沙汰も、飯次第…ってな」
「それを言うなら、『金次第』だろう」
 眼帯男が言った。そのぐらい、俺だって知ってるさ。
「そう、金なんだよ…」眼帯男が続ける。「オレは、外に出りゃ大金持ちだ。だから、お前ら全員…」
「死ね」と言うのかと思ったが、言わなかった。どうやらこいつも、「死ね」がタブーだと気付いているようだ。
「とにかく、出るのはこのオ……」
 眼帯男の言葉は、そこで途切れた。首が吹っ飛んでいた。もう見慣れた。
 何がタブーだったんだ? 「金次第」か? とにかく、「金」と言ってはいけないようだ。
 また、タブーが増えた…。

「少しは食うか…」
 ロン毛男の取り皿は、未だに綺麗なままだった。
 こいつも俺も、ヘビースモーカーも、死ぬのは怖い。豪華な料理を前にしているが、誰も食べる気は起こさない。
 俺だって、気を紛らわすために無理して食べているだけだ。
「この肉、もらっていいか?」
「ああ、どうぞ」
「悪いな…」
 鶏肉を皿に取ると、ロン毛はナイフとフォークで食べ始めた。
 一方俺は、豚肉を食べる事にした。
「美味いか?」
 ヘビースモーカーが聞いてきた。「美味ぇ」と叫んで消えた最初の男を思い出した。
 ヘビースモーカーは、俺たちが「美味ぇ」と言うのを誘おうとしている。
「ああ…美味しい」
 ニヤッと笑って、俺は奴に言った。ヘビースモーカーは、「へっ」と笑った。
「このトマトももらうぞ」
 最後の1つだったトマトを、ロン毛男が取った。素手で掴むと、むしゃぶりついた。
 一方俺は、焼きナスを取り皿に取った。秋の味覚はなかなか美味しい。
 その時突然、ボンッと音がして、ロン毛をつけたボールが床に転がった。
 どうやら、6つ目のタブーは「トマト」だったようだ。

「残ったのは2人か」
 ヘビースモーカーがタバコを灰皿に押し付け、俺を見た。俺も、挑戦的な目で見返す。
「気まずい雰囲気だな」
「だが、喋らないわけにはいかない」
 料理を食べながら、俺は答えた。
「何でも喋ってくれ。俺も、何でも相槌打つから」
「ごめんだな。下手に喋ると首が飛ぶ」
「しかし、喋らなくても…?」
「首が飛ぶ、か」
 へっへっへっ…とヘビースモーカーは不気味に笑った。
「お前、タブーを全部、覚えてるか?」
「もちろん。俺は記憶力がいいからな。今のところ、6つ出ている。…お前は?」
「俺か? 俺は、記憶力なんか、ねぇからな。そんなもん、覚えてねぇ。最初の奴は、妙に覚えてるが」
 例の、「美味ぇ」か。
「それ以外のタブーは、記憶にねぇ」
 その時、ボンッと音がして、火のついていないタバコとライターが、床に落ちた。
 俺は一瞬戸惑ったが、記憶を手繰り寄せて、すぐに思い当たった。
 7つ目のタブーは、「タブー」だったのだ。
 死刑執行人は、なかなか洒落が効いてやがるぜ。

 部屋のドアの鍵が開く音がして、制服姿の男が部屋に入ってきた。俺たちをここに招き入れた、死刑執行人だ。
「おめでとう。よかったな」
「ああ。ありがとう」



 死刑執行人の目の前で、10人目の死者が出た。
 8つ目の…最期のタブーは、「ありがとう」。


ラストから2番目、099「タブー」を書かさせてもらったキグロです。 未だに、推理物or科学系のネタが浮かびません…。 まぁ、適当なところで諦めて、ジャンルに拘らず書いていこうと思います。 さて、なんとなくありがちな設定、ありがちなオチでしたが、楽しんでいただけましたか? 最後までお読みいただき、「ありがとう」ございました。 ボンッ。