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四月も上旬のある昼下がり、壬生屋未央はあるコトに気付いてしまった。
―ソックスバット、その生物危険につき―
岩田裕・自称イワッチ。三番機パイロット。
趣味を「クツシタ集めですヨォ〜!」等と公言して憚(はばか)らないその男が、何故かよりにもよって『瀬戸口の靴下』を所持していることに。
持ち前の突攻精神で、出会ってわずか二日で告白し、恋人同士となった瀬戸口隆之。
それから早や一ヶ月。
…まさか、瀬戸口が同性にも手を出そうとしている!?
「んなワケあらへんって!」
的確なツッコミ、ありがとうございます。
以上、加藤情報産業の提供でお送りしました(笑)
…じ、じゃあどうして、あれほど仲の悪かった二人がよりにもよって“クツシタ”をやり取りしているのっ!?
壬生屋は丸一日授業そっちのけでその事だけを考え、最前列の席にクネる岩田を観察していた。
そして動きに酔い、気分を悪くしてしまった為、整備員詰め所でしばらく休まねばならなかった。
そんな日々が数日続き瀬戸口は、何故か壬生屋が自分を相手にしてくれないことに苛立ちを隠せないでいた。
更に自身、現在二番機整備士であるため、一番機パイロットの壬生屋とクラスが異なり、くわえて近頃では度重なる出撃が二人の会話を遮り、まともに言葉を交す機会すら無かった。
(もしかして…)
壬生屋に飽きられ、とうとう見捨てられた!!??
(いやまさか、そんな事は・・・)
暗い考えを振り払う。
最近は“夜のお仕事”もないし、ゆえに女性関係で嫉妬されるいわれも、心当たりもない。
では、何が理由なのか?
…。
……。
………???
やはり、思い当たる節はない。しかしこのままではどうにもならない。
幸いなことに、バンビちゃん(速水厚志=WCOP受章済)は壬生屋と同じ一組。
近頃壬生屋の様子に変化はなかったか、訊いてみることにした。
俺は早速、仕事場に向かおうとしていた速水を捕まえ、壬生屋の様子に変わったところはなかったかと問いただした。
「え、壬生屋さん?確か最近よく詰め所で休んでるよね。昼休み」
「それは知ってるんだが…」
「じゃあ理由までは知らないんだ。壬生屋さん、授業そっちのけでずーっとイワッチばっかり見てるんだよ」
「……そうか…速水、お前テレパスセル持ってたな。岩田は何処だ。今すぐ教えろ」
「痛いよ瀬戸口君てば…イワッチ校舎裏に居るみたい。どうするのさ?」
「とーぜん殴るっ!!」
「…あーあ。行っちゃった」
(あーもうなんであいつクネクネなんかに構うんだよあんな生物に負けてたまるか今すぐ殴ってやる待ってろ岩田如きがなんだっていうんだ)
普段のやわらかな雰囲気からは想像出来ないほど剣呑な空気を纏い、瀬戸口は校舎裏へ向かってひたすら走る。
―校舎裏。
この場所は職員室の目の前に位置しているにも関わらず、小隊内では【決闘の場】とされている。
柄にもなく全力疾走などしたせいで、すっかり息が上がってしまった。
ゼエゼエいいながら、岩田の姿を探す。
が、其所に居たのは岩田だけではなかった。
瀬戸口の目に写ったものは、嬉しそうに地べたと口付け横たわる岩田。
そして、その傍らで肩を震わせている(らしい)壬生屋。
思わず彼女の名を呼ぶ。
「壬生屋っ!」
こちらを振り向いた壬生屋は怒りとも、泣きともつかぬ表情を浮かべていた。
「…瀬戸口さん」
「壬生屋。岩田と、何かあったのか」
「…いいえ。何もありませんわ」
「嘘をつくな」
「瀬戸口さんこそ、わたくしに仰(おっしゃ)ることはありませんか?」
「…何の事だ」
「これの事ですっ!!」
べちゃっ。
そう言うと壬生屋は赤い物体を瀬戸口の顔に投げつけ、走り去っていった。
「……これは……」
いつぞやの体育の日、着替え後に消え失せた筈の『瀬戸口の靴下』であった。
(岩田愛用血糊付き)であるところから察するに、壬生屋はつい数秒前、岩田からコレを取り返したのだろう。
それも、拳を賭けて。
(どうして瀬戸口さんは怒っていたの!?やっぱり岩田さんと…不潔!変態っ!大変態っ!もう知りませんっっ!!)
もう駄目だわ。
きっと瀬戸口さんは、わたくしのことなど嫌いになってしまわれたでしょう。
それに―こんな精神状態では一番機の整備はおろか、技能訓練すら手につかない。
気付けば小隊隊長室横にそびえる木のそばまで来ていた。
音割れしているスピーカーから鐘が聞こえたが、どうせ残るはHR。慌てて教室に駆け込む必然性も無い。
―たまには木の下でぼんやりするのも悪くないわ。
壬生屋は木の下でお守りに入れていた『紫水晶』をそっと取り出し、それをぎゅっと握りしめると瞳を閉じた。
―おそらく壬生屋は、ちょっとした拍子に自分の靴下を岩田が所持していることに気付いたのだろう。
そして、それを取り返してくれた。
自身もこの件に関しては被害者であるが、壬生屋からはあらぬ誤解を受けてしまったらしい。
多分“クツシタをやり取りする仲”だ、と。
不名誉な汚名を晴らすべく、壬生屋の後を追った。
そのときHR開始を告げる鐘が聞こえたが、万年極楽トンボの名を欲しいままにする彼にとって、それはどうでもよいことだった。
探し始めて数分後、彼女はすぐに見つかった。
通称『同調の樹』の下で木にもたれかかり、一見眠っているようにも窺えた。
遅刻・欠席を至極嫌う彼女にしては珍しく、サボりを決め込んだようである。
辺りを包む静謐な空気に声を掛けることをためらいつつ、しかし、話すべきことは話さねばならない。
思いきって、瀬戸口は切り出した。
「壬生屋……いや、未央。俺は」
「貴方のことなんて、もう知りません」
「それは誤解だ。靴下はあいつに盗まれたやつだったんだ」
「…本当ですか?」
「愛する姫君に嘘なんてつくもんか」
しばしの沈黙。
「…恥ずかしい台詞を平気で言うんですね」
「本当のことを言って何が悪い?」
「…ならば、その誠意をみせてください」
「参ったな…“俺だけの”尊き姫君。私如きと御一緒に歩くことをお許し願えますか?」
「ふふっ、おかしな人」
「おかしいは非道いじゃないか。はははっ」
「じゃあ『わたくしだけの王子様』何処へ連れて行ってくださいますの?」
にこやかに微笑み、差し出された瀬戸口の手に自らのそれを重ね壬生屋は立ち上がる。
どうやら彼女の機嫌は戻ったようだ。
さてと、ここからは俺のペースでいかせてもらうぜ、お姫様。
「どこへでも―と言いたいところだが、残念ながら金のない貧乏学兵でね。とりあえずハンガーにでも行こうか」
「何故ハンガーなのですか?」
「明日はデートに決まりだ。となったら今日中に仕事を済ませておかないと、だろ?」
「未央には紫水晶より、もっと他の色が似合うよ。新市街でいい石、探そうな」
「けれど……」
「水晶眺めるよりも、二人でいるときの方が落ち着くだろう?」
「瀬戸口さんと一緒にいるとわたくし、胸がドキドキして、落ち着く暇もありません…それにあの石は瀬戸口さんと同じですもの。
だから紫水晶を見ていると、ほっとするんです」
「紫は、俺の瞳だけで我慢してくれ…な?」
壬生屋の柔らかな肢体をすっぽり抱き締めその耳元で瀬戸口が囁くと、彼の愛する姫君は抱かれた腕のなかでこくん、と小さく頷いた。
――日曜日はデート日和。
こんなご時世だ。少し位楽しみが無いとな。
愛する姫の笑顔を、もっとたくさん見たいから――
― 一方その頃一組教室では ―
「さあ私がこのゲームのラスボスです。ヘイィ、カァ〜〜モォ〜〜〜〜ン!!!」
…くどいわボケェ!
との加藤のハリセンツッコミを皮切りに、しばらく生き返らないよう秘密裏に処理される岩田の姿があったと云う。
出典:1999年5121独立駆逐戦車小隊活動記録改め奥様戦隊日誌四月十日(土)分より抜粋
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