「今日は・・・僕の迷い込んだ屋敷の話をしましょう」

 

 

 調度品の並んだ闇は、悪霊の屋敷にふさわしい。

右から、足の欠けた椅子、火の点かないキャンドル、割れた硝子窓。

・・・開かない、ドア。


† 鍵穴シアター †

 

 映るのは大仰なベッド。金のひらひらした縁取り。

天蓋からぶら下がった紫のカーテンが揺れた。奥にたゆたう燭台の焔。

柔らかなマットレスが歪み皺を放射状に描く。耳に届く心のフィルムの回る音。

視線の先、深く沈み込んだクッションは徐々に元の形をとりはじめ、倒されたそれを押し上げる。

女性だった。切りそろえられた黒髪が揺れ弾む。蒼く光った瞳は黄金にも碧にも煌めく。

白い肌が熱を持ち、上気して見える。脳天に見えるのは・・・銀のアンテナ。

涙に潤んだ眼差し。長い睫に滴が踊る。

すべらかな頬にぷっくりと形の良い唇。細いがなめらかな曲線の顎。

それを這う指。主は、闇。彼女に似合ったシースルーのランジェリーをずりあげ、中へ滑り込ませる。

「あ」

短い声。低すぎず高すぎず、しかしそれは淫蕩な響きでいて。

そこにある生々しい息遣いのすべてを、証明しているようで。

ひとりとして人であるものは、ない。

だが其処にはたしかに、男と女が、在る。

鍵孔から臨む世界。

滲む嘘と事実の境界。

偽りの肉体。

脳内に交錯する想い。

下半身よりもっと深く、奥底から湧き上がる、此れは___

情念。

下着を肩までたくし上げ、手は其の躰を這い回る。

美しい稜線を描く乳房。つんとした先端の蕾は、彼女の頬と同じ色に染まっている。しっかりとした肋骨のライン。可愛らしい臍。一直線上に並んだ腰骨。下れば目に入る恥丘。それを覆う密林。

指は焦らすように、彼女を奏でる。甘い悲鳴を漏らす女性は、まるで救いを求めているようでもあった。

「あ・・・あぁ、ああ」

こんなことが、赦されるのだろうか。

いや、あってはならない。永久に死にながら生きる者と、それに生み出された命が交わるなど。

まかり通ってはならぬ。それが敢えて禁忌と記されておらずとも。

指はその摂理を嘲笑うかのように彼女を弄ぶ。

顔も胸も尻もその心でさえも。

彼の腕の中、あの少女人形は踊ることしか赦されない。

彼女に選ぶ権利はない。

そしてもし仮にあったとて、其れは無意味だ。

彼女はどれだけ足掻こうとも、彼という楔から逃れることは出来ない。

する必要性もない。

其処には測り知れぬ、愛がある。

根を張り、彼女のすべてを吸い尽くさんとしているのだ。

そして雁字搦めの彼女を、指はいたぶる。

其処に在る総てを知りながら、彼女の何もかもを撫で回す。

罪悪感も。

快楽ですらも。

「あ、そこはっ」

指が秘所に触れたようだった。そして、対する声。

「ここが・・・何なのです?」

まるで試すような口振り。吹けば揺らめく蝋燭の炎のような声質。しかしそれにはたしかな存在感がある。

悪霊。

まさにそれは、他に形容できぬ音域。

「・・・そ・・・そこは・・・」

躊躇いがちに伏せた眼が背けられる。だが悪霊はそれを認めない。

彼女の顎を、骨っぽい手で覆いつくすように掴む。視線を強引に上向きにさせ、影は微笑む。

その魔手に縛られた彼女は、さながら獲物のよう。

「何を泣くことがあるのですか。私はこんなにも傍に居るのに」

覆い被さった影が、とうとうその姿を見せた。

年の頃は三十を越えたか越えまいか。漆黒のマントにタキシードの似合う、長身の男。端正な横顔は狂気に染まっていた。

闇の支配者。

黒く陰る眼光は紅。妖しく魅了する魔性の輝き。

「ほうら・・・あなたの欲しがっているものは此処にあるでしょう?」

紫の吐息。優しい毒を含んだそれは、噎せ返る程に濃かった。

「あああっ」

闇は容赦なく彼女を攻め立てた。抗する力など、なかった。喘ぐ彼女は生け贄の羊にも似て。

花をなぞっていた指を引くと、透明な長い糸が伝った。刺々しいまでに紅い舌が現れ、それを汲み取る。ちらりと見えた顔のもう半分は、不気味な白い仮面に被われていた。

「ねぇ・・・めばえ。此れが好きなのでしょう」

彼女は息も絶え絶えに震えていた。

「どうして返事をしないのですか?」

解っているくせに、この闇は苛む。

細く締まった足首を軽く持ち上げ、頭上へと押しつけた。彼からは密壺の奥地まで覗けるだろう。白磁のような素肌と、たぎり濡れた秘所は対照的と形容するに相

応しい。

「嗚呼・・・なんて美しいんでしょうか。まるで___」

もがく蝶の羽根をもいだよう。

言葉を飲み込み、闇は彼女の肉芽に指を立てた。

「きゃあああぁああっ」

激しくそれを擦られ、なぶられ、転がされる。

さらさらとした流れが勢いよく噴き出し、シーツを濡らした。

「おやおや・・・これはまた。はしたない」

冷たく、突き放すような口調に、彼女は青ざめた。先程まで明らかに快楽を貪っていたはずの表情が、一瞬で悲哀に染まる。

「申し訳ありません、お赦しください・・・!」

弾む呼吸をどうにか調え、めばえは縋りついた。しかし闇は首を横に振るばかりだ。

「いけませんね。罰が必要です」

冷淡其のものの主の声は、低く彼女の耳に届いた。

「・・・何なりと、ご命令ください」

無様にも抑えつけられたまま、彼女はか細く願う。

主は相対的に口角を釣り上げ、にたりと笑った。

「では、正直に仰いなさい」

彼女の髪を甘く掴んで、頭を引き寄せる。

「あなたの、望んだものを」

「でも・・・でも・・・」

「私を愛していないのですか?」

「そのようなことは決して・・・!」

彼女は微かに震えながら、首を振ろうと必死になった。其の仕草が愛らしくて、闇は何時も、彼女を追い詰め過ぎてしまう。

彼は女性の体を抱き上げ、改めて寝かせた。そして股を広げさせ、自身の一物を抜き出す。

「冗談ですよ。お詫びに、可愛がってあげましょうね」

掴んでいた髪を優しく撫で調え、頬を流れ落ちた涙にキスをしたようだった。マントで肝心のシーンが見えない。

だが彼女の悶える顔だけはよく見えた。揺さぶられ突き動かされ、悲鳴を上げる彼女は、主自身に犯されていることを露にしていた。

「あっ、は、あう、あ」

必死に主を求める腕が見える。其の侭闇が彼女を包み込む。

・・・僕の記憶は、其処まで、だった。

 

「・・・というわけなんですよ。おや、信じてらっしゃらない?そうですよね。だって・・・」

 

 

 

「僕自身、信じられませんでしたから。まさか幽霊が実在して、あんなに綺麗な女性とそういう行為をしているなんて」

 

 

 





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復帰第一弾!です。
色々な方に色々な迷惑をおかけしましたが、何とか復帰することが出来ました。
沢山イラストをくださってインスピレーションをくださったたいまー様に此の作品を捧げます・・・★
そして今、此の文章を読んでくださっている総ての方に、感謝を込めて。
此れからも、頑張ります。
作品解説じゃなくて御免ね。(笑)

 

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