何時も遠慮がちなのね。
或いは激しく、揺さぶるだけ揺さぶっておいて。
あたしの中に、出していくのね。
いいのよ。もっと声を出しても。
胸の中に潜んでる其の女の人に、聴かせてあげましょうよ。
あたしとあなたの、愛の唄を。
其処には男女の、情事の残り香。
脱ぎ捨てられた衣服と、乱れたベッド。
丸められたティッシュを屑篭に放って、ニナの朝は迎えられる。
隣に眠っているはずの男はもう、窓際でシャツまで着ていた。彼女の自室では、決して珍しくない光景。
「もう起きたの」
掠れた声で呼びかけると、彼は僅かに振りかえり、笑顔を向ける。
朝陽の中にあっても、其の表情は、何処か哀しげ。
「ああ」
またそうやって、わたしの心を揺さぶるのね。酷い男。
ニナは咽喉の奥へ其の言葉を流し込み、短く告げた。
「そう」
未だ昨夜の酒が残っているような感覚。シャワーでも浴びよう・・・ニナはフローリングの冷たさに眼を覚ましながら、頭を掻いた。
都心の2LDKのマンションのひとつきの家賃は、独り身である彼女には決して安い金額ではない。だが、立地条件のよさと風呂・トイレ別となれば、文句をつけることは出来なかった。
「朝は?食べていくの?」
ニナは廊下に出る前、思い出したように尋ねた。ネクタイを締め、帽子を被る男。
其れだけでも充分な答え、そんな気がしていた。だが想わず、見詰め合ってしまう。
「いや」
名前も知らない、男。調えられた顎鬚と精悍な顔だち。蒼い眼差しが印象深いが、其れは何処となくくすんで見える―――大人の男、の色香だろうか―――。
「気を遣わせて、済まん」
男からは煙草の匂いがした。
"こういう関係"になったのは二度目だが、きちんとした形での交際はしていなかった。
ニナにとって、然程珍しいことではない。相手が求めるならば、あまり断ったことは無かった。まして自室に来るなど、其の時点で契約が赦されたようなものだ。
だが此の男は時折、気紛れのように彼女の元へ戻り、抱いて、去っていく。まるで猫のよう、彼女はそう感じていた。
「待って」
急に、彼から離れるのが恐くなった。
名前も知らない其の男についていくように、慌ててシャツを掴むニナ。羽織り、ボタンを手早く止める。
「見送るわ」
化粧っけがなくとも、彼女のはっきりとした目鼻だちは強さを感じさせた。
だが男は首を振る。
「・・・そう」
ニナは懸命に笑った。不安を拭い棄てるように、手を振る。
「じゃあ、また」
そうはいっても、次には期待しない。裏切られるだけの期待を、誰がするものか。
男は頷き、背を向けた。
「待って」
だから、彼女は引きとめた。
「・・・いかないで・・・」
跪き、男のコートを引いた。其の目は潤み、うっとりと歪んでいるように見えた。淫蕩な仕草、布の隙間から覗く谷間は垂涎もの。白い素肌に這う無数の紅い痕は、彼が愛した証拠。
我侭と解って居ても、彼女に其れを止める術は、ない。
男は黙って見つめ、決して蔑むことはなかった。優しく、そして哀しい眼差しが与えられるだけだ。
「・・・せめて・・・もういっかい」
ね、と見上げる彼女を拒むなど、誰も出来はしなかった。
男は近づき、頭を撫でた。ニナの瞳は涙を湛えており、輝いていた。
妖艶で、誰より愛しい、そう想わせる顔。
其の白い頬を撫で、無骨な指で涙を拭う男。
「・・・名すら、云っていなかったか」
ニナのベリーショートの黒髪を優しくなぞりあげ、彼は口許だけ微笑んだ。
「ディック」
見上げる彼女の口許が、僅かに緩んだ気がした。
「・・・ディック・・・」
眼を細め、ニナは彼へと縋った。
「・・・ディック・・・ディック」
一言でも多く口にしていなければ惜しい。そんな響きだった。
「・・・んぅ・・・」
ディックが遮ろうと試みた瞬間、既に彼女はジッパーを下ろしていた。彼の一物を丁寧に其の手で包み込み、先端に舌を這わせている。
赤黒い肉棒は今までの経験を示しているようだった。青筋が這い、見事な其れは、彼女の唇を醜いまでに押し広げている。
「ん・・・んん」
雁首を含み、口内の柔らかな粘膜で其れを愛撫する。指先では睾丸と竿をゆっくりとなぞり、空いている手では下腹部を撫でていた。
前立腺を如何様にすれば刺激できるのか、どんな表情で精神的にぐらりとくるのか、総てを知ったような彼女のテクニックは、ディックですらも想わず声を上げざるを得ないほどの其れだった。
「気持ひいい?」
髪を撫で、腰を更に沈め、其れを肯定するディック。無心に奉仕を続け、ニナは音をたてて其れをしゃぶった。
「あ・・・っふ」
数分間、其の儀式を行ったろうか。吐き出される欲望の液体。苦いような、塩辛いような、そんな味。
「待って。綺麗にしてあげるから」
ニナは折角止めたボタンをいそいそとはずし、虚ろな目を向けたまま乳房を捧げた。勃ちあがった乳首をつまみ、濡れたディック自身に擦りつける。唾液や残滓までもを拭うと、ニナはジッパーを閉めなおしてやった。
精液の飛び散った頬は、白く光っていた。
「・・・また、会うかも知れないな」
帽子を目深に被りなおし、ディックは彼女を抱き起こした。
そして其の唇へとキスを降らせ、愛しげに深く貪る。
「ちゃんと、シャワーは浴びるんだぞ」
部屋を後にしながら、我ながら恋人のようだ、と、ディックは苦笑した。
名残は、未だ、ニナの胸に刻まれている。
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ずっと書きたかったんですが、中々インスピレーションが湧かずにいた、ディック×ニナでしたが、電機様のところに掲載されていた微エロイラスト(笑)を見て、こう、グッときてしまったので書き上げてみました。
やらなきゃいけないことがあるので、其れを終わらせるまでは自粛しようかと・・・のため、取り敢えず今作品だけはアップ致しました。
快く転載許可くださった電機様に、多謝多謝で御座います〜(礼)