*今回の作品は、壱ノ妙ちゃんの設定がはっきりと解っていなかった段階で書いています(笑)改変・削除など有り得ますが、宜しければどうぞ。

 

 

 

 

 

―――・・・あアァああ嗚呼、アナタ、アナタは何処に居るノ?

 めまぐるしい運動を繰り返す眼球―――正しくは、パーツ。ぐるぐると回り続ける。

其れも止まり、『彼女』はショートする。

唇がかたかたと、揺れながら。  

† 散残華 †

 

 長い白髪が風に靡く。対照的な褐色の肌。国際大ホールの裏口から現れた彼は、マスコミの軍勢からも逃れ、今は町外れの道を一人、歩いている。

武術の心得はあるので狙われる危険性は畏れていなかった。彼は貴族であるが故に、外界と中々接触を持たせてもらえない。特にこんな、爺やや侍女の目を盗んで散歩など、赦されるわけが無い。

カウント・テン。

世界的に高名な指揮者で、若手としては異例なまでの実力を誇っている。

但し、音楽に対する拘りが激しく、そういった話になると突然厳しくなるという、まるで職人か何かのような気質だった。

・・・唐突に、服を汚さぬためのロングコートと、所謂『顔バレ』を防ぐためのホームズキャップをきゅっと締めた。雨が降ってきたのだ。

参った、と想いつつ、彼は路地のちょっとした隙間に入る。既に閉店した花屋の庇が丁度よかった。

「・・・・・・此れは・・・長そうだな・・・。」

暗雲の立ち込める夜空を見上げた。傘の一本でも失敬してくるべきだったろうか。テンは遠く想った。

溜息をついて、何気なしに道路脇を見やる。不法投棄の山。こんなものがあるのかと、彼は本気で驚愕した。

最初其の影から、女性が倒れているのだと想った。ジャパニーズの古い着物を半分だけ着ていたから、まさかレイプにでも遇ったのではないかと、テンは慌てて駆け寄る。

「おい、しっかりしろ!」

抱え起こし、彼は更に戸惑った。

揺られた顔は、白皙の美貌。適度に堀りの浅い、美しい顔。切り揃えられた短い黒髪が濡れ羽色に光っている。

だが其の眼は大きく、深紅。半開きになった目蓋。形の良い唇の口角からは、線が二本走っている。

「・・・・・・・ロボット・・・・・・・なのか・・・?」

だがそうとは想い難かった。触れた感覚は飽く迄柔らかく、男を虜にする其れなのだ。

恐ろしいまでに白い肌。其れもまた、雨の中濡れ、そそるものを感じる。

此の人形は、何か不思議な魔性を揺さぶり起こす。

テンは内側に羽織っていたマントを被せ、抱きかかえるようにしながら走り去った。

 

―――アナタ・・・

暗闇から手を伸ばす。

―――アナタァ・・・

もがいて、壁に爪を立てる。

―――アナタ・・・!

視界に入ってきた世界は、見たこともない場所だった。

彼女は周囲を見渡そうと試みた。だが、未だ躰が動かない。変わりに世界に割り込んできたのは、男。

―――・・・誰・・・?

彼女のデータには存在しない、褐色の肌の異国の男。

羊のような角を生やし、然し其の顔は笑っている。

「・・・気がついたか!・・・そなた、私が見えるか?」

未だぼんやりとする意識の中、彼女は小さく頷いた。

「そなたは、口がきけるのか」

尋ねられ、首を傾げる彼女。

「・・・ァあぅ」

言葉にならない。たしかに伝えられるものがある筈なのに。

「ち・・・みょ」

何かを伝えなければ。言葉にしなければならない。

「いちの・・・みょ」

たどたどしい言葉を、唯黙って聞いている男。真剣な眼差しで、然し優しく頬に触れてくる。

「いちの・・・・・・・・・・みょう、壱ノ妙」

自身の胸元を押さえ、告げる。漸く解き放つことが出来た、言葉。

「・・・そなた、壱ノ妙と云うのか。・・・私はテン。伯爵位を持っているが・・・まあ、あまり気にする必要は無い」

屈託無い笑顔、というのは其れを指すのだろうか。紳士的な優しさを感じた。テンと名乗った男は、そっと壱ノ妙の髪を撫でた。

何か伝えなければ。

此の、新しい主に、気に入ってもらえるように。

―――もう二度と、棄てられないように―――

「ぁう、あ、ァ」

言葉が上手く紡げない。悔しさに哀しくなる。AIのプログラムした其れであると解って居ても、壱ノ妙は感情に狂いそうになった。

「え、ん」

黙って見下ろしてくる伯爵。駄目だ、また棄てられてしまう。壱ノ妙は懸命に舌を動かした。

「テン、さま」

其れまで頑なに見守っていたテンが、動いた。

矢張り私は駄目な人形―――壱ノ妙が諦めかけた其のときだった。

「・・・そうだ。よくやったね、妙」

彼女の『心』に、華が開いた。

 

 壱ノ妙は其れからというもの、テンとの二人きりでの日々を過ごすことになった。

主は紳士的で優しく、ゆっくりと丁寧な教育をしてくれる。そして、気持ちの良いこともいけないことも、何もかもを諭してくれる。

「テンさま!」

未だ今一つ、想った通りの言葉を口にするには舌足らずな声。其れでもテンは、笑って彼女を見つめる。

「如何したんだ、一体」

嬉しそうに微笑まれると、壱ノ妙は、其の瞬間から倖せに包まれる。

もっと此の人と一緒に居て、もっと此の人と想い出を作る。

其れが自分にとって、良い気がしていた。

「テンさま、見てて」

温室で育てられているのは、山茶花。

テンが壱ノ妙に似合うと想い、櫻と迷って、スペースの関係で此方を選んだ。

彼女はゆっくりと其れに近づくと、そっと指先を花の上方に固定する。そして其処から、溢れる水。

―――雨人形、壱ノ妙。

出会った時にも、雨が降っていた。

そして雨を降らせ、止ませることが出来る。

「テンさま、綺麗?」

彼女の指先には濡れた花弁。水圧に落ちた古い華もあった。

「あぁ・・・」

テンは此の日々をうっとりと想いながら、壱ノ妙を抱き締める。

「そうだな・・・・・・」

足元に散らばる。残ったものとが惹かれ合う。華。

そう其れは―――散残華(さざんか)。



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あーん短いですね・・・ふぅ;
凄いテン壱が書きたくなって書きたくなって・・・!
ジズめばと同時進行でやってました。短いのに・・・(死)
紳士×人形最高。大好きです。
此方も三角関係なので、早く続きを書きたくてしょうがないです(笑)

 

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