恋する気持ち

「おお、ラクチェ! 君は何よりも…そう、咲き誇る薔薇よりも美しい…!」
 今日も今日とて、セリス軍に響き渡るようなこっぱずかしい台詞が走る。
 そして。
「うるさいっ! 私に構わないでって言ってるでしょっ!」
 きらきらりん…ずかばしぐしゃぼこばこっ!!
 それに対応する反応も、いつものとおりだった。
「…ヨハン死すとも、愛は死なず…ぐふっ」
 何故か薔薇とかすみ草をバックに背負いながら倒れるヨハン。それを顧みることもせず、ラクチェは怒り心頭といった表情で去って行く。

「いっつも大変ねぇ。もてもてでうらやましーわぁ☆」
 鍛錬場に入ってきたラクチェを見つけて、開口一番言い放ったのは、パティ。ラクチェはパティを見ることもせず、絶対零度の口調で返事をした。
「…羨ましいならあげるわよ、パティ」
 それの何がおかしかったのかは知らないが、パティはけらけらと笑い出した。
「やぁだ、あたしにはもう彼氏がいるもんっ。結構よ」
 思わずかっとなったラクチェだが、すぐになにやら考え込む表情になった。突然の変化にきょとんとしていたパティに向かい、尋ねる。
「…ねぇ。さすがにさ、ヨハンも…私に別の彼氏が出来たら、もう追ってこないわよ…ね?」
「…さぁ? ま、多分そこまで執念深くは無いと思うけどね…保証はしないけど」
 肩をすくめるパティ。
「そう…そうよね…」
 決意を秘めた表情で呟くラクチェに向かい、パティは興味津々といった顔を向ける。
「あ、なになに? まさかラクチェ、誰か意中の人でもいるの?!」
「…秘密だってば!」

 しばらくして、セリス軍の中を、ラクチェの恋人発覚のニュースが駆け巡った。
 相手は、マンスターの勇者、セティ。ちょっぴり意外性に富むこのカップルは、セリス軍のほとんどの者に好意的に受け入れられた。
 このカップルが成立するまで、食事に痺れ薬が混入されたり女湯に痴漢が出たりセティに謎の斧使いが襲いかかったりもしたが、成立してからはかなり平穏な日々が戻ってきた。
「ラクチェ…私は、君の事を守りたい」
「セティ…ありがとう」
 彼氏の前ではすっかりしおらしいラクチェを見て、スカサハとシャナンがそっと嬉し涙を流したとかいう噂もあるが、それはまあ置いといて。

 ついにシアルフィを奪還して、これからバーハラへと攻め入ろうという日の朝、悲劇は起きた。

「ラクチェ…緊張しているのか?」
「セティ…私は大丈夫。セティこそ気をつけて…」
 愛しい恋人の暖かな心遣いを感じて、ラクチェは戦いの前だというのに幸せな気分になった。

 次の一言を聞くまでは。

「ラクチェは可愛いな…私の宝物だ。」

 緑色の光が迸る。
 悲鳴。
 訳が解らないという表情で倒れ込むセティ。
 そして、涙を浮かべ息を切らせているラクチェ。

「貴方も…貴方もヨハンだったのねっ!」
 そう叫んで、ラクチェは走り去った。

 後には、呆然としているセリス軍の面々と、酷く傷ついた表情を浮かべた血まみれのセティが残された。

 一陣の風が、戦場(予定地)を吹き抜けていった…。

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